67話
翌日、朝早くから学校に集まり郊外実習に出発した。
向かう先は、この国の騎士団も長年利用しているという、訓練用に整備された洞窟だ。
今回の実習には、上位成績のAクラスに所属する生徒、5パーティーの25人と、引率先生が3人、騎士団から現役の教導隊員が10人派遣されている。
生徒用に10人乗りの馬車が3台用意されていて、私達のパーティーはA クラスの中でも一番成績が良いという理由で5人で一台の馬車を使えるよう優遇されていた。
この学校、受講内容に関しては生徒が持つ身分差などは一切考慮しない。なので、例え王子様相手でも、優遇を受けれるかどうかは本人の成績次第なんだそうだ。
因みにB クラスの場合は荷馬車に詰め込まれ、C クラスに至っては徒歩で移動するというように、生徒間の競争意識を煽るための工夫がされている。
動き出した馬車の窓から外を眺めながら、誰にも見られない様にこっそりと一人ニヤける。
遠足なんかは何度か行ったけど、泊まりがある学校行事に参加できなかった私には楽しみで仕方ない。
とは言え、名前の響きからは林間学校みたいな物を想像するが、何の事はない、やることは単なる実戦形式の戦闘訓練だ。
夢見てもいた物とはだいぶ形が違うけど、私にとってはそんな違いは些細な事で、前世からの夢がひとつ叶ったと言っても差し支えない。
そういう行事じゃないことは理解しながらも、
(キャンプファイヤー位してくれへんかな?)
なんて、無駄に膨らむ期待が止められない。
『焚き火ぐらい何度もしたことあるだろ?』
恐らくは野営野営の時の焚き火を指して、アデルがそんなことを言う。
『焚き火とちゃうねん私がしたいのはキャンプファイヤーやねん。もしかしてキャンプファイア知らん?』
『俺の世界にもあったから知ってるが、所詮はでっかい焚き火だろ。』
『全然違うわ!』
情緒の欠片も持たないアデルは無視して、流れる景色を見つめながら頭の中でオクラホマミキサーを鼻歌う。
「ノエラすまなかったな。」
「ん?」
しばらく馬車が進んだ後、ディルクに脈絡無く頭を下げられたが、何の事かわからない。
「ここ数日ノエラの様子がおかしいのは、今回の実習に緊張しての事だと聞かされた。普段の技量から実戦経験がないなど夢にも思わず、昨日は配慮の足りない言葉をかけてしまった。許してほしい。」
ディルクはそう言って再び頭を下げる。
昨日の買い物中、弛んでいると色々注意してくれた事を指しているんだろう。
誰が言い出したのか知らないが私の寝不足は実習に緊張してということになってるらしい。何がどうしてそうなったのかは知らないが、今はありがたくその言い訳を採用させて貰う。
とは言え。
「間違った事言うたんちゃうんやから、そんな謝らんといて」
ディルクが再び下げる頭を、強引に手で押し戻す。
下げる頭とそれを押し上げる手、拮抗した鍔迫り合いをしている私達を見て、シルケが茶化す。
「お似合いなんだから早く婚約してしまえばいいのに。」
「なっ!なに言うてんの!!」
ゴンッ!
先日言われた告白みたいなのを思い出し、とたん触れているのも恥ずかしくなって手を離した。
拮抗した状態から急に手離されたディルクの頭は、その勢いのまま自分の膝で強打し、気を失った。
(他意はない…深い意味はない…これはケジメや…道理に従ってるだけなんや…)
顔が紅潮して、耳なんか蒸発してしまいそうに熱い。
気を失ったディルクを放置するわけにもいかず、私の責任だと皆に責められた結果、ディルクの頭を膝に置いて目覚めを待つ。
動きやすい服装と言われて短パンを履いてきたのが失敗だった。
太股に直に感じる、ディルクの髪と体温が気恥ずかしさを倍増した。
「ひゃっ!」
不意にディルクの頭が動いて変な声が出た。
「ちょっ、動いたらあかんってこそばいから。」
もぞもぞと動き出した頭をソッと押さえるが、そんな私の抵抗虚しく仰向けに寝ていたディルクは寝返りを打って横を向く。
「ッ………」
横を向いたディルクの唇が、私の太ももにそっと触れ、声にならない叫びというのを初めて体験した。
吐き出される息がこそば痒い。
ムニャムニャと唇が動いて息が止まりそうになる。
硬直している私に気を良くしたのか、ディルクの唇は、ソッと開いて優しく私の足を口に含んだ。
スパン!
ディックの頭を叩いた音が車内に響く。
「あんた絶対起きてるやろ」
さすがに目覚めてゆっくりと身体を起こしたディルクは、叩かれた頭を撫ぜながら周囲を見渡す。
「それは流石にやり過ぎかなぁ……」
何て事を言いながら、アニカとシルケがドン引きしている。
静かに首を振るエトと私の顔を交互に見比べ、一瞬何かを考えた後
「……僕とて男だ。すまなかった。」
そう言ってまた深く頭を下げた。
言い訳を嫌い裏表なく潔い良いのがディルクの美点だが、この瞬間に置いては、故意なのか過失なのか判断がつけれず振り上げた手の下げところを失ってしまった。
もうすでにしばいたやろ!
言葉にすればそんなツッコミをもらってしまいそうだけど、あんな軽く叩いたくらいで私の気が済むはずがなく、モヤモヤが治まらない。
何度かの休憩を挟んで移動し続けた後、日暮れと共に皆で夜営の準備を始める。
「えー斥候から、えー付近に小型の魔物が、えー多数徘徊していると、えー報告を受けました。えー今夜は大きめの火に魔物避けをかけますので、えー皆さんは、えーその様に準備してください。」
荷馬車から、テントを引っ張り出している生徒に向かって先生が言う。
「「「はい。」」」
と、声を揃える生徒達は一度パーティー毎に集まると、薪集めの面子を再構成して直ぐに散会した。
私のパーティからは私とエトが選ばれて、他の班の薪拾い係と合流する。
「それじゃぁこの辺りの木を伐って貰えますか?」
エトは直径20センチ程の木を指差して言う。
「えっ?生木を伐んの?」
さすがの私も、生木が薪に成らない事くらい知っているので若干戸惑う。
「魔除けの魔法は光の強さで効果が変わりますからね、狭い範囲で大きな火を灯すため、魔法で乾燥させた丸太を組み上げるんですよ。」
他の皆は戸惑い無く木を伐り始めているので、たぶんこれは常識なんだろう。
にもかかわらず、エトは嫌な顔一つもせずに丁寧に説明してくて、ほんと良い奴だ。
「了解。そういう事やったら任された!」
そう言いながら、私は木に近づいて腰に指した剣に手をかけた。
刃渡り40センチ程のその剣は、秘密基地の武器庫に仕舞われていた一本で、アデルはコピスと呼んでいた。
魔剣と言われるような特殊な性能はないが、当時のドワーフ達が造り上げた、切れ味に重点を置いた自慢の一本だと言っていただけの事は有り、包丁としも鉈としても使えて、とても便利に愛用している。
ゆっくりと抜いた剣を大きく構え、周囲の安全確認をしてから少し角度をつけて、
「よっ!」
と、一気に薙ぎ払う。
「相変わらず出鱈目ですね。」
振り抜いた剣を鞘に納めたのを確認したエトが言う。
そのまま木に近づいたエトが幹をかるく押すと、一度切り口から滑り落ち、ゆっくりと枝葉を揺らしながら倒れていった。
(ほんまカストどこ行ったんやろ…)
倒した木を数人の男子生徒が運んで行くのを見守りながら、止まったもの相手ならこんな芸当が出きる程度には鍛えてくれたカストの事を思い出す。
剣の才能は皆無だ!なんて言われ続けていた私がAクラスに居れるのも、カストとの訓練が合ったからこそだった。
ブクマ有難うございます。
まだまだ手探りで書き進めていますので、忌憚のないご意見ご感想、お寄せいただければ幸いです。
稚拙な文章で読みにくいとは思いますが、生暖かく見守って頂けますようお願いします。




