77話
曲がり角の先は、ちょっとした広場のようになっていて、その先には扉もない通路が見える。部屋の周囲には整然と篝火が焚かれ、所々に木や骨なんかで作られた私とは趣味の合わない装飾が施されている。高い天井には鍾乳石がぶら下がっていて、眼下には一際悪趣味な装飾の施された椅子?のようなものが置かれていた。
部屋全体の雰囲気と配置を見ればおそらく王座のつもりなんだろう。
オークらしき魔物はその玉座の前で、何するわけでもなく私たちに背中を向けて立っていて、その手には釘バットみたいな大きな棍棒。
私たちはその王座の後ろ側の少し高い位置に掘られた横穴からそれを見ている形だ。
二人の騎士はハンドサインで何やらやり取りすると、タイミングを合わせて横穴から飛び降りた。
金属製の鎧をまといながら、カチャリとも音を立てずに着地した二人は、そのまま間髪入れず左右に分かれオークとの距離を詰めていく。
先手を取るのは若い方の騎士。
音もなくオークの右後ろに駆け寄ると、大きく剣を振りかぶり、「フッ!」 と小さく息を吐くと同時に、オークが武器を持つ右腕めがけて剣を薙ぎ振った。
”ガキン!”
と、岩にでも叩きつけたような乾いた音が広間に響く。
オークのもつ武器に剣が当たったわけじゃない。確かにオークの腕を捕らえていたはずのその剣は、防具も何もない生身の腕に弾かれていた。
さすがに予想外だったんだろう。剣を振った若い騎士はもちろん、左側から回り込んでいたもう一人の騎士も思わず足を止めて一瞬その場に固まった。
「フゴッ?」っと、右腕に衝撃を感じたオークはゆっくりと振り返る。
顔の殆どを占める大きな一つ目をまんまるにして、きょとんとする姿がチョット可愛い。
「なにかしたの?」なんて言わんばかりに、首を傾げながら若い騎士を見るオーク。
振り返ったオークと目の合った若い騎士は、剣が弾かれたのが余程ショックだったのか、ヘナヘナとその場に座り込んでしまった。
「サ…」
それと同時に、もうひとりの騎士は気を取り直して再び動き出し、ジャンプするとオークの首筋めがけて剣を振る。
”ガシュ!”
っと響く音は、砂の山を切りつけたような音。
「サ…」
ビクッ! と肩をすくめたオークは、切りつけられた首筋に手を当てた。
「サイクロプスだぁぁぁぁ!!!」
そう叫んだ若い騎士は騎士は、その場を離れようと四つん這いで逃げている。
もうひとりの騎士は、着地と同時にオークの足首に剣を振ったが、僅かに血が滲む程度の傷しか与えられていなかった。
オークは再び ”ビクッ!” と、切られた片足を上げる。
大きな1つ目で足首に滲む血を見つけ、首筋から流れる血がついた手のひらを見て、
「ガァァァァァァァァァ!!」
と、怒髪天を衝く叫びを上げた。
完全に戦意を失っている若い騎士とは対照的に、もうひとりの騎士は剣を構えて対峙している。
(サイクロプスって言うてるけど…もしかして神話のあれ?オークちゃうの??)
私は、不意に出された神話に出てくる魔物の名前に、緊張感もなくそんな質問を投げかける。
『アァ、ソウミタイダナ。俺の時代に絶滅したと思ってたが、まさか生き残りが居るとは驚きだ。もっとも、アイツはまだサイクロプスとは言わねぇけどな』
どことなく棒読み気味の言葉が気にかかるが、それを突っ込むのも今更だ…
(ん?どうゆうこと?)
『普段の身長が2メートルまでをサイプス、4メートルまでをサイクロス、それ以上大きいやつをサイクロプスと呼ぶんだ。あのサイズならまだサイクロスだな。』
(そんな出世魚ちゃうねんから…)
『カハハ、大きさが変わったくらいで名前が変わるのは大げさってか?まぁ黙ってみてろ』
嬉しそうに笑うアデルの言葉に、意識をサイクロスに戻す。
武器を構える左側の騎士を前に、サイクロスは鼻息荒く手に持った武器をブンブンと素振りする。
「立てエフモント!そんなことでローモス連邦騎士教導隊員を名乗るつもりか!! ここは俺が引き受ける、お前は直ぐに応援を呼びに行くんだ!!!」
武器を構える騎士からの激で落ち着きを取り戻したのか、若い騎士は一つ息を呑んでから、私の方に走り出した。
「ガァァァァァァァァァ!!」
と再びサイクロスが叫ぶ。
動き出した若い騎士を見て、反射的にサイクロスは後を追う。
”ゴシュッ!”
と、もうひとりの騎士がその出足を剣で薙ぐ。
足を引っ掛けられたサイクロスは、ケンケンパ とバランスを立て直し、足をかけた騎士を睨み返した。
なんというか、仕草がいちいち私のツボを付いて愛らしい。
「アガァァァァァァァァァ!!」
サイクロスは残った騎士に駆け寄っていき、巨大な釘バットを叩きつける。
足の速さはそれ程でもないが、武器を振る速さは強化された私の目でも残像が見える程だった。
大きなバックステップでそれを躱す騎士。
振り抜かれた釘バットが地面に穴を開けたのを見て、すばやくサイクロスに近づくと、二の腕の内側めがけて剣を振る。人体であれば柔らかく動脈に近い場所だけど、魔物といえどもそれは変わらないようで、さっきとは違い、切れたと言えるだけの傷を与えた。
「来い。お前が伝説の存在だというのなら、俺がその上に立ってやる」
騎士は一度距離を取ると、剣を肩に担いでサイクロスを挑発した。
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まだまだ手探りで書き進めていますので、忌憚のないご意見ご感想、お寄せいただければ幸いです。
稚拙な文章で読みにくいとは思いますが、生暖かく見守って頂けますようお願いします。




