62話
「やぁノエミ。急に押しかけてすまないね」
案内されていた応接室で寛いでいたジェズは、私の顔を見るなり屈託のない笑顔でそう言った。
「……それは良いんですけど、どうしたんです?」
少々穿ち過ぎかとは思うのだけど、疑いが在ると同じ笑顔でも違った意味に見えてしまう。
緊張を悟られないよう、ジェズの対面のソファーに腰かけて、急な来訪の要件を問う。
「あー…だいぶ疲れてるみたいだね。」
「…?」
『顔…引きつってるぞ…』
………ジェズは漏れ出していた私の怪訝な表情を、疲れから来るものだと判断してくれたらしい。
「…そう…ですね、助けてもらっては居るんですけど、領主仕事はなかなか慣れなくて…」
「ハハハ、僕も稀に陛下のお手伝いをすることが有るけど、あれは大変だよね……それじゃぁ、ゆっくりと遊ぶのはまた次の機会にすることにして、簡潔に要件を伝えようか。ノエミ、1年間ほど留学してみないかい?」
「はぁ?」
何をいきなり訳の分からないことを?!
そんな声に出せない思いを、おくびも隠さない声が思わず漏れ出る。
「ハハハッ、そんな顔で見ないでよ。一応陛下からの正式な依頼なんだから」
案の定そんな思いはジェズに伝わり、苦笑いされた。
「ゴボン……。すいません…でも、意味が分からなさ過ぎて…陛下の依頼と言われても余計こんな顔に成りますよね」
詳しい事情を求める私に、ジェズはこんな説明を返してくれた。
先ず第一に、私の叙爵が異例すぎ、性急すぎた為に、領主として必要な知識を学ぶ機会が必要であろうと、今更ながらに陛下は考えたらしい。
「えぇ…ほんま今更よね…」
言われてノータイムでそんな言葉が零れ出る、言いながら思い返せば、もうじきこの街も一周年だ。
急激に成長していくこの街に、寝る間を惜しんで奮闘するアルホさんとリーアさんを眼にしては、もっと私に知識があればと悔やんだ事は一度や二度じゃないのは確かな事だが…
学ぶとこが無いとは流石に言えないけど、言ってしまえば峠はとっくに越えていて、正直一年も街を留守にする方が後ろめたい。
第二に、相応の人格形成が必要だと言った。
聞くと同時にカチンときた私の気配の変化に、ジェズは慌てて今が異常だとは言ってないと取り繕う…
陛下曰く、同年代の友達を作れと言う事らしい。対等な友達と交わす言葉には多彩な側面が含まれていて、柔軟な感性を養ってくれる。柔軟な感性で多面的な発想を出来る事、それが陛下の考える為政者の資質なんだそうだ。
そして最後の理由。
前の二つは建前で、おそらくこれが本命なんだと思うのだけど、政治的な配慮により暫く身を隠して欲しいらしい。
以前ワイバーンを送り込んできたように、ノヴァリャ聖国は何故か私を目の敵にしている様なのだけど、最近は私を引き渡すよう訴える書簡が毎週のように届けられるのだそうだ。
ドラープ帝国と戦争中の彼等が、面と向かってレグレンツィ王国に手を出すとは思えないが、あの国の場合、何を仕出かすか予想もつかないので落ち着かない。
無視したり、居ないと嘘を付くのも、後々邪魔臭くなりそうなので、これを期に、名を伏せて留学してみてはどうだろうかと言うことらしい。
「引き渡せ言うてんのに、どっか行った で納得するんです?あの国の人ら」
「一応ノエミは冒険者でも有るからね。冒険者規約を盾にすれば、言い逃れは何とでも出来るよ。事実に国内に居ないんだかね。」
「成る程ね…(アデルどう思う?)」
『んぁ?別にいいんじゃねーか?お前が居ようが居まいが俺の街は廻ってるからな。』
(それは言うたらあかん凹むから。って、そうやなくて、もっとこう…嘘とか罠とかあるやんか。ジェズの言うこと鵜呑みにして良いと思う?)
『王に聞けば直ぐ分かる嘘なんてつかないだろうし、罠が合ったとして何か困るのか?』
(困るやろ?!待ち伏せ暗殺とかあったらどうすんの?怪我してもカスト居らへんし回復出来ひんねんで?)
『腕の一本くらい俺でも治せるから安心しろ。そもそもだ、俺の身体に傷付けれる奴なんてこの世に何人居ると思ってんだ?』
(えぇ?!戦いに関してはアデル結構役立たずやん?)
『馬鹿!それはお前が殺すな壊すなと五月蝿いからだろ、ふざけんな!!』
(あ…あぁ…そう言われたら…そうなんか…)
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稚拙な文章で読みにくいとは思いますが、生暖かく見守って頂けますようお願いします。




