72話
捜索は順調に進んでいった。
日付はすっかり変わってしまったが、ちょっとした迷路になっているこの空間で気配を殺しながら移動する移動する者たちを探していることを考えれば、順調すぎると言えるらしい。
鉄格子を開け、洞窟に入って最初の分岐点まで歩くと、アデルは時間をかけて広げられるだけの風船を広げる。
数キロにも及ぶ風船から得られる情報はさすがに処理しきれるようなものではないけど、数人で集まる人型という事に重点を置けば見分けることも可能で、大凡の距離と道順をなんとなく理解することが出来た。
目的地が分かれば、後はストーンリザードだけに気をつけて進めばいい。
アデルは半径200 Mくらいの風船を2秒程度で展開する。なので魔物側も移動することを考慮して100 m ほど進むたびに、10秒ほど立ち止まり索敵しながら進んできた。
アデルはそれを10回ほど繰り返すと、早くも「毎回展開するのはめんどくせーな…」何て言いながら風船を常に展開しながら歩くようになった。
最も、それで立ち止まる必要がなくなったわけじゃない。風船の膜に伝わる動く物と動かない物の差を読み取っているだけなので、立ち止まり気配を探る作業は結局同じだ。
そんな地道な作業を何百回と繰り返し、3組目のパーティーと合流して外に出る。
「ふ~…」と大きく息を吐き、もうひとがんばりと気を張り直した。
ここに生息してる魔物は謙遜しても脆弱で、索敵魔法のお陰で不意を打たれる事もない。
その上その魔物も、騎士団員達が全て一撃て処分していくので、端から見れば私は只歩いてるだけだ。
とはいえ風船の反応を探るためだけでもそれなりに神経はすり減っていく。
アデルに全て任せても問題はないんだけども、それをしてしまったら自分がただの入れ物だと認めるような気がして居心地が悪い。
その日暮らしの生活に不満があったわけじゃないけど、今さら戻せと言われてもうんとは言いがたいのが人情で、そんな思いに気づいて以来自分の無力さがとても辛い。
5分程度の短い休憩の後、最後の組が入った鉄格子を開け、アデルに体を明け渡す。
アデルは、自分の考えていた魔法がすでに実現されていたのが不満だったみたいで、更に改良を加えるため色々実験している様だった。
いつもの様に頭の中で溢すように呟いている独り言がとても楽しげで、それが妙に鼻にかかるのは嫉妬と八つ当たり以外の何者でもない。
(アデルそろそろやで?)
一歩を50センチと換算して二百歩を目処にして索敵すと決めていた。
魔法の改造に集中するアデルに代わって私は只の万歩計と化す。
『お?そうか…ちょっと待てよ…よし。』
アデルはそう言って結界を張りなおした。
結界というのは他でもない魔力の風船のことだ。私が風船と呼んでいたら、そんなダサい名前をつけるなと怒られて、結界と呼ぶよう義務付けられた…。
私としては結界と呼ぶ方が名前負け感が強くて恥ずかしいと思うんだけど…。
『カハハ!やっぱ天才だな俺は!』
アデルが突然、頭の中で興奮気味にそう叫ぶ。
(何?いきなりどうしたん??…えっ?!)
前後を歩く騎士の鎧の硬さや冷たさ、ほんのり温かい露出した肌のきめ細かさや、髪の毛のしなやかさ、今までになかったそんな細やかな感覚までもが、全身に伝わってくる。
今まででも十分恥ずかしかったけど、今の感覚と比べると低周波治療器に当たってるような感覚だ。
全身に感じられる、手のひらよりも敏感かもしれないその感覚は、全裸の私に周囲の物全てがひっついてきたような感覚を覚え、思わず服を着ているか確認してしまった。
『少し情報量が多すぎるような気がするが、これならいちいち立ち止まる必要はないだろう?』
アデルはそう言って、ふふんと得意げに鼻を鳴らす。
その部分は無意識だったのか、私の体も同じように鼻を鳴らしていて、前を歩く騎士団員に振り向かれてしまった。
その時だ、
前方の頭上から、生暖かい液体が勢いよく吹き出されるのを感じた。
(アデル!!)
考えるより先に頭の中でアデルの名を叫ぶ。
『チッ』と、アデルは自分の舌打ちが響終えるよりも早く、私たちの周りにバリアを形成した。
液体がバリアに阻まれると同時に、『潰れろ』とアデルが小さく呟く。
小さな小さな黒い玉が2つ、ヒュン!と勢いよく飛んでいき、1つはバリアの上に広がった水分を、もう1つは天井の岩影から液体を発射した主を吸い込んで消えた。
(……今のストーンリザードよね…?)
『……だな…魔法の成功に少し浮かれちまったみたいだ…。』
(いや……私も肌の感覚でいっぱいいっぱいやったわ……)
アデルは私の頭から頭を出して後ろの様子を伺う。
『大丈夫だ、後も気付いてる様子はねぇ。』
後ろを歩く騎士に魔法が見られてないか、確認してくれたみたいだ。
(なんや珍しい。魔法がバレるの気にしてくれるなんて…やっと私の気持ち理解してくれたん?)
『あぁ?索敵任されて見過ごしましたなんて、俺のプライドが許すはずねぇだろ。』
(……なんやそれ…事実見過ごしてんねんから手遅れやん)
『バカ、誰にもバレずに処理できたのなら、そんな汚点は存在しないって事になるんだよ。』
(それはプライド違って見栄やろ!)
『カハッ!なかなか上手いこと言うじゃねぇか!』
そんなやり取りをしながらも、さっき迄より更に気を引き締めて進んでいく。アデルじゃないけど、頼まれた以上はミス無くこなしたい。
四時間程歩き続けて、ようやく最後のパーティーと合流することが出来た。
「皆、疲れているのは分かるが何とか頑張ってくれ、今は一刻も早く洞内を出たい。ストーンリザード対策がノエラ君頼みな現状では、洞窟内にとどまる時間が全て彼女の負担になってくるからだ。」
騎士団員の言葉に皆は気持ちよく頷いてくれる。
確かに私も20時間近く歩き続けているが、彼らも又、時間的にはそろそろ夜営の準備にかかる頃合いだったので、疲労感は大きいと思う。
「ノエラ君。現役の騎士が四人も居て、満足に休憩も与えられずに本当に申し訳ない…」
そう言いながら、私の班にいた騎士団員の二人は、執拗に私の身体を気遣ってくれる。
実際の所、アデルがちょくちょく回復魔法をかけてくれているので、肉体的疲労感は全くない。
言葉に出すことはできないが、重い甲冑を身に付けたまま、本当に休み無く歩き続けている騎士の二人に本物の凄さを実感させられた。
『ノエミ分かるかこれ?』
引き返し初めて⅕位進んだ頃だろうか。
アデルがそんな声をかけてきた。
(うん、わかるけど…なんなんこれ?行きしは居いひんかったよね?)
『多分トロール辺りだな。行きに感じなかったのは、さっき迄よりも索敵範囲を拡げたからだろう。』
体長3メートルは有るだろうか?腰蓑を纏っただけのような、筋肉質な人形の気配を感じる。
直接繋がってる様な脇道なんかは見当たらないが、恐らく小さな穴で繋がってるんだろうとアデルが言った。
ブクマ有難うございます。
まだまだ手探りで書き進めていますので、忌憚のないご意見ご感想、お寄せいただければ幸いです。
稚拙な文章で読みにくいとは思いますが、生暖かく見守って頂けますようお願いします。




