53話
翌日、5km程離れた上空に浮かびながら、首都を取り囲む一団を望遠魔法で見て回る。
今日は朝から快晴で、昨日のような低い雲がなかったので、地上から肉眼で見えないであろう距離まで離れて監視を続けていた。
(なんか…こうやって見てると辛気臭いねんな戦争って……)
下で戦っている兵士達が命がけで戦っているのは理解しているが、レンズ越しに見る光景は、何処かテレビを見ているようで…
城壁の上と外から、互いに弓を打ち合うだけの光景はひどく退屈に思えてしまう…
歴史を扱った漫画なんかを思い返せば、高い塔を立てたり巨石を飛ばし合ったりと、もっと派手な印象だったんだけど…攻める側に知恵がないのか、文明がそこまで行っていないのか。
魔法がある世界だから攻城兵器なんかが発達しなかったとも考えたけど、そもそもその魔法すら使っている様子がなかった。
『いや、流石にこれは攻め手が異常だな、なにか策でもあるのか?…まぁ、この程度の軍勢で真正面から攻め込むような奴らだから何も考えてない可能性もあるけどな…』
どうやらこの世界の歴史を見てきたアデルが見ても、この攻め方は普通じゃないと言う。とは言えこの戦いに関わる気のない私達にとってはどうでも良い事で、ましてや守り手が有利なこの状況は手放しで歓迎だ。
(考えなしにしても、なんで魔…
『‥‥‥‥‥‥』
…ん?なんかゆった?)
『あ?なんだ?』
(いや…何で魔法使わへんのか聞こうと思てんけど、その途中でアデルなんか言わんかった?)
『いや、何も言ってないぞ?魔法を…』
(ちょっと待った!)
解説を始めかけたアデルを遮って耳を澄ます。
『障壁の中で外の音が聞こえるハズか無いだろ』
なんて呆れられて我に帰ったけど、絶対空耳なんかじゃない。
何故かそんな根拠のない事が確信出来て、アデルに障壁を解いて貰った。
(寒っ!)
地表に居れば少し暑いくらいのこの季節だけど、流石にこの高さになると気温が低く、吐く息が白くなる。
寒さに身を縮め、改めて耳を澄ます。
勝手に身体を動かすなと、文句を言うアデルにお前が言うかと言いかけて、グッと我慢する。
薄い空気が息苦しい。軽い目眩と同時に耳鳴りが鳴り始めて、とてもうるさい。
『…もういいだろ…そろそろ張り直すぞ』
(もうちょっとだけ待って)
私を気遣っているのか自分が寒いだけなのかは知らないが、早く障壁を張り直させろと急かすアデルに時間を貰う。
音量をあげる耳鳴りを邪魔に感じながらも、なにか聞こえないかと目をつぶって集中していると、北から吹く風に乗って爆発音や人の怒号の様な音が微かに聞こえた。
(聞こえた?)
『あぁ、確かに戦闘音のようなものが聞こえたな…ちょっと待てよ』
アデルはそう言うと、直ぐに障壁を貼り直し、望遠魔法を音が聞こえた方に展開し直す。
音が聞こえた以上それ程遠くは無いはずなんだけど、見渡す限り、10km周辺にはそれらしい物は発見できなかった。
望遠レンズの倍率を変えて更に遠くを映し出す。
アデル曰く、50km先の人の顔ですら判別することが出来るらしい倍率で探っていると、更に遠くの方でピカッと何かが光るのが見えた。
『アレか…』
アデルは呟くと加速する。
光が見えた辺りから目を離さずに飛んでいると、同じ所で何度も光っているのを見ることが出来たので、その都度向きを調整しながら飛んでいく。
そんな事をしながら一時間程飛ぶと、漸く肉眼で捉えることが出来た。
首都へ繋がる街道を封鎖するように、二つの軍隊が対峙している。片方はレグレンツィの国旗を掲げ、南を向いて陣を敷く。もう片方はそれを阻むように北を向いて部隊を展開させていた。
互いの兵数は圧倒的で、レグレンツィ軍は三万近く、対する北向きの軍は一万にも満たないだろうとアデルが解説してくれた。
『成る程そういうことか…』
三倍もの兵力差を全く生かせず攻めあぐねているレグレンツィ軍を見下ろして、何やら勝手に納得したアデルが呟く。
そのまま、続く解説を待ちわびる私のを肩を空かして、アデルは再び移動を開始する。
(…頼むし最低限の丁寧語くらい使ってや…)
悲しいかな、アデルの奇行にすっかり慣れてしまった私は、向かう方向から察しを付けて予防線を張っておく…
『フンッ』と鼻先で返事をするアデルに不安を感じていると、予想を裏切らずレグレンツィ軍の中心に着地した。
「『この軍の責任者は居るか?!』」
突然空から降りてきた私を取り囲む兵士に向かってアデルは声を張上げる。
あたふたと、対処に困る兵士に向かってアデルは再び叫ぶが、弓を放たれないだけマシだろうと心の中で兵士達に同情した。
ブクマ及び評価有難うございます。
まだまだ手探りで書き進めていますので、忌憚のないご意見ご感想、お寄せいただければ幸いです。
稚拙な文章で読みにくいとは思いますが、生暖かく見守って頂けますようお願いします。




