47話
(カスト何してんの早よ追っかけな!)
聞き間違いじゃなければ、ゲスメンは村を襲うと言っていた。
去っていった方角からしても、マテラ村が対象に成らない筈がなく。
未だ追う素振りも見せず、群がる兵を打ち据えているカストに思わず声が大きくなる。
『駄目だ!今この男を逃がすと、きっと大変なことになる。』
(ほんなら早よ倒しいな。本気出したらコレくらいなんとでもなるんやろ?!)
『確かにそれはそうだけど、これ以上は彼等の命の保証が出来ない。彼らは意に反して操られているうえに、その大半は兵ですらないんだよ。そんな彼等の命を奪うなんて…そんな非道は認める訳にはいかないよ。』
(ほんならこうしてる間に、マテラ村の人間が何人殺されることになるか分かって言うてんの?!)
『分かってる!だけど駄目なんだ……。
僕は世界を救うために戦ってきた…その中で、王の命も奴隷の命も分け隔てる事無く、
届く範囲の手で救ってきたんだ。
だけど僕にだって救える命と救えない命が有る。
”何故来てくれなかった?””もっと早く来てくれていれば…”そんな言葉を何度聞いたか数えきれない。その度に自分の無力を嘆いたよ、だけど僕は折れなかった…なぜだか分かるかい?
眼の前の者を絶対に助ける。ただそれだけなんだ、僕を支えていたものは。
それだけなんだ、僕の手の届かなかった者たちに返せる僕の言葉は…。
だから今、ここでその信念を曲げるわけにはいかない事を理解してほしい…。』
そんな話をしている間も、兵は飽きること無く襲いかかり続けてる。
カストは次々と手足の骨を砕いて動きを奪うが、負傷者は後方に運ばれ、治療を受けると直ぐに戦線に舞い戻るを繰り返す。
とは言え既に回復は追いつていない。
後2時間もこうしていれば動けるものは居なくなるだろうし、回復アイテムや回復士の魔力が尽きればもっと早くに無力化出来るだろう。
だけどその時マテラ村がどうなっているか……
木の柵が張り巡らされただけの、人工500人に満たない小さな村だ。
どれだけの数が居るか分からないが、滅ぼすことが目的の武装集団に襲われて、1時間と持つ見込みは何処にもない…。
(カストの言いたいことはよう分かった。あんたの言葉は否定出来ひんし、誇ればいいと思う……。せやけど言わせてもらうで?
この体は私の体で、あんたが使ってる時間は私の人生や!
あんたの正義が目の前の者を助ける事やったら、私の正義は自分の身内だけは絶対助けることなんや!
何であんたの自己満足のために私が後悔背負わなあかん?望まん私の人生に入り込んできたんはあんたとちゃうんか?自分の正義だけが何より優先されるおもてんねやったら、2度と私の身体を使うな!)
カストの身勝手な言葉に私の身勝手な思いを感情のままに投げつける。
アデカスの力を借りなければ、この場を抜け出すことすら出来ないのは分かっているけど、例えここで力尽きても身内を守る為に行動して倒れたい。
言い終えた瞬間、急遽戻ってきた体の自由に一瞬バランスを崩すが、慌てて踏ん張り持ち直す。
「あぶっ!」
ガキンッ!!
ブンッ!ブンッ!
顔前に振り下ろされてきた剣を咄嗟に弾き、連続して薙ぐように振られる剣を何とか躱す。
私が弾き出したのか、カストが自分で出たのかは分からないけど、結果としてカストの力は借りれなくなった。
今の3人の攻撃を辛うじて躱せた私にとって、絶望的な未来しか見えないけれど後悔はしていない。
「ノエミキュン危ない!!!!」
左側から振られる斧を弾こうと、握る鉄棒を振り始めたとき、ウザ男の声で2本の槍が突き出されている事に気がついた。
慌てて回避行動に移ろうとするが、体が全くついてこない。
(あはは、もう終わりって、早すぎるやろ…)
無理は承知の上だったけど、もう少し戦えるつもりで居た自分に、思わず笑いが溢れてしまう。
同じ身体を使っているのに、こうまで結果が違うとは…やっぱりカストは凄いんだなぁ……。
そんな諦めの自嘲を溢していると、私に向けられていた斧と槍が音もなく目前で阻まれ、弾け飛んで行くのが眼に入る。
(?!)
『「ったく、図星突かれたからって、こんなとこで拗ねんじゃねーよ…」』
(アデル!!)
いつの間にか入り込んだアデルが、ウザ男とジェズを含む私の周囲を魔力防御壁と言う名のバリアで覆っていた。
(手伝って…くれるん…?)
恐る恐ると、アデルに訪ねる
『「手伝うも何も、俺はこいつと違ってお前の事を一番に考えるって前に言っただろ?」』
あっさりとそんな事を言ってのけるアデルに対し、逆に何で手伝ってくれないと思い込んで居たんだろう?
(言うたかそんなん?)
思わず照れ隠しの言葉を返すが…たまに見せるアデルのこういう優しさは、ほんまズルいと思う…。
『「言っただろ!!…まぁ良い、それでどうすんだ?助けに行くのか?って、おいおい、いきなり泣くんじゃねーよ。視界が歪むだろ!」』
結局、色んな感情が折り重なって、無意識に涙が溢れ出ていた。
(ご、ごめん…マテラ村まで…飛んでくれる…?)
『「飛ぶのは良いが、浮遊魔法には二人分の体重を支えるだけの浮力がない。どちらかを置いておけば良いんだが…王子は勿論、リオを置いてっても無事じゃすまないぞ?」』
(ッ…………)
操られながら行く手を阻むこの人達を、無視して村に向かう選択肢がなくなってしまい、言葉につまる。
『駄目だノエミ!彼等にはなんの罪も…』
『「お前は黙ってろ!…………ノエミ、この俺様ですら全てを手に入れることは不可能だ。心配するな、お前が目をつぶっている間に終わらせてやる。」』
(……分かった…お願い。)
こういう時、少しは葛藤するべきなんだろうか…?
友達を含む十数人の身内を守るため、操られているだけの罪の無い300人余りを皆殺しにする決断を私はあっさりと下す。
「ノエミキュン…」
ウザ男が横で心配そうに見つめてくる。
あるいは見損なったと言われるのかも知れない。それでも、この優先順位を譲る理由にはならない。
「マテラ村には僕が向かおうか?」
(えっ?)
『「はぁ?」』
突然のウザ男の提案に、私もアデルも理解が及ばない。
「あれ?違いました?!ノエミキュンの言葉から想像して、マテラ村を助けるかどうかで揉めているように思ったんですが?」
『「いや、大体合ってるが…お前、自分から進んで戦うタイプじゃ無いだろ?大丈夫なのか?」』
魔王とはいえ、いつも逃げることを一番に考える弱気な魔王だ。
一度立ち寄っただけの村のために、一人で戦ってくれるなんて夢にも思わなかった。
「死ぬのが怖いだけで、戦うのが嫌なわけじゃ無いですよ。それにアイツ、勇者の癖にそんなに強くないでしょ?」
『「アイツも勇者なのか?!」』
あの、クズの中の腐った汚物のようなゲスメンが勇者だと言われ、流石のアデルも声が裏返ってる。
「そうなんですよ、だからもう殺意を押さえるのが大変で大変で…。我ながら勝てそうな相手には途端強気になるって…現金だとは思うんだけど行かせて貰えません?」
張られたバリアの外側では、さっきまでにも増して兵士たちが群がり、各々の武器をバリアに叩きつけている。
ウザ男はそんな状況に似合わない、なんともやんちゃな笑顔でそんな事を言った。
アデルは、ゲスメンがニエトと呼ばれていたことを思いだし、10代目勇者、ニエト・エスピリディオンだと、特定する。
ニエトと言えば、いつか陛下が話題に出していた武器を持たずに戦う勇者だ。
その力は、両手の拳に纏わせた魔力で、あらゆる魔法と魔法由来の物理現象を無効化する力なんだそうだ。
当時の魔王は、アデル同様魔法を得意とする魔王だったらしいが、それでもニエトと相討ちになって事切れたという。
体術でしか戦えない癖に、どう贔屓目に見てもSランクに届いていなかったニエト相手なら、苦戦はしても負ける事はないだろうと、アデカスは共に太鼓判を押した。
『「お前も大事な身内の一人だからな、絶対無茶するんじゃねーぞって、ノエミからの伝言だ。」』
「勿論ですよ。下手に死んだら、”修行が足りなかったな”とか言って、カスト様に殺されてしまいますから」
アデルに代弁してもらった言葉に対しにて、笑顔のリオはそんな惚けた答えを返す。
若干の不安を感じながらも、私はリオにマテラ村を託すことを決断した。
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稚拙な文章で読みにくいとは思いますが、生暖かく見守って頂けますようお願いします。




