60話
レグレンツィの王城の地下に有る監獄の更に奥深く、大量文字が刻印された鉄格子の先は如何なる魔力操作も不可能になる部屋、魔封の部屋と呼ばれるその部屋に、私達は足を踏み入れる。
(こんなか入ったらホンマに魔法も能力も使えヘんの?)
『ここに入れば強制的に魔力を波立たせるみたいだな、これだけ荒らされたら確かに魔法を使うのは至難の業だ。』
何度も言うように魔力の注ぎ方は器から器に水を流し込むのに似ている事を念頭に、魔法の発動は、例えるなら小さな火種に可燃性の液体をかけるような物だとアデルは言った。
マッチの火に大量のガソリンをかけても火が消えるだけだ。それと同じ理屈で、魔力の操作がままならないと魔法は発動しないんだそうだ。
(でもその言い方やと、偶然でも発動すること有りそうよね?)
『そうだな…確率的には発動より先に魔力が切れると思うがな。まぁ俺様位になると倍ほどの時間をかければ発動できなこともない』
(ワーサスガアデルテンサイヤワー…せやけど、言い換えたら時間さえかけたら魔法使えるってことやろ…?大丈夫なんやろか…)
王子たちには逃げられてしまったが、カットゥーロはここまでしっかり連行している。
アデルが聞きたいことは既に聞き出したみたいだが、当然王国側も色々聞くことが有るのでこの部屋までの連行を手伝った。
『棒読みするくらいならわざわざ言うな…まぁ、余程の才能じゃ出来ないことだが…仮にも勇者だというのなら、出来ないとは言い切れねーな』
(はぁ…)
『いやマジか?!お前の心配は分かるが、流石にこれ以上立ち会うのはどうかと思うぞ?!少なくとも別室で待機とかにしとくべきだろ。』
(それで、万が一誰かが操られてるの分かるんやったかまへんけど…無理やろ?)
『まぁ…そうだな……だがなぁ…』
私とアデルが言っているのは、この先行われるカットゥーロに取り調べに立ち会うかどうかという話だが、先程も言ったようにこの部屋の中では魔力が乱される。
通常尋問の際には、嘘発見器みたいな魔法や、幻覚を使って証言の信用性を高めたりする事が出来るそうなんだけど、魔法の使えない部屋では当然そう言った手法も取ることができない。
それじゃぁ証言の信憑性を高めるためにどうするのかと言えば…肉体に直接聞く手法しか残されていなかった。
拷問。簡単に言えばそういう事だ…
マッツカート大公の騎士道論に有ったように、カットゥーロが命まで取られることはないらしい。まぁ、厳密にはカットゥーロの外身であるヴェネリオは、男爵家と言っても3男なので家督相続権もなく、騎士には当てはまらないのだけど…貴族階級の皆様が言うには、それが騎士道の懐の深さなんだそうだ…
騎士道という名の貴族たちの保身制度だよねこれ…実際王様からしたら堪らない話だが、王族より一般貴族のほうが数の上で遥かに多い以上、こうなるのも仕方ない話なんだろうか…。
ともあれ、そんな命の保証をされた者が吐く言葉を、真実だと皆が思えるほどの拷問が予想される。これは、私やアデルの思い込みではなく、ここまでの道すがら同行していた審議官に聞いた話なので間違いはないんだろう。
王城に有る庭の片隅、すっかり徹夜に成ってしまい、眩しい陽の光に目を細めながら芝生の上に身体を投げ出す。
(はぁ…やっぱ止めといたら良かったわぁ…)
大凡、12時間にわたるカットゥーロの尋問が漸く終わった。
途中何度も意識を手放しそうになったが、その都度精神の奥に引きこもり心を落ち着かせた。
リオの死で手に入れたこの技だけど、何がどこで役立つのか分からないものだ…。
後は、この証言の信憑性を高めるため、1週間後に再び同じ尋問をするらしい…中途半端な証言で人を罰するよりは遥かに良い事だとは思うけど、どれだけ本当のことを言っても二度目が確定しているなんて…カットゥーロに心底同情してしまう……。
いろいろ心配して立ち会ったが、もう二度と立ち会いたくない。
今思うと、余程王子たちを主犯にしたくないのか?そう思わせるような尋問も見られたが、正直、目の前の惨劇にそれを気にする余裕は残されていなかった。
『だから言ったんだ…全く嫌なもの見せられたぜ…』
(へぇ…)
私の体から抜け出して、私と同じか、それ以上にゲンナリしているアデルが少し意外だった。
『なんだ、へぇ…って…?』
(アデルでもあんなん苦手やってんや?)
『当たり前だろ…』
(魔王のくせに?)
『魔王とか関係あるか!』
魔王だからこそ、そういう事が平気だと考えるのか普通だと思うんだけど?
(てっきり酒の肴に、倒した敵の頭蓋骨に金粉貼って飾るタイプやと思ってたわ…)
元の世界で有名な魔王の逸話を言ってみた。
『同じ魔王でもその魔王と同じじゃねーんだよ!!…って……』
(アハハ。意外と物知りなんやなアデル?!…って…これそういう問題か?!)
『ふ~ん…なかなか面白いな…』
(いやいや、面白いちゃうやん?何でアンタが知ってんの?!!)
『知ってんのって…第六天魔王の事か?』
(そうそれや!!)
『アイツとは飲み友達でな、数いる魔王の中でも特に中が良かったんだぜ?』
(え?飲み友???え?魔王仲間????あの人ってホンマモンの魔王やったん???)
『カハハハハ!嘘だよ嘘。』
(え?嘘?え?え?何が嘘???)
『飲み友や魔王仲間って話だよ。流石に時代が違いすぎるだろバカ。』
(あ、そうか…でも、アデルの歳やったら……ってかちゃうわ。何でアデルがあの人の事知ってんのやさ!)
『………いや?知らねぇぞ?この世界ではな?』
(あっ……………)
『な、面白いだろ?』
(どどどどどどどういうこと…)
ぐわっと全身から、脂汗が滝のように滲み出る。
『お前…いくらなんでもどもり過ぎだろ……ってか、もしかして隠してるつもりだったのか?』
(ななななななにがやヒャ)
懸命に冷静を装おうとするが私の身体は全く言うことを聞かず、挙げ句最後は咬んでしまう。
『……邪魔クセェな……お前の前世の記憶だよ。有るんだろ?』
(ぜぜぜ前世って、えらいロマンチックな事言うやんか)
『だから邪魔癖ぇよ!お前、散々ボロ出しといて隠せてると思ってるなら馬鹿すぎるだろ!』
(えっ?)
ボロと言われてキョトンとなる私。
墓まで持っていくつもりの話だ、自分の最高機密をそんな簡単に……
(…電気の事か…ごまかせてへんかったんやね…)
いつぞや秘密基地に初めて入ったときに、地熱発電を見て「電気やん」なんて呟いてしまったことを思い出す。
『…お前大丈夫か…そんな発言が些細に思えるくらいボロボロと溢してる癖に…』
アデルはそこまで言うと、まるで蔑みながら同情する、そんな器用な視線を私に送った。
ブクマ有難うございます。
まだまだ手探りで書き進めていますので、忌憚のないご意見ご感想、お寄せいただければ幸いです。
稚拙な文章で読みにくいとは思いますが、生暖かく見守って頂けますようお願いします。




