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50話 アデルの良心

マテラ村のノエミの両親の元に第3王子を託し、リオの遺体を抱いてクローチェに帰る。

慌てて領主に連絡を取っていたので、直に王子の迎えが手配されるだろう。


リオの遺体はクローチェの城の庭に埋葬した。

ノエミは落ち込み精神の奥に引き篭もっている。


ノエミも リオの死を自分のせいだと言うほどバカではないようで安心した。

言葉にすれば冷たいが、リオの死はリオのがしくじった結果でしかない。

リオがどう思ってるかは置いておくが、残された者が誰かに責任の所存を語るのは、この命の軽い世界では笑い話にしかならない。

誰もがそうして生きている。


(リオの名を最後にちゃんと呼んだのは何時だっただろう?)


ノエミの心を覗けば、そんな想いに締め付けられているようだ。

本人は隠してる様だからあえてどうこう言うつもりはないが、今日までの会話の中でノエミに前世の記憶が備わっているのは間違いないだろう。この世界では未知の単語に反応する辺り、俺の知る世界同様、それなりに進歩した社会を持つ世界の記憶だということが想像できる。

社会が進歩するにつれ、命の価値は重くなる。

それを思うと、もう少しグジグジ悩むのも許してやろうという気にさせられる。


ノエミがへこむ原因に、カストも絡む。

あの馬鹿は先にも言ったこの世界の死生観の中で、1人、リオの死を自分の責任だと背負い込んだ。

そんな事はないと言ってしまうのは簡単だが、奴の正義感を引き合いに出されると、俺もノエミも掛ける言葉を持っていない。

奴はリオのための穴を掘り、安置し、埋める所までやらせて欲しいと申し出た。

その後、俺が墓標を作り、ノエミと共に黙祷を捧げている間にカストは消えた。

ノエミから離れる術を見つけたのか、隠れているだけなのか、それとも…。



ノエミが引き篭もっている間は、貯まっていた領主の仕事なども変わって熟してやっている。


『ノエミ、また来たぞ。』


執務の最中、地下からの呼び出し音を耳にしノエミに声を掛ける


(うん…でも…まだごめん…。)


俺達が街に戻って暫くすると、カーラが毎日ノエミを気遣い訪ねてくる。


「ノエミ様はまだ出て来られませんか?」


ノエミの形をした俺に、カーラは語りかける。

目の前で居留守を使われているにも関わらず、懲りない胆力を褒めてやりたい。


「『これ以上毎日来なくても良いぞ、近日中には無理にでも引っ張り出して連れて行く。もう少し待ってやってくれ。』」


ノエミの心中に同情はするが、何時までも立ち止まっていても何も生まれない。聞いているか分からないが、ノエミに釘を刺す。


「いえ、急ぐことなく御自愛下さい。それに、本日は暫く王都に近付かないようお願いに上がりましたので、ゆっくりして頂くには丁度良いかと思います。」


「『ん?何かあったのか?』」


「直ぐににお耳にされると思いますので申しますが、実は兄達の反乱が発覚しまして…既に王都近郊では戦闘が開始しております。他国の侵攻なら兎も角、この様な内輪揉めでノエミ様のお手を煩わせるつもりはないとの、王の意向を伝えるべく参りました。」


穏やかでないカーラの言葉に、ノエミの気配を探るが、関心を寄せている様子はない。

個人的には色々聞き出したかったが、一つ頷いてカーラを王城に送り返した。




『良かったのか?』


執務室に戻り、書類に目を通しながらノエミに話し掛ける。


(……………。)


『今度はカーラ達が死ぬかも知れないぞ?』


(ッ………まさか!危なくなったら逃げて来るやろ)


『そんなもん、単なる偶然の積み重ねでしかない事はもうわかってるだろ?』


(………ごめん、でも、今はまだ…人死に見る勇気は無いわ…)


『まぁ、お前が後悔しないならそれで良い。』


『チッ』っと舌打ちをしながら、書類に判を押す。何かしらの出来事にノエミが感心をよせれば歩き出す切っ掛けになるかと思ったが…中々思うように事が運ばない。


ノエミはそれを違う意味に受け取ったのか、ビクッっと小さく反応した。

思わず溢れそうになる笑いを抑える。

少なくとも現状が良くないことは分かっているようなので、近いうちに立ち直ってくれることを祈りながら、俺は再び書類に向き合った。



それから1週間が経過するが、ノエミの状況は改善されていなかった。

この三日ほど、朝から晩まで説教してやるが、思ってた以上に手応えがなく苦戦していた。


(…珍しいやん、歩くなんて…)


普段は飛んで移動するクローチェの街を、俺はゆっくりと歩いて移動する。


『お前が忘れてるものを思い出させてやろうと思ってな。』


(………?)


そんな答えを返しながら、俺はマルディーと呼ばれていた食堂の娘の店へと足を進める。


(うわ…ずるいわそれは…)


食堂の扉を開けた瞬間、察したノエミがそんな言葉をポロリとこぼした。


「あっ!いらっしゃ~い、久しぶりね。直ぐ片付けるから、そこの席座っといて~」


食堂の娘は、忙しそうに走り回りながらも、いつもと変わらない笑顔で俺に声をかけた。

指定された席に座り、走り回る娘に視線を送りながらノエミに問いかける。


『ずるいって言うなら、お前にまだ出来ることが有るのは分かってんだろ?』


(言いたいことはわかるけど…復讐したところで自己満足やろ…)


『一歩も前に進めずに立ち止まってる位なら、自己満足結構じゃねーか。だいたい、人間の行動なんて、突き詰めれば全部自己満足だろ。』


(………。)


食堂の娘を傷付けたニエトにまみえたとき、ノエミは怒りを表していた。

そのニエトはリオを直接手にかけた張本人で、何処かでのうのうと生きているのは間違いない。

ノエミの性格なら、もっと早くに仇討ちを言い出すと予想していたのだが、一向に言い出す気配がないので、こうしてニエトと関わりのある娘の元に連れてきた。


それでも尚、踏み出せないノエミに俺は違和感すら感じた。

この国の法で復讐は禁止されている。だからと言って、身内を守るためには他者の犠牲は厭わないと即決していたノエミが、リオ殺された怒りを持ってないハズがなく…。

仮に、仇を討つほど親密でなかったと感じているなら、ここまで長く落ち込む事は無いだろう。

全く、何千年生きても人の心の機微って奴は難しい。


(………そら私かて、リオの仇は討ちたいよ…せやけど、リオは自分の使命を果たしたんやろ?そこに私の自己満足混ぜ込んだら…リオの成した事を汚してしまいそうやんか…)


次はどうやって発破をかけようかと思案していると、ノエミがポソリとそんな事を呟いた。

何故仇討ちがリオの成したことを汚すことになるのか俺には分からないが、少なくともリオの事を想って仇討ちを言い出さないんだと聞いて、少し安心した。

それと同時に、こういった類いの、共感の出来ない感情を宥めるのは、容易なことではないぞと頭を抱える…。


「……反乱した王子達の軍勢に、ノヴァリャ聖国の勇者も居るだって!?」

「あぁ、何でも大量のアンデットを率いてることから、間違いないらしい…」


クローチェにも数日前から少しずつ反乱の噂が流れ始めていた。この食堂でも、注意して聞いてみればあちこちで様々な噂と情報が飛び交っている。

そんな中で聞こえてきた聞き捨てならない言葉。


「『ど…』」

「どうゆう事なんそれは?!」


俺が反応すると同時に、ノエミは俺を弾き出し、となりの席に座る男に詰め寄っている。

しかし男達も、今朝がた王都から流れてきた商人に聞いただけなので、これ以上の話しは知らないと目尻に涙を浮かべながら訴える。


ノエミが思わず発した殺気に、男達の腰は完全に抜けていた。



ブクマ及び評価有難うございます。

まだまだ手探りで書き進めていますので、忌憚のないご意見ご感想、お寄せいただければ幸いです。

稚拙な文章で読みにくいとは思いますが、生暖かく見守って頂けますようお願いします。


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