52話 ベネデットの思索
俺の名はベネデット・ブロット。
レグレンツィ王国、王位継承権二位を持つ第一王子だ。
慣れ親しみ、愛情すら感じるウベルティの外壁。建国以来けして破られることの無かったその壁を、何故俺が攻めているのか考える。
上の二人の姉の後、皆に待ち望まれて俺はこの世界に誕生した。
過去、この国に女王が存在しなかったわけではないが、継承順位に男児を優先させることから、皆が俺の存在を待ち望んでいたのは間違いない。
家臣や国民から向けられる、賢王としての俺の成長への期待。
そんな強いプレッシャーを真正面から受け止めて、期待以上の答えが出せるよう物心付く前から寝る間を惜しんで努力した。
物心付く前から、と言うのは少し可笑しな表現に聞こえるかも知れないが、俺に限っては間違っていない。
藪裏浩二それが俺の意識が持っている前世の名だ。
高卒、フリーター、実家暮らしの30歳。それが俺の最終ステータス。
僅かな食費で暖かく養ってくれる親に甘えて、ズルズルと気づけば30歳。
いっそ、母親に向かって罵声を浴びせるくらい突き抜けてれば楽だったのかも知れないが、中途半端な良識を残していた俺は、本気で人生をリセット出来ないか悩んでた。
どれだけリセットしたくても、自殺という選択はなかった。根性云々の問題じゃなくて、両親を”子供に自殺された親”にする訳にはいかない。
そんな気の重い毎日のある日。
バイトに向かう道すがら、目の前を歩く男性が車に轢かれかける現場に遭遇する。
同じ死という形でも、そこに名誉が有れば許されるんじゃ無いだろうか?
俺のくたびれきったシナプス回路がそんな答えを導き出したのかは分からない。
全てを認識するよりも早く、俺は飛び出していた。
…死んだと思ったら、見知らぬ天井、見知らぬ顔ぶれ、それも異国人…
勿論最初は驚いた、だけど驚いた所で何も出来ない赤子の身体。
ヨーロッパ王朝風の部屋を見渡して、次第に事態を把握が把握できると、俺は密かに歓喜した。
転生といえば、今をときめく憧れの職業NO1。
生憎、神様にチートをもらった記憶はないが、やり直すチャンスを貰えただけで不満があるハズもない。
5歳になってこの世界に魔法が有ることを知り、更に俺は歓喜する。密かに転生チートが頭を過り、日々の学習に力が入った。
8歳になって特別ズバ抜けた才能がないことをに気付き、気落ちする。
やっぱり、神様に会わないとチートは与えられないらしい…元々転生だけで満足出来ていたハズなのに、一度期待してしまうとどうしても物足りなく感じてしまった。
10歳になった頃、文武共に発揮される覚えの良さに、誰もが天才だと俺を持て囃す。
同じ年に生まれ、同じ教育を受けてきたエンニオは勿論、他の如何なる同世代と比べても、途方なく優秀だと教えられて俺のテンションはダダ上がる。
前世の記憶の残したままでいる事自体がチートなんだとようやく理解した。
そんな無敵状態だった14歳、カーラが生まれた。
初代国王様と同じ髪色を持って生まれた末の妹は、たったそれだけの理由で王に成ることが決定されている。
勿論その事に不満を感じなかったと言えば嘘になる。とは言え、俺の精神年齢は44歳…一時の感情で不満をぶちまけるほど子供じゃない。
そもそも歴代の青髪の王達が、何れも飛び抜けて優秀だったことは歴史が語っているし、特別な技術も知識もない俺の優位は歳を重ねる毎に薄れていくのは俺でもわかる。だから良き兄として妹を支えるのが俺の使命なんだと、ずっと思い込むようにしていた。
そんな俺の思いをぶち破ったのは、30歳の時に出会った親友、ヴェネリオ・プッチャレッリだ。
一つ上の姉、アーダに連れられてやってきたヴェネリオは、男爵家の三男で、本来俺が興味を持つような男じゃなかった。
世間の評価は爽やか系のイケメンという所だろう。だけど俺にはヴェネリオの見える笑顔がが腹黒く見えて、第一印象としては最悪だった。
だけどヴェネリオの発する言葉の一つ一つに、俺の心の本質は尽く揺さぶられた。
結果、最悪だった印象が180度反転して、ヴェネリオの事を親友と呼ぶのに多くの時間は必要なかった。
「永遠に続くものなんて無いのは知ってるだろ?今までがそうだったからと言って今度も同じだとは限らないんだ。古い習慣を守るのは大事なことだけど、ソレにしがみついているだけじゃ、いつか取り返しの付かないことに成るとおもうよ?」
不敬罪とも取られかねない言葉を軽く言ってみせるヴェネリオにかっこよさを感じた。
「125代も続いて今度が9人目なんだろ?偶然って考えたほうが俺はしっくりするけどね」
不動のものとして存在していた常識を、あっさりと別の角度から見つめる柔軟さに尊敬を覚えた。
「才能や適性も見ないで髪の色だけで王を決めるなんてゾッとしないな。どんな髪色だろうとも、君みたいな優秀な人物に俺は王になって欲しいけどね」
この素晴らしい親友の期待に、出来ることなら答えたい。初めて自分の本心が見えた瞬間だった。
「君の即位を願う人物は、水面下では沢山いるんだ。君がそれを望むなら、僕たちは直ぐにでも準備を整えるよ」
そんな言葉を聞いてから、一年半近く待たせた俺のために、ヴェネリオは一万近い兵を集めてくれた。
なのに何故だろう…最近ヴェネリオの笑顔がまた腹黒く見えてきて、その感情は日増しに強くなっていく。
同時に俺に、反乱を起こすほど王位に執着が有ったのか疑問に感じだした。
…だからといって今更止まれない。
約束を果たしてくれたヴェネリオの為にも、匿名ながら兵を貸してくれた諸侯のためにも、俺は王にならなきゃいけない。
家族を手にかけるつもりはない。前世で出来なかった親孝行を、父達の目を覚まさせることでなし得よう。
そう…だから俺は今ここに立っているんだ。
父達が待ちわびている援軍が来ることはない。
少しでも流れる血が少ない内に、降伏してくれる事を只々祈る。
ブクマ有難うございます。
まだまだ手探りで書き進めていますので、忌憚のないご意見ご感想、お寄せいただければ幸いです。
稚拙な文章で読みにくいとは思いますが、生暖かく見守って頂けますようお願いします。




