63話
私に用意された留学先は、レグレンツィ王国の北に位置する古くからの同盟国、ローモス連邦にある学校らしい。
ローモス連邦は高くそびえる連峰に建てられた鉱山国家で、流通している金属類の8割近くがローモス産と言う、この世界最大の鉱物産出国なんだそうだ。
留学先の学校までは陛下が馬車を準備してくれているというので、ジェズと別れて王城まで飛んでいく。自力で行くと訴えたが、断るなら自分で陛下に言ってくれと言われてしまい、直接交渉したら、飛んでいくのは目立ちすぎるから止めてくれと懇願された…。
どうやら私達が思ってる以上目立っていたらしい、アデルはバツが悪そうに小さく舌打ちした。
首都を出て、馬車に揺られる事2ヶ月と少し。
距離的には1ヶ月で行ける距離なんだけど、道中街に立ち寄る度に何日も滞在するものだから倍ほどの時間がかかってしまう。身体を慣らす為だと説明された。
ローモス連邦の国土は9割以上が山なので、最も低い街でも海抜2,000メートル程度で、私が目指す首都に至っては5,000メートル近い高さに有るらしい。
ローモス側の案内人が、「これをしなければ最悪命の危険も有ります」なんて脅すように言っていたが、そんな事よりそんな高所で人が営める事の方が驚きだ。
ガランガランとひときわ高い塔の上で鐘が鳴る。空気が少ないせいなのか、低く曇ったような鐘の音だ。
約束していた時刻になっても待ち人来たらず、私はベンチに座って雲の流れを目で追っていた。
『始めの反応に比べたら随分嬉しそうだな?』
並んで座るアデルが話しかけてくる。
(ん~そやね…前は学校なんて殆ど行けへんくて、羨ましかったからなぁ。正直楽しみやわ。)
『ほ~それがいつまで続くか見ものだな』
(えぇ~こう見えて勉強好きやってんで?まぁ出来る事って言ったらそれ位しかなかった言うのも有るけどさ…学校で習う予定やった事も自分で勉強したりしててんで?)
『まぁ、三ヶ月後も同じように言えてたら誉めてやるよ。』
(うゎ、なんなんその上から目線…ムカつくわ…)
雲を眺めながらアデルとそんな雑談をしていると、目の前の建物から小走りで走ってくる人の気配に気が付いた。
「ハァハァハァ…申し訳ありません…ハァハァハァ…大変…ハァハァ…お待たせしてしまいました…ハァハァハァハァハァハァ……レグレンツィ王国からの留学生、ノエラさんで間違いないですね?」
切れた息を整えながらそう言って確認してくるのは、私と同じくらいの背丈の恰幅の良い中年男性で、金色の髪を耳の上でクルンクルンと二段に巻いている。
昔、音楽室で見かけたような髪型だけど…それよりも、五線譜の様になっている頭頂部が気になって仕方がない。
「は、はい…。初めまして、ノエラと申します。」
頭頂部に釘付けられた視線を、頭を下げることで無理矢理引き剥がす。思いっきり突っ込みたいマテラ人の性を理性で押さえつけ、悟られないよう表情筋を固くする。
「あっ、申し遅れました。私、当学園の校長を勤めておりますギーヨム・ギャルドン
と申します。早速ですが校長室で少しお話をさせて頂いた後、寮までご案内しましょう。」
そう言って軽く頭を下げた後、忙しなく踵を返して歩き出すので私も慌てて後を追う。
先程の鐘は終業の合図だったんだろう。静かだった学校が、途端黄色く活気づく。
すれ違う生徒達が瑞々しくて、同年代のはずなのにひどく老け込んだ気にさせられた。
「いやぁ、教育者として時間に遅れるとは真に申し訳ありません。先に到着されていたお兄様のお話が面白く、ついつい時間を忘れてしまっておりました」
「ん?お兄様ですか?………誰の??」
「ハッハッハッハ、ノエラさんのお兄様に決まってるじゃないですか」
前を行くギーヨム校長が天井を仰ぐように豪快に笑う。頭頂部の五線譜が、パカパカと。蝶番でも付いているかのように笑いに合わせて開閉した。
「ブッ……ゴホン…」
吹き出しそうに成るのを何とか留め、咳払いを一つ…。
長男のアデリオが家を離れてこんな所まで来る理由が無く、次男のバジリオは兵役に付いてるのでもっとここには居ないだろう。一番ウロウロしてそうなのはチェリオなんだけど、店を放っておいてここまで来る意味がわからない…
兎も角、どの兄が来ているとしても、一体何が起こったのかと緊張気味に校長の後をついていく。
「おや?」
校長室の扉を開けて足を踏み入れると、前を行く校長がふいに首をかしげた。
その行動に疑問を感じながら室内を見渡すと、なるほどそう言うことか、テーブルに残された飲みかけのティーカップをそのままに、私と校長以外の人気がない。
校長の話しぶりからすると、私のどれかの兄はこの部屋居る筈で、今の校長の反応を見る限りそれは間違いないだろう。
トイレでも行ったかな?
深くも考えず、そんな事を考えた時
「ノエミキュン久しぶり。俺様ちゃんちょ~逢いたかったよ」
背後からそんな声が聞こえてドキッとする。
(リオ?!)
そんな事は有り得ない筈だと瞬時に理解しながらも、恐る恐る声の元へと視線を向ける。
「………………ハァ。」
振り向き目に入る、見慣れた男の姿に脱力した。
「ジェズ、その手の冗談は趣味悪すぎや……」
「あははははは。ノエミキュンすごくびっくりした顔してたね。あはははは。」
リオの声真似をしたジェズが、まんまと騙された私の驚きっぷりに爆笑してる。
本当だったら2~3発ぶん殴ってやりたいところだけども、身体を捩りながら笑い続けているジェズの姿に、逆に怒るのがバカバカしくなってきた。
「……まぁ良いけどさ…ノエミキュンって呼び方はリオだけのもんや。いくらジェズでも二度と口にせんといて。」
依然笑い続けているジェズに向かって、120%の不機嫌を押し出しながらそう言った。
ブクマ有難うございます。
まだまだ手探りで書き進めていますので、忌憚のないご意見ご感想、お寄せいただければ幸いです。
稚拙な文章で読みにくいとは思いますが、生暖かく見守って頂けますようお願いします。




