70話
「これは…ストーンリザード?!」
私が最初の投石で倒したトカゲと、エトが切って倒したトカゲ、二匹のトカゲの死体を見比べながら、騎士団員達は何やら驚いた様子で言葉を零す。
ストーンリザード?なんて名前が付けられている割にストーンしてない。真っ黒の背中はテカテカしいて張りがあり、とても石っぽくは見えないし、赤い腹部も相まって、まんまイモリみたいだ。
「ノエラ君と言ったかな、君はもしかして探知魔法が使えるのかな?」
騎士団員の一人が、手にした採点用のボードをチラチラ見ながら聞いてきた。
(でた探知魔法。存在しない筈の魔法をいきなり疑われるとは…まぁあの動作を見ればそれも仕方がないか…)
とはいえ、当然そんな魔法の存在を認めるわけにはいかないので、
「いやいや、まさかそんな魔法だなんて、なんとなく居る様な気がしただけの単なる感です。確実性もなんもない偶然ってやつです。」
そんな風に言い切った。
「彼女は魔力が無いため、魔法を使う事が出来ません。代わりにとても優れた洞察力を持っているのでそのお陰でしょう。」
なんて、追い打つようにフォローしてくれたディルクの存在が有難い。
「おいおい…探知魔法を使わずにあの制度だと…?!」
「いや、探知魔法だとしたら展開から判断までが早すぎる。それに一匹目の事を考えれば常時展開していた事にもなるぞ?」
「それもそうか、探索魔法を常時歩きながら展開する何て事に比べたら、直感だという方が現実的か…」
「まぁ、探索魔法を上回る性能の直感が現実的かは置いとかなきゃいけないがな…」
ディルクの援護に気を良くしていると、騎士団員の二人がなにやら不穏な会話をしていた…
「ねぇ…探索魔法って使える人居るの?」
隣に立つシルケに、ソッと耳打ちして聞いてみた。
「ノエラの国には居なかった?この国は鉱山国家だからね、探索魔法は採掘士にも重宝されてるから、習得しようとする人は多いかな。それでも、難しい魔法だから沢山居るとは言えないけどね。」
「ふ…ふ~ん…そうなんや…」
「皆聞いてくれ!申し訳ないがストーンリザードが出た以上、今回の演習は中心しなければならない。詳しい説明は移動しながら話すので、今は直ぐに入口まで移動してほしい。」
シルケの話に若干動揺していると、騎士団員の一人がそう言った。
私達は互いに顔を見合わせると、アイコンタクトで頷き合い騎士団員の指示にしたがって、来た道を戻り始める。
騎士団員の二人が先頭と殿を勤め、私達を守るよに進む様を見て、アデルが言う以上にあのトカゲは厄介だったみたいだ…。
「騎士殿、それほどまでに警戒されるストーンリザードとはどのような魔物なのか教え願えますか?」
歩き出して早々にディルクが訪ねた。
「そうですね、ですがくれぐれも周囲への警戒を怠らず聞いてください」
先頭を歩く騎士団員が、後ろを振り返る事なくそう言って説明してくれた。
ストーンリザードの名前の由来は、それが持つ麻痺毒によるものらしい。
両耳の前にある小さな突起物から水鉄砲のように発射され、毒液が触れた周囲15センチ余はわずか数秒で完全に麻痺してしまう。直接浴びなくても縫い目から侵入した一滴ほどの雫でその効果を発揮すると言うので厄介極まりない。
更にその麻痺は、ゆっくりと時間をかけて全身に広がっていき、半日ほどで全身が麻痺してしまうらしい。自律神経に麻痺が及ぶことは無いそうで直ぐに命にかかわることは無いというのが幸いだろうか。
但し、点滴も存在しないこの世界では治療出来ない限り、ただ衰弱していくしかない。
厄介な事に、その麻痺は既存のどの様な毒消しでも治療できず、一本数千万するエリクサーと呼ばれる部位欠損すら回復する貴重な薬でのみ直すことが出来るのだと言う。
それはさながら、お伽話にある石化の呪いのようであることから、ストーンリザードと呼ばれることになったんだそうだ。
余談として、その様な性質の毒を持つ理由は、生き餌として体内に卵を産み付ける為だ話してくれた。産卵から2週間程で孵化する卵は強固な殻を持ち、生き餌が他の生物に喰われたとしても、消化されること無く排泄されるか、体内で孵化し内部から食い破って出てくるらしい。最も、排泄された卵は孵化した後、餌にありつけず直ぐに死んでしまい、体内で孵化した場合も消化液で大半が死んでしまうので、種としての全体数は少ないんだそうだ。
そんな話を聞いて、皆は揃って息を飲む。
けして油断していた訳じゃないが、更に気を引き締めて周囲を警戒する。
エリクサーは、お金があれば必ず買えるものではない。精製方法が特殊なため市場に出回る数は少なく、保存期間も永くはない為、王城にも1~2本の在庫しか置かれていないだろう代物だ。
本当に必要なときに手にすることが出来るか?そんな意味も含んで奇跡の薬とも呼ばれていた。
王様や貴族といった人種ならば、つきっきりの看病で延命することは可能だが、そんな経済的な余裕がある者はほんの一握りで、法によって安楽死も認められている案件だ。
武器を握る手にも自ずと力が入った。
「まだ終わりじゃ有りませんよ?」
動揺する私達に、騎士団員はそう言って付け加える。
「ストーンリザードは素早いと言っても、先程のように居場所が分かっていれば、訓練した者なら何とか出来る程度の魔物です。それでも我々が恐れるのは、隠れ潜んだストーンリザードを見つけるのは探知魔法以外では出来ないからなんです…」
シルケの気配察知の能力は優れては居るが、騎士団や冒険者全体で見れば、中の上と言った所で、もっと優れた気配察知を持つものが何人も居るらしい。しかしその様な者達でさえ、襲いかかってくる瞬間まで察知できないのがストーンリザードなのだという。
唯一事前に察知する術は探知魔法での索敵だが、使い手自体が少なく、世界的に数が多いとされているこの国でも、民公合わせても三桁も居ない。更に通常は、優れた者でも1M魔力の風船を広げるのに1分程度の時間がかかり、魔法の性質上術者が移動することも出来ないうえ、探知したとしてもそれがどの様な魔物なのかは大凡の大きさ以外わからない。
そもそもが、小さな隙間の先にどの様な空間があるかを調べるために開発された魔法だ。
お世辞にも魔物討伐向きの魔法とは言えなかった。
「そう言った訳で、手間と被害数を天秤にかけた結果放置せざるを得ない存在だ。しかし、ノエラ君の能力が本物なら、その優先順位はぐっと上がる。君は炭鉱で働く者の唯一無二の救世主となる可能性をもっているんだよ。…ところで君は卒業後の進路はどのように考えているのかな?」
前を向いたままそう話す騎士団員の声には、有無を言わせない雰囲気を漂わせていた。
「えっと…進路と言われましても…」
「ハハハッ、騎士殿残念ですがノエラはレグレンツィ王国からの留学生です。お気持は分かりますが、直ぐに士官する事は叶いませんよ。」
詰まる私を見かねて、ディルクが助け舟を出してくれた。
「なんとそうでしたか。レグレンツィといえば、最近勇者様も誕生されたとの噂。ノエラ殿もしかり、これ程優秀な人材が揃っているとは、同盟国として頼もしいですな。」
騎士団員はそう言って高笑いした。
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まだまだ手探りで書き進めていますので、忌憚のないご意見ご感想、お寄せいただければ幸いです。
稚拙な文章で読みにくいとは思いますが、生暖かく見守って頂けますようお願いします。




