74話 デニスの偏見
自分の名はデニス・ローデヴェイク・ハーンストラ。ローモス連邦騎士団教導隊隊長を務める者です。
この度、ノヴァリア聖国に付け狙われ、我が国に避難してきた少女の護衛を、連盟主直々に要請されました。
さほど年の変わらない娘を持つ親として、あの面倒な国に付け狙われるノエラという少女に同情を覚えますが…一人の騎士としては、我らが騎士団の尊厳に関わる今回の要請に、正直あまり良い印象を持てません。
一度そんな印象を持ってしまうと、学内での成績を見てみても格段に優れた所は特になく、部下達が騒ぎ立てているその容姿で、レグレンツィの王を誑かしているのだろうか?等と邪推までしてしまう有り様です。
とはいえ、こんな感情に気を取られ任務に支障をきたす方が、汚点となってしまいます。
どうせなら、噂に聞くのノヴァリャ聖国の勇者でも現れてくれれば、後世に残る話にもなり得るのですが…
「これは…相当に気を引き締めんとならんな」
そんな思いも込めてつぶやいてみました。
校外実習当日を迎えます。この学年の教育担当者に、ノエラという少女が集合場所に姿を見せ次第教えるようにと言ったのですが、
「そんな必要なく、来れば一目でそうだとわかりますよ。」
何て返されてしまいました。
…全く…その自信がないから聞いているのに…老いたと笑われそうなので口には出来ませんが、この歳になると少女の顔は皆同じに見えてしまい、娘以外の区別がつきません。
正確には、なんな娘に見えてしまうといったほうが正しいでしょうか…。
しかし数分後、そんな心配も杞憂に終わりました。
人の好みなんてものは、それこそ10人いれば11種あるような物です。
皆が騒ぐのも、多数意見が引き起こす錯覚のようなものだと考えていましたが…これは確かに考えを改めなくてはなりません。
しかし同時に感じたのは、乱心する王が出ても仕方ないと思える危うさで、少女への好感度がまた一段下がってしまいました。
生徒たちに知らされてはいませんが、実習地にたどり着くまでの行動も採点対象になっています。
リラックスした状態の生徒たちを評価する為、短い時間の間に、担当する5人の班員全員を均等に見る必要があるのですが、気づけばノエラ君を目で追って居る自分にハッとして、幻惑魔法でも掛けられているのか?なんて突拍子もない発想をしてしまいます。
実際のところは、通る声で独特の訛りのある言葉を話すので、ついつい意識が惹かれてしまうのでしょう。
半ば自分に言い聞かせるようにそう結論付けて、それ以上深く考えることはやめました。
教導隊員として評価に私情を挟むのはあるまじきことです。しかし当初は相当低かったはずの私的好感度が、知らず知らずのうちに特に理由もなく上方修正されるており、その感覚がとても恐ろしく心を無にしようと決意する必要がありました。
人はこうして人間不信になっていくんでしょうか?
年甲斐もなく、ついそんなことを考えながら歩いていたその時です。
索敵能力を持つと言う二人の少女が同時に声をあげました。
同時に発せられる全く別の言葉。
一人は振り返り、自分達に何かを伝えようとしたようですが、声が重なりうまく聞き取ることができません。
驚いたように互いに顔を向き合わす少女たちが少し滑稽で、隣にいる若い騎士もクスリと笑いをこぼしてしまってます。
後で注意する必要が有りますが、僅かに聞こえた魔物と言う単語を聞き漏らさず、剣に手を掛けて居るのは及第点でしょうか。
前を歩く生徒達の視線が我々の方に向き直ります。
居ないことに成っている自分達は、不測の事態に備え後方を警戒しつつ、左右に拡がり生徒達の視界を確保しました。
振り返り様に視界の隅でなにかが素早く動きます。魔物?ではなく、あの位置は恐らくノエラ君でしょう。
かと思うと、淡く光を放つ小さな物体が目の前を通りすぎ、自分が振り替えるより速く何かを仕止めたようでした。
その後灯りが投げ込まれ、息絶えた魔物が確認されました。
恥を忍んで正直に言いましょう。
度肝を抜かれ、言葉を失ってしまいました。
皆はストーンリザードが居たことに動揺しているようですが、そこじゃないでしょう?
ノエラ君がやったと思われる一連の動作に、何故誰も言及しないのでしょうか?
投擲技術だけを取っても、一流と言われる者の上を行く技術です。
更に、暗闇にいた気配を感じ取ることが難しいストーンリザードを一投で仕留めるなぞ、業務がら幾人もの天才を見てきましてが比類出来る者は居ないでしょう。
若い騎士はその索敵能力に興奮しているようですが、自分としては、天才なんて言葉じゃ説明しきれないノエラ君に不気味さすら感じてしまいます。
そんな不気味さを通り越し、ノエラ君に心底敵対したくないと感じたのは、わずか数時間後のことでした。
ストーンリザードが確認された以上、学生達に洞内を行動させるのは危険です。
どのパーティーにも、教導隊員と臨時講師の騎士が付き添っていますが、その彼らでさえも、居ない筈の場所で不意を打たれればどうなることか分かりません。
洞窟から出た自分達は、急ぎ他のパーティーに連絡するため編成をしました。
本来ならはここで学生に同行を求めるのは有り得ないことです。
しかしながら、極秘裏に依頼された任務の為にはノエラ君から目を離す事は出来ません。いや、それでも本来ならば同行させなかったでしょうか?
ノヴァリャ聖国に付け狙われているとなれば、いかなる時でも油断できませんが、それでも準備不足のままストーンリザードの生息圏に入るよりは幾分かマシだと言うのが通常の判断でしょう。
あの投擲を見てなければ、恐らく同行は求めていなかったと思います。
この時はまだ、とてつもない実力を隠しているだけの不気味な存在。と、言う感じでした。
有り体に言えば、もう少し手の内を知れば勝てるだろうと…。
しかし行動を共にするにつれ、手の内を見るどころか、ますます不気味さが増していきます。
不気味さを引き立たせる行動の1つとして、索敵の仕方でしょうか?
直感型索敵能力のと言いながら、其の行動はまるで索敵魔法を使っているかのように見えるのです。勿論索敵魔法が使えるほど時間を費やしている訳ではありません、しかし、立ち止まらないと索敵出来ない直感型索敵は例がなく、意味が分かりません。
まぁ、理由付けするとすれば、直感が優れているからこそのデメリットと捉えることも出来るのですが……其の行動がどんどん短縮され、精度を増していく様に頭は混乱していきました。
そして、遂に決定的瞬間を目撃してしまいます。
前を歩くノエラ君が、突然「フフン」と得意げに鼻を鳴らしました。
つぎの瞬間目に飛び込んできたのは、若い騎士の頭上で見えない壁に阻まれる線状の液体。
視界の隅にストーンリザードらしきものが見えたと、視線を上げた瞬間、黒い小さな球体がストーンリザードを飲み込みました。
既に若い騎士の頭上にも、液体が存在した気配すらありません。
全ての事が一瞬過ぎて、自分自身見間違いであって欲しいと望んでしまいますが、国内最強の騎士と呼ばれる自負があります。
この目で見てしまったものは否定できず、魔力が存在しないと言ったノエラ君が放った、見たことも無い魔法に只々恐怖を覚えました。
まるで何事もなかったかのように振る舞いながらも緊張するノエラ君の背中を前に、無反応を貫き通せた自分を誉めてやりたい思いです。
ブクマ及び評価有難うございます。
まだまだ手探りで書き進めていますので、忌憚のないご意見ご感想、お寄せいただければ幸いです。
稚拙な文章で読みにくいとは思いますが、生暖かく見守って頂けますようお願いします。




