57話
ザワザワと騒々しい人の輪の中心で、アデルはカットゥーロを連れて仁王立つ。
「つまり今回の件はこの者が黒幕という事でよろしいか?」
輪の中心でもうひとり対峙してそう話すのは、レグレンツィ軍を引き連れる、ロレンツォ領主のヴェッツィオ・マッツカート大公。
クルンと巻かれたガイゼル髭と口調から、気難しそうな印象を受けるが、意外と話の分かる柔軟な姿勢の初老の男性だ。
自分もこういう歳の取り方をしたいと憧れる。
『黒幕かどうかは分からんが、少なくとも反乱軍の主導に近い位置なのは確かだ。兵達は一部の者を除いてこいつの能力で操られていたに過ぎない、そこのところを考慮して裁いてやってくれ。』
「宜しかろう。その件は私からも審議官に口添えすることを約束しよう。」
意識を取り戻したカットゥーロに、聞けるだけのことを聞いた後、後ろ手に手錠をかけてここまで連行した。
カットゥーロが意識を失った所で兵士に掛けられていた統率は解かれ、正気を取り戻した人々は、混乱は有ったものの激しい抵抗もなくレグレンツィ軍に拿捕されている。アンデット化していた者たちも、時を同じくしてすべて活動を停止していた。
アンデット化といえば11代目の行方だが、カットゥーロが言うには11代目勇者は確かにあの時死んでいて、神様がその能力だけをカットゥーロに分け与えたという。
アデルが色々と詳細を問い詰めていたが、カットゥーロ自身も理解していないことが大半で、質問して解決したことよりも疑問のほうが増えてしまった有様だ。
アデルは色々と頭を抱えていたが、難しいことのわからない私にとっては、リオが無事に使命を果たせていた事が分かれば十分だった。
ゴトゴトと揺れる馬車の中、私とカットゥーロ、それに屈強そうな騎士二人が向かい合って座っている。
カットゥーロの能力の都合上、この二人の騎士が同席することは不安材料を増やすだけなのだけど、マッツカート大公としても丸投げというわけには行かないのだろう。
どうしてもというので、万が一のときも御し易いよう武器を持たずに居てもらってる。
私が馬車に乗っているのも似たような理由だ。手足こそ拘束されているが、カットゥーロの能力にはそれはあまり意味がない。王宮には魔法も能力も使えない結界が張られた部屋があるというので、そこまでの同行を買って出た次第だ。
カットゥーロはアデルが私の中に居るだけで大人しく、今も脂汗を流しながらガタガタと震えている。
(…………。)
『なんだ?腑に落ちない顔だな…まぁ俺も人のことは言えないが…まったく、考えなきゃいけないことが増えて頭が痛てぇ』
そんな中、一人思い悩む私にアデルは目ざとく気づく。
(あっ、いやちゃうねん…カットゥーロの事は結構スッキリしてんねん。)
『あぁ?ならどうした?』
(いや…何で手錠なんて持ってたんかなって…?)
『はぁあ?なんだそれは…』
手錠といえば、この世界の感覚で言えば木に穴を開けて挟み込むゴツイ物だが、アデルのローブに入っていたそれは、前世の記憶にある金属製の丸い輪っかが2つ付いたというか、国際刑事警察機構の警部さんが飛び道具としても使う事で印象深いアレだ。
アデルの時代には電気や冷蔵庫あったと言うし、手錠みたいな原始的な道具が似たような進化をしていても驚くことじゃない。だけど、普段から手錠を持ち歩くような生活に全く想像が追いつかず、今まで気にもしなかったアデルの過去に興味が湧いた。
『これはな………いや、まぁいいか…お前の想像に任せる』
そう言ってアデルは不敵にニヤリと笑う。対面に座る騎士の二人が、見てはいけない物を見たような顔で目を逸らす。
どうせ聞いても教えてもらえないと思っていたが、私の身体でそういう邪悪な笑顔は止めてほしい…
やがて、忙しなく走っていた馬車が停止した。
”コンコン”と御者台と車内をつなぐ小窓が開かれて、御者の人が騎士の二人に耳打ちしてる。
「……分かりました。………本日はここで野営するようです。ウベルティまでは後一日程の距離ですので、早ければ明日の昼には交戦が始まるだろうとの事。この馬車が戦闘に巻き込まれることはありませんが、念の為お伝えするよう司令部からの指示があったようです。」
「『わかった……。そうだ、明日は司令部に立ち会えないか聞いておいてくれくれないか?別に口を挟むつもりはない、あくまで後学のために見学させてほしいだけだ。』」
耳打ちの内容を代弁してくれる騎士の人に、アデルがそんな事を願い出た。
(はぁ…男の子ってほんま戦争とか好きよね)
関わらない戦争を見学したいとか、私にはチョット分からない感性だ。
『何いってんだ、お前のために決まってんだろ。』
(えぇ?!何言うてんの、国の戦争なんかに関わるつもりないで…)
『腐ってもお前が貰った爵位には戦争の義務がついて回る。やるかどうかは置いておいて、覚えておいて損はねーんだよ。明日は司令官がどうやって軍を動かすのか、しっかり勉強しておけ。』
そんなアデルの言葉に、有効な反論も見つからず…
どうにも釈然としないまま、その日の夜は更けていった。
翌日、太陽が真上に位置した頃。予定通りというか、軍の先頭が敵と接触した。
組み立て式の大きなテーブルが設置され、その上に置かれた紙に手書きの地図がみるみる完成していく。
ひっきりなしに飛び込んでくる伝令の言葉が、地図上に置かれた駒や走り書きに置き換えられて可視化してく。
数人の司令官が意見を出し合い、ひっきりなしに移ろう戦況に応じて、先の先まで読んだ指示を出していく様は、とても私と同じ景色が見えているとは思えなかった。
数の上では三倍近く、更には首都の守備軍と挟み込むことが出来ているこの戦況は、誰に聞いても簡単な戦いだと口を揃えた。
なのにこれほど多くの指示が必要だというのは…想像していた以上に軍を動かすことの難しさを実感できて、アデルの言う通り、見ていてよかったと心の底から思うことが出来た。
首都を取り囲む形で配置されている反乱軍、それを更に取り囲む形で配置されたレグレンツィ軍。
その包囲網は徐々に小さく狭められていく。
通常は日が暮れると共に仕切り直される戦場も、城内から放たれる火矢の明かりで反乱軍は照らされ続け、昼夜休むことなく防戦を強いられていた。
そんな、反乱軍にとって圧倒的に不利な戦いが2日ほど続く。
反乱軍とはいえ前線で戦うのは、少し前までは仲間同士だった兵士達、攻める方も犠牲は少なくしたいんだろう。一気に殲滅せずに逃げ場をなくし、何度も投降を呼びかけながらなので、多くの時間を費やしていた。
とはいえレグレンツィ軍も、黙って待っている事はできない。
連れてきているのは、この国の入口を守るロレンツォの兵だ。
隣国のノヴァリャ聖国とドラープ帝国の戦争が依然続く中で、いつまでもロレンツォを手薄にしておくわけには行かなかった。
反乱軍は、場内外から浴びせられる弓矢や魔法の遠距離攻撃で徐々に数を減らしていき、4日目、漸く白旗をあげる。
多くの兵士達は、少し前まで仲間だった者達の矢に撃たれ、火矢や魔法で起こった火災の煙に巻かれて倒れていった。早々に投降しようと反乱軍を抜け出した者達には、背中から反乱軍の矢を受けたものも少なくないと聞く。
生死の程は良く分からないが、白旗が上げられたとき、動けるものは1000人程度に成っていたらしい。
伝令を伝える兵士達は皆、一様に眼を赤く腫らしていた。
「騎士の作法に乗っ取り、捕虜として丁重に扱われる事を希望する。」
連行されてきた貴族達、つまりは反乱軍を指揮する立場にあった者たちなのだが、何故か皆が口を揃えて居丈高にそう宣う。
「宜しかろう、そなた等の勇猛なる奮闘に敬意を示す。とはいえ、これだけの事を行ったのだ。爵位没収は免れまいが…それまでは騎士として、丁重に扱うことを約束しよう」
何を惚けたことを言っているんだ。皆がそう言って鼻で笑うと思っていたのに、笑うどころか敬意を示すとまで言うので耳を疑う。
「ちょっとまった!!!!」
アデルを押しのけ、条件反射的に声が出た。
「端から勝ち目のない戦いで、引き時も見極められずに無駄以上に死体の山作り出しといて、何処が勇猛な奮闘なん?投降呼びかけてるのに無駄に抵抗したせいで、前線で戦う羽目になった兵達の死体は数えたか??その指揮官が丁重に扱えって???頭湧いてるやろ????」
前世と今世、合わせれば30歳を超えるからと言って、どちらの世界でも社会の常識を知るほど生きていない私が、世間知らずなのは理解している。
だけど、この理屈が間違っているとはどう考えても思えない。
私の言葉で静まる周囲をぐるりと見回す。
豪華な甲冑を着た者は皆キョトンとし、気まずそうな顔をしているのは前線を知るものだろうか?
大多数を占める、実際に命の遣り取りをする兵士達に動きはない。
しかしその目には、ビームが出そうなほど強い力が込められていて、その力を全身に浴びた私の鼻息は荒くなる。
ブクマ及び評価有難うございます。
まだまだ手探りで書き進めていますので、忌憚のないご意見ご感想、お寄せいただければ幸いです。
稚拙な文章で読みにくいとは思いますが、生暖かく見守って頂けますようお願いします。




