46話
「ほぅ…私を勇者と見抜くとは…成る程、先程から苛立ちを抑えられない筈です。差詰め貴方が11代目の魔王といったところですか」
あっさりと自身が勇者であると認めたヴェネリオさん。同時にウザ男を魔王と言う辺り、本物であることは間違いなさそうだ。
だとしたらノヴァリャ聖国の勇者が偽物なのか?
だけどウザ男が間違ってるとも思えない…
「ヴェネリオさん…あなたが勇者ってどういうことですか…?」
混乱する思考を纏められないままついつい素直に聞いてしまった。
「ザイラ伯と言ったかね?私をヴェネリオと呼ぶのはやめて頂こう。今の私はカットゥーロ・ペロージ。6代目勇者、統率の勇者カットゥーロと呼ばれたものだ」
バーンと効果音を付けてあげたくなる自己紹介、彼がマントをしてたらきっとはためいてたに違いない。
ヴェネリオさんは、勇者は勇者でも6代目勇者カットゥーロだと主張した。
カットゥーロがどんな人物だったかは知らないが、6代目と言えば今から2000年以上前の人物だ。他の人なら一笑するような主張だが、私にとっては笑えない。
(…要するに…あんたらのお仲間ってこと?)
『そう言うことになるね…まさか僕たち以外にも幽体化してる者が居るとはね…』
アデルもカストも私同様混乱してるんだろうか?先制の機会を失い、すっかり兵たちに取り囲まれてしまった。
「かかれ!」
カットゥーロの声を機に、兵たちが一斉に動き出す。
「『リオ!ジェズアルド殿をお守りしろ!』」
カストが素早く入り込み、ウザ男に指示を出す。同時にローブのポケットから取り出したのは、私のトレーニング用の鉄の棒?
『てめぇ!たまには俺にも暴れさせろ!!!』
『相手が勇者を名乗るなら僕が相手しない訳にはいかない。それに少し聞きたいこともあるからね、ここは譲って貰うよ。』
『チッ』と舌打ちしてアデルが不貞腐れる。
思い返せばブラックワイバーン以降、全くアデルの出番がない…爆発する前に何とか発散させてやりたいが、なんせ環境破壊甚だしいからな…
そんな事を考えてる間も、カストは迫る兵たちを次々鉄の棒で打ち倒している。
いずれも手足を骨折させる程度に留まって、死傷者は一人も出していないようだ。
「『止めるんだ!君達も騎士だろう、こんな戦いの何処に大義を見いだせるのか!自身の正義を思い出すんだ!』」
カストは相変わらず空気を読まずに正義を叫ぶ。
確かに、ジェズに帰ろうと言っただけで殺すと言われるのは不本意だけど、カストの叫ぶ道理が通用するじゃないからこういう事になっていると思うんだ…。
案の定、カストの呼びかけに誰一人動揺する兵はない。
(そもそもあれって騎士なんやろか?)
騎士というにはあまりにも統一性のない装備に違和感を感じる。金属鎧や革鎧等、様々な装備が入り雑じっていて、見る限り急遽色んな防具屋からかき集めたような印象だ。
『あいつに言わせたら、武器を持つ者は全員騎士になっちまうから細かいことは気にするな。そんな事よりもこの統率力は…流石だな』
何が流石なのか知らないが、突然アデルが他人を、それも敵兵を褒めたので耳を疑った。
どういう事なのかと目を凝らしてみれば、成る程、素人目にも思わず褒めてしまいたく成るのがよく分かる。
敵兵は誰一人声を上げること無く、抜群の呼吸で複数方向から斬り掛かる。
カストの反撃に防御が間に合わないものがいれば、近くの誰かがその攻撃を阻害する。
それも間に合わず、倒れた兵が出たとしても、素早く後方に運び欠けた部分は直ぐに補填される。
相手がカストだからこそ対等に渡り合えているが、あまりの統率力に思わず鳥肌が立つ。
寧ろ、気持ち悪いと感じるほど統率の取れたその動きは、「実は全員ロボットでした。」なんて言ってくれて方がまだ納得できた。
『統率の勇者の名の通り、奴の力は統率力だ。ノエミの手足が無数の細胞が集まって動いているように、奴は支配下に入った兵を文字通り1つの生き物として動かすことができる…』
不貞腐れながらも暇なんだろうか?アデルが6代目勇者の力を説明してくれる。
驚くことにこの6代目、歴代勇者の中でも抜きん出て魔王に圧勝しているらしい。
歴代勇者にそれぞれ固有の能力が有るなんてことは、私の知る限り歴史に残されていない。なのにアデルがこれだけ詳しいという事は、やっぱり直に見てきたからだろうなんだけど…アデカスが肩を並べて、歴代勇者や魔王達を観察していたのかと思うと、なかなかシュールで笑えてしまう。
「『カットゥーロ!君は勇者じゃないのか?!同行を拒んだだけで襲わせるなんて、君の正義の何がそうさせるんだ!』」
カストは依然襲い掛かり続ける兵達をいなしながら、いつの間にか囲いの外に移動したカットゥーロに向かってそう叫ぶ。
しかし名指しで呼ばれた本人は、まるで声が届いていないかの様に、無表情にこちらを見ているだけだった。
「なんで殺されるのかって?俺が代わりに教えてやろうか?」
沈黙するカットゥーロに代わって、その背後から姿を見せた男が言葉を返した。
「『………よく、僕の前に顔を出せたね………。』」
男の姿を見て、カストからとめどない殺気が溢れ出る。
それは何もカストに限ったことではなくて、私とアデルも同時に殺気を滾らせた。
顔を見ただけで私達に殺意を抱かす人物といえば一人しか居ない。
マルディの店を破壊するという、最悪の置き土産をプレゼントしてくれたゲスメンだった。
「小娘よ~、キレるのは良いけどうっかりそいつ等殺すなよ?何せそいつら全員、その辺で拐ってきた罪のない一般市民なんだからよ。ヒャーハッハッハ」
「『リオ!』」
「ハ、ハイ!」
ゲスメンの言葉の意味を理解できない私を余所に、カストとウザ男が阿吽の呼吸で動き出す。
カストは、今の私の体で無理のないギリギリのところまで速度を上げて、ジェズとウザ男に群がる敵までもなぎ倒していく。
ウザ男はその間に迫る敵兵の一人に狙いを定めると、腕を絞り上げて拘束した。
ウザ男の右手が薄緑色に輝き出す。その手を拘束した兵の頭にあてがうと、直ぐに兵の体も薄緑色に包まれた。
「ハッ!?何だここは?どうなってんだ??誰か!!ウッ…」
薄緑色の光が収束すると、拘束された兵は人が変わったように騒ぎ出し、直ぐにウザ男の当て身を受けて眠らされる。
「私の統率から解き放つとは…それがあなたの力ですか。」
「『これは一体どういうことだ!説明しろカットゥーロ!!!!』」
言うほど興味は無さそうなカットゥーロに向かってカストが叫ぶ。
ビリビリと地面を揺らす程の叫びが草原に広がるが、カットゥーロは無表情のまま、それ以上は口を開くこと無く私達を見つめてる。
「無知な小娘に教えてやるよ、コイツの力は統率の力。本人の意思なんか関係なしに支配下に組み込む力だ。どうだ?殺さなくてよかっただろう?ヒャーハッハッハ」
「ニエト、喋りすぎですよ。さっさと持ち場に戻って職務を全うして下さい」
鼻につく笑い声を上げながら、何故か得意げに話すゲスメンに向かってカットゥーロは苛立つように呟いた。
「チッ、分かってるよ……オイ小娘!本当は俺が殺したかったが、生憎今は幾つかの村を皆殺しにしなくちゃならなくてな。自分の無力さを嘆きながら死んでいくさまを見れないのは残念だが、精々あがき苦しんでくれる事を願うぜ」
「ニエト!いい加減にして下さい!!」
ゲスメンは強い口調のカットゥーロに一喝されると、肩をすぼめて歩き出す。
「『まて!』」
なんてカストが叫んでいるが、当然それで待つ筈もなく、ゲスメンは走り出すと一気に速度を上げて姿を消した。
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稚拙な文章で読みにくいとは思いますが、生暖かく見守って頂けますようお願いします。




