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69話

ディルクとエトを先頭に、真ん中にアニカを置いて、シルケと私が殿(しんがり)を務める。

最も、更に私の後ろには教導隊員の二人が付かず離れず見守っているので、本当の意味では違うんだけども、訓練の場でそんな事は気にしちゃいけない。


「ねえねえ、このさ…居るのに居ない事にするのって、なんだか気持ち悪くなってこない?」


シルケがソッと肩を寄せてきて、ひそひそと耳元で囁いた。


「う~ん…私の場合それはそれと割り切っていれば大丈夫かな?」


シルケは勘の鋭い子で、まさしく気配としか言いようがないものを感じ取ることができる。

どれぐらい感じ取れるかと言うと、締め切った教室の外側から、中に何人隠れているかほぼ言い当てられる程だ。私に言わせれば超能力としか思えない。

その横にいる私も、勘が鋭いということで殿を任されているが、実際のところはアデルが教えてくれるから分かるだけで、シルケの様な玄人に同意を求められても答えに困る。

なので中途半端に同意せず、初めから別の感覚なんだと、ある意味本音で装うのが私なりの対処法だ。


「そっかぁ、流石だねぇ」


ただ、こうして本気で感心されるのが毎回辛い。




『ノエミ、後ろから魔物が来るぞ。』


(えっマジで?!)


暫くキョロキョロと周囲を見回しながら進んでいると、アデルがそんな警告をしてくれた。


『小型の奴だから岩の隙間にでも隠れてたんだろうな、よく見ればチョロチョロと後ろを着いて来てやがる。』


そんな言葉を聞きながら、今度はシルケの様子をうかがう。


『そいつなら多分気づいてるぞ、ただ相手が小さいからな、敵と判断するか迷ってるって所だろ。』


アデルは私の意図を直ぐに読み取って、そんな助言もしてくれた。言われてみれば、確かに時々後ろを気にするような素振りを見せている。


『小さい魔物だからってなめるなよ?見た目は20センチくらいの少し大きいトカゲにしか見えないが、かすれば立ってられないくらいの即効性の麻痺毒を持ってる奴だ。その体の小ささも相まって不意を突かれれば俺でも対処を間違いかねない相手だからな。まぁ、お前が目立ちたくないと言うなら、二人で同時に言ったらどうだ?お互い同じ事で詰まってるんだ、簡単なアイコンタクトでタイミングを合わすぐらいできるだろ。』


(…そやなぁ…そうするか…)


何だか妙に気の効くアデルに気持ち悪さを感じながらも、皆の身の安全がかかってる以上無下には出来ず。

熱い視線を送っていると、ほどなくしてシルケが気付き目と目が合う。


(シルケ、自信持って言うたらいいで)


(でも、あれぐらいで大げさだって言われないかな?)


(それはないわ。たとえどんな相手でも言わへん方が問題やろ?)


(それはそうだけどさ…ねね、それじゃ一緒に言わない?)


(うん。シルケがそれで良いならそうしよう。)


お互に、回りに気付かれないよう、目線や小さなジェスチャーで意思疎通する。シルケの言葉は私なりの変換だけど、言ってることはおおよそ合ってると思う。

出会ってからの期間は短いが、その間の密度は誰よりも長いと自負してる。

私たちは目線だけで、抜群の呼吸でリズムをとってタイミングを合わせる。


(行くで、セーノ)

(いくよ、セーノ)


(ディルク!後ろから魔物がくるで…)

(騎士団さん!もう少し離…)


((えっ!))


私は前方のディルクの方、シルケは後方の騎士団の方を見る。二人はそこから、互いの全く別の言葉に驚いて向き合い直す。

前方の3人が、素早く振り向き武器を構える中で、互いに信じられないものを見るような目でただ見つめ合う。


とはいえ、そんなのは傍から見れば一瞬で、次の瞬間には私の体は足元の小石を拾って、騎士団員たちの方へ投げつけた。


ほのかに光りを帯びた小石が、騎士団員達の脇を抜け暗闇に軌跡を残しながら飛んでいく。

“パンッ”と、小さな火花を散らして小石がはぜた瞬間、”キュッ”と、小動物の声も聞こえた。


今度はその辺りに向かって、魔法で光る玉が投げ込まれる。

以前アデルが使っていたのと同じもので、おそらくアニカの魔法だろう。

照された付近で何かが動くのが目に入り、同時にディルクとエトが駆け寄っていく。

アニカが私の前に回り込むのと同じタイミングで、少し出遅れていたシルケが動きだし、ディルク達とアニカの間を守った。


騎士団員達は、既に私の後ろに移動している。さっきまでとはグルリ180°回転した隊形だ。

息を潜めたトカゲ達に前方は膠着状態で、私の目の前では、アニカの頭に立つような形で、私の体から出たアデルがニヤニヤと笑ってた。



皆の眼には、一瞬何かが動いた用に見えただけで、魔物が何処に行ったのかは分からない。

重苦しい膠着状態がしばらく続いた。


「シルケ、ノエラ。魔物の気配はまだあるか?」


あまりの動きのなさに、しかし警戒を解く根拠もない為、ディルクは私たちに意見を求めた。


「う~ん、ごめん…私はノエラに言われても気配に気づけなかったかったから何とも言えない」


(えっ!)


シルケの言葉に迷わずアデルを睨みつける。

ニヤニヤと笑っているアデルの顔を見て、確信犯だと察しがついた。


(はめられた?)


アデルの顔からそんな不安が頭をよぎる。

とはいえ、今はまだ偶然魔物の存在に気付いただけで、何となくそんな気がしただけだと言い張れば済む話だと考えて、文句をぐっと飲み込んだ。


(…どうなんアデル、まだ居るの?)


色々言いたいことを飲み込んで、下手に出て聞いたというのに、


『どうだろうなぁ?もうとっくにどっか行ったんじゃねーか?』


なんて、明らかに参考にならない口調でアデルは言った。


(…ちょっと、あんたが言い出したことなんやから、ふざけてんと最後まで面倒みいや。)


『そうは言ってもな、さっきはたまたま見えただけだからな。魔法が使える生身の体がない以上、お前と一緒で目で見て判断するしかできねーよ』


ニヤニヤと開き直った態度に、挑発の意味を感じながらも、ついついのせられて言ってしまう。


(その口調やったら魔法が使えたらどうとでもなると言いたげやんか?)


以前に探知魔法は存在しないと言っていたのは、他ならないアデル本人だ。


『試してみるか?』


(ぐっ…)


その癖自信満々のアデルの態度に、敗北感と不安を感じてしまう。


『悪いようにはしねーから心配すんな』


言葉を無くした私に対し、ポンポンと頭を叩くふりをして、アデルは私の中に入ってくる。


「ノエラどうしたの?」


同時に、反応のない私に見かねて、シルケが声をかけてきた。


「『今からがいいところだ、お前ら少しの間動くなよ』」


アデルはそんな事を言いながら、両手をピンと左右に伸ばして、皆の動きを静止した。


(だから言い方…)


私自身、何度言ったかわからないこの言葉。

アデルはもちろん聞いちゃいない…


『いいか?こうやって薄く張った魔力の膜を風船を膨らませるみたいに拡げていくんだ。』


いつになくノリノリのアデルは、説明を交えつつ実演していく。

しばらくすると、目には見えない魔力の膜が触れた物の形状が、何とも言い難いゾワゾワとした感覚で伝わってきた。


(何これ…鼓動?)


トクトクと、一定のリズムで脈打つ皮膚の感覚が伝わってくる。

その感覚は何と言うか、みんなを大きく包み込むような感覚で、無理やり何かに例えるとしたら、体の柔らかい皮膚の部分でその鼓動を感じ取るようなものだろうか?

全員を包み込んだ私は、当然ディルクの鼓動も感じ取り、なんだかとても気恥ずかしくなってしまった。



(あっ、これかな?)


『あぁ。恐らくそうだろうな。』


ゾワゾワした感覚と、妙な気恥ずかしさに耐えていると、とても小さな鼓動が伝わってきた。

その感覚に集中するとおおよその距離と方向が感じ取れる。


「『あの岩の下だ』」


アデルな私がそう言って指差す岩に、ディルクが大きめの岩を叩きつけ、たまらず飛び出てきたトカゲをエトが一振りで切り裂いた。


(…ほんまに居たわ…前はこんなこと出来ひんて言ってへんかった?)


『ふふふ。必要な微調整が出来なかっただけでな、理屈は昔から考えてたんだ。構想はあっても試せなかった魔法はまだまだたくさんあるからな。これからは、この探知魔法みたいな世界中の奴等が度肝を抜く魔法をどんどん開発してやるぜ?』


アデルは見たこともない、嬉しそうな顔でそんなことを言う。


(…程々にしといてや…)


そんな顔を見て、やめろとは言えなかった私は、きっと後で後悔するんだろう……。



ブクマ有難うございます。

まだまだ手探りで書き進めていますので、忌憚のないご意見ご感想、お寄せいただければ幸いです。

稚拙な文章で読みにくいとは思いますが、生暖かく見守って頂けますようお願いします。



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