51話
(ノヴァリャの勇者って11代目の事やろ?何で生きてんのよ?!)
夕暮れ時、ポツリポツリと星が瞬き始める空を背負いながら、首都ウベルティに向かって最高速度で飛ぶアデルに対して、強い口調で問う。
『俺が聞きてーわ!あの太った男の首をはねたと同時に、アンデット達が只の死骸に戻ったって証言したのはお前のツレだ!!』
感情を高ぶらせたまま、半ばアデルに奴当たるように言葉をぶつける私に対して、アデルも苛立ちを隠さず強い口調で私に答える。
まぁ、それ自体はよくある光景なんだけど、アデルも私も、表現することの出来ない複雑な心境が胸に胸に渦巻いていて…感情を高ぶらせてそれを無理やり押さえつけていた。
転移陣で渡れば早いんだけど、勇者の話が誤報だった場合に備えて、アデルは飛んでいくことを選んだ。
リオが倒したはずの勇者が本当に生きているなら、誰がなんと言おうと私達の手で倒さなくては気が済まない。
だけどそれが誤報だったら、わざわざ使いを出してまで介入無用と言ってくれた陛下の面子を潰すだけに終わってしまう。忘れがちだが、レグレンツィ王国で私はSランクという位置づけだ、誰かに見つかったらそのまま何もせずに帰るわけにはいかなくなるだろう。
(ってか、こんだけ日が沈んで勇者探せるん?)
反乱軍の背後の上空から勇者を探し、居ればピンポイントで叩き潰してしまう。それもわざわざ飛んで移動する理由の一つだった。
『だからこうやって急いでるのが見てわかんねーのか!』
太陽は沈みきり、薄っすらと空の端を照らすだけだ。
見上げれば心洗われるような星空が広がり始めているにも関わらず、静かな空で私達だけが醜く言い争う。
やがて、罵り合うことを互いに虚しく感じ始めた頃、アデルはゆっくりと高度を下げて若い林に降り立った。
『ここからは歩いて進むぞ。僅かな音や光、匂いや虫の知らせのたぐいでも構わない、なにか感じ取ったらすぐに声をかけろ。』
そう言ってアデルは腰をかがめるとソロリソロリと音を立てずに進んでいく。
視界を確保するために中腰で、音を立てないようにすり足気味に進むものだから、なかなか先に進まない。
私の身体には少し大きいアデルのローブが、屈むことで地面を引きずる。そうならないためにローブの裾を両手で摘まみ上げるのだけど、その姿がなんとも滑稽だ…
(ねぇアデル…)
暫く進んだところで、そっとアデルに声をかける。
『どうした!?なにか見つけたか?』
アデルは素早く近くの木に背中を預けて身を隠した。
(いや…なんか、レーダーみたいな…敵の位置探る魔法はないの?)
前世のマンガの知識そのままに、索敵魔法がないのか聞いてみた。
『レーダーってお前……この林の中でそんな都合のいいことが出来るなら逆に教えてほしいわ…』
呆れたようにあっさりと否定されてしまう。
(そっか…)
落胆している私に一瞬何かを言いかけて、アデルは再び進み出す。
(ねぇアデル…)
また暫く進んだところで、アデルにそっと声をかける。
『なにか感じたか?!』
再びアデルは素早く近くの木に背中を預けて身を隠す。
(いや…いつものバリア張ったら外に音漏れヘンのちゃうん?)
『バリアってお前…確かに障壁を貼れば音は漏れないが、同時に外からの音や匂いも遮断しちまう。何処に敵がいるか分からない状況で視覚だけに頼るのは無謀だろ。』
(あぁ、そっか…)
納得している私に動作だけの溜息をつき、アデルはまた進み出す。
(ねぇアデル…)
『今度は何だ…?』
今度のアデルは立ち止まらずに、言葉だけで私に答えた。
(いや…私の身体にバリア張って、アデルが幽体で索敵したらさ…私は姿隠すことだけに専念できて、アデルは堂々と索敵できて…あ…ごめん。アデルが外出たらバリアも消えるわな…)
『消えるわなってお前…勝手に決めつけるんじゃねーよ。強度を落とせば俺が出た後も障壁を残すくらい簡単だ、お前が隠れながら進んで俺が索敵するって…有りだなそれ…』
(マジで?!)
採用された意外性に驚く私を余所に、アデルは頭を掻きながらバリアを私の体の周りに張り巡らせる。
『障壁を三面に構築し、構成する魔素に規則性を持たせ外部からの光を一部反射するよう改造した。動いてるところを凝視されれば見つかるだろうが、簡単に見つかることは無いだろう。障壁で足元の草木を揺らさないようにだけ気をつけろ』
そんな風にアデルは、張ったバリアの説明をしてくれた。
何やら難しそうに言ってるが、要するにバリアが三角柱の鏡の様になっていると言うことだろう。角度によっては、懐中電灯でも使われたら直ぐにバレてしまう仕掛けだが、そんな物の存在しないこの世界ならアデルの言う通り、まず見つかる心配はないはずだ。
それからは、朝日が昇るまで付近の捜索を続けた。
敵と思われるいくつかの野営地は見つけたが、肝心の11代目勇者は愚か、アンデットの姿すら見つけることが出来なかった。
(やっぱり誤報やったんやろか?)
リオの死が無駄死にだったと言われたような気がして、文字とおり飛んでここまで来たわけだけど、無駄足だったとしたら嬉しいくらいだ。
『だったら良いけどな…ひとまずこの場は離れて遠方から戦闘の様子を窺うぞ』
アデルはそう言うと木々の間を低く飛び距離を取る。
しばらく飛ぶと、今度は一気に真上に向きを変え上昇すると、雲の隙間にその身を隠した。
以前見た空間にレンズを作る魔法で遙か遠方の様子を窺う。
今まであまり意識していなかったけど、拡大された景色を目にして驚いた。
総勢一万近い反乱軍らしき集団は、首都ウベルティをすっかり囲む形で配置されていた。
(メチャメチャ囲まれてるやん!これって大丈夫なん???)
『籠城はわざとだろう。城攻めは攻めるよりも守る方が3~4倍有利だからな。直に反乱の知らせを聞いた地方都市より援軍が駆けつけるはずだ。それまで凌げばいいだけ何だから中の者たちは意外と気楽にしてると思うぞ』
(へぇ~そうなんか…)
自信満々に言ってのけるアデルの言葉に、妙な腑に落ちなさを感じながらも安心させられた。
ブクマ登録有難うございます。
世間とは少しずらした盆休みのため、次回更新は25日になると思います。
書き溜めが全く進んでおらず、申し訳ございません。
仕事をしている普段より忙しくなる休みって何なんでしょう…
稚拙な文章で読みにくいとは思いますが、生暖かく見守って頂けますようお願いします。




