55話 ニエトの後悔
男の名はニエト・エスピリディオン。500年前の勇者としての偉業が認められ、神によって再び現世で活動することが認められた事に喜び勇んだのもつかの間、彼は悔やんでいた。
現世で行動する為の依代?と言えば良いのだろうか、ジュリオ・ジャコッビと言う男の体。
顔は自分程ではないがなかなか整った作りをしていて、子爵家の6男という立場も程よく都合がいい。更にはBランク冒険者の資格を持っているというのだから、数ある候補の先頭にあったこの体を迷わず選んだ。
『お前!なんだこの体は?!Bランクなんじゃなかったのか?!!!!!』
それがジュリオの身体に入ったときに出た第一声だ。
その身についた筋肉は見栄えばかり立派に肥大して実用には程遠く、寧ろ邪魔な重りでしかない。幾ら拳闘を極めたニエトであっても、こんな身体では満足に戦うことが出来ないと直感した。
剣術を習い育ってきたジュリオの身体。
畑違いと言えどもコレほどの違和感は納得できなかったのだ。
問い詰められたジュリオが言うには、金で雇った高ランクパーティと共に行動し、一部を自身の手柄としてランクを上げたらしい。
ギルドの規約としては禁止されている重大な違反行為だが、事実上不正を見破る手段がない為、やって出来ない事ではない。とは言え、万が一不正が発覚した場合、本人・協力者共に積み上げてきた資格の永久剥奪及び5年間の犯罪奴隷落ちと有っては、おいそれと手を出せる行為では無い筈だった。
それはある意味ジュリオ・ジャコッビだから出来たことなのかも知れない。
ジャコッビ家の元を辿れば平民の商家に行き当たる。
今から12代前の当主が男爵位を手にして以来、9代掛けて子爵にまで上り詰めた。
爵位を金で買ったと公然と揶揄されようとも、寧ろそれを誇りと言ってのけるジャコッビ家にとっては、6男といえども莫大な資金を動かすことが可能であった。
どこの世界でも、それなりの金さえ積めば、どんな橋だろうと渡るものは必ず存在した。
ニエトは一年掛けてジュリオの身体を作り直し、更に一年掛けてAランクにまで引き上げてやる。自分の身体の全盛期と比べれば満足行くような仕上がりではないが、8割程度の力は戻っただろうと、正にこれから第二の人生を満喫し始めていたその時だ。
ニエトはノエミと遭遇した。
始めは、歳の割に良くやるものだとノエミに対して感心し、アレだけ鍛え直してやったにもかかわらず、小娘一人に勝てないジュリオの才能の無さに落胆していた。
『とっとと犯って、とっとと帰るぞ。それと明日からはもう少し本気で鍛えるからな。』
失神寸前のジュリオにそう言って、ニエトはノエミを軽くあしらう。
直ぐには腫れないように、深く重い一撃を中に浸透させるのが、女を殴るときのコツなんだとニエトは得意げにジュリオに語る。
顔やスタイルは120点だ。強気な小娘がどう屈服していくのか想像しただけで下半身に気が充溢する。
肋の一本も折ってみるのも面白い。犯りながら折れた肋を抉ってみたら、首を絞めるのとはまた違った反応があるかも知れないと期待する。
そんな膨らむだけ膨らんだはち切れん程の妄想も海綿も、カストの登場で一気に萎む。
結局、そんなニエトは昂ぶった欲望におあずけを食らって、あまつさえ逃げ出すことに成るとは、夢にも思っていなかったんだろう。
逃げるという表現はニエトは認めない、本来の力を出せずに戦うくらいなら、撤退を選んだだけだとジュリオに熱く説明していた。
人里離れたとある洞窟の奥深く、石彫りの小さな祭壇に向かってニエトは叫ぶ。
『おい、どういう事だ!俺以外の勇者も蘇らせてるのか?!』
『…何じゃやかましい……。』
祭壇に安置された御神体と思われる水晶が、鈍く青白い光を放って言葉を返した。
水晶玉に向かってニエトは必死にノエミの存在を説明する。
突然の気配の変化、本気を出した程度の事では説明のつかない戦闘能力の向上…自分と同じ様に過去の勇者が取り付いていると考えるのが一番スッキリする。
『お前以外にか…?居るには居るが…お前と敵対するような事はあり得んからのぉ…多分違うと思うぞぃ?』
のんびりと、優しい口調で水晶は語る。例えれば、縁側で孫を嗜める祖父のようであった。
『あり得んて、見ても居ないくせに何で分かんだよ!』
『見んでも分かるわい…ワシを誰じゃと思っとるんじゃ…お前の言うことが一部正しいとすれば魔王でもついとったんじゃないのかぇ?あっちはワシの管轄ではないので分からんが、同じような事を考えていても不思議はないからのぉ。』
『ふざけんな!魔王と遭遇したら、昔と同じ様に一発で分かると言ったのはお前だろ!』
『あーそうじゃったのぉ…とは言えお前と同じ様な形だとすると…分からんのかのぉ…分かりそうな気はするがのぉ…』
『耄碌してんじゃねぇこのクソジジイ!』
自らを神と称する存在に向かって、ニエトは怯むことなく対峙する。
完全いないとは言い切れないが、自己中で負けん気の強い性格が恐れ知らずな行為をしているだけではない。
神とは、存在しないからこそ万人の希望になりうる存在というのがニエトの持論であり、その持論を持てして、水晶玉の声の主を神とは認めていなかった。
『チッ!』
光を失い何の反応もなくなった水晶を見て、ニエトは地面につばを吐くとその場を後にする。
『おい大丈夫なのか?!11代目のやつ死にやがったぞ??』
時間はリオが死んで三日後にまで進み、再び人里離れたとある洞窟の奥深く。
石彫りの小さな祭壇に向かってニエトは叫ぶ。
『何じゃやかましい…知っとるよそれくらい。ワシを誰じゃと思っとるんじゃ…』
祭壇に安置された御神体と思われる水晶が、また鈍く青白い光を放って言葉を返した。
『知っとるよじゃねーだろ。アイツは特別な方法で作り出した勇者だって言ってたくせにあっさり負けちまいやがって…。そんな余裕があるなら、いい加減俺の依代交換させろ!』
『だからそれは無理なんじゃて、何度言えば分かるんじゃ…それに死んだと言っても当代の魔王と相打ちなら上出来じゃろうて。』
『相打ちじゃねーだろ。魔王を倒したのは俺だぞ!』
『力を使い果たした魔王相手にとどめを刺した位で何をいっちょるか…その前にボコボコにされてたのを忘れてるとか、都合の良い記憶じゃのぅ…』
『ち、違うだろ!あれは後輩に花を持たせようと、魔王の油断を誘いつつ力を削ってやっただ!』
『……なんとも物は言いようじゃのぅ…』
『ワレ、ピーピほたえちゅーけど当時よりも今のほうが強くなっちゅう事を理解しちゅうか?』
青白い光が赤っぽく変わり、同時に水晶から発せられる言葉の声も変化した。
『馬鹿が。そんな筈有るわけ無いだろ、自分のことは自分が一番知ってんだよ!!』
『目は毫毛を見るも睫を見ずとは、よう言うたものだ…まあええ、コバーシにはそれ以外の狙いも有ってな。そっちの方も十分果たしてくれたき心配ない』
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稚拙な文章で読みにくいとは思いますが、生暖かく見守って頂けますようお願いします。




