45話
「やあ、ノエミ。こんな所でどうしたんだい?偶然…って訳でも無さそうだけど?」
飄々とそんな事を言ってのけるジェズ様に、思わず溜息がこぼれ出る。
「どうしたんだいって……勿論偶然ちゃいますよ…」
自分のせいで話が拗れまくってるなんて夢にも思っていないジェズ様に、ここに至るまでの紆余曲折を話していった。
「えぇ~おかしいなぁ…出るときちゃんと部屋付きのメイドに言付けておいたんだけどね」
「えっ?そうなんですか???…因みになんて言付けたんです?」
それが本当だったら、陛下も私もすっかり茶番に成ってしまう。同時にその茶番のせいで行方不明に成ったベネデット様とエンニオ様が報われない…
「ん~確か…”ちょっと出かけてくるよ、何時もより遅くなるかもしれないけど心配しないでね”って、言ったはずだよ。うん、間違いない。」
「…………………………ジェズ………失礼を承知で言わせて貰っていいですか……」
「うん?僕らの間に遠慮は不要だよ」
「えーと、それじゃぁ失礼しまして……アホやろあんた、そんな言付けで通じてる思うほうがどうかしてるわ!」
ジェズの脳天気な言葉に、不敬なんかうっちゃって本音をぶつける。勿論理性の及ぶ限り穏やかに言ったつもりだ。
コイツ相手に丁寧語使うのもバカバカしく成ってくる、脳内で付けていた敬称も本人が望む通りはずしてやろう。
「はははっ、なかなか辛辣な言葉をもらちゃったよ。うん、良いね。ようやく本当の友達になれた気がするよ。ははははは」
何故か当人は喜んでいる。
「…ジェズ。とりあえず一度王城にお戻り下さい。」
「え~」
「え~とちゃいますよ、皆心配してるんですから。せめて一度顔を見せて安心させてあげて下さい。」
「あーそうじゃなくてね。また、です・ます付けるの?」
「そっちかい!!!」
「うんそっちそっち!良いねその感じ!!」
王族だって普通の人間だ、なんて一時は悟った事も有ったけど、私もまだまだ甘かった。
ジェズを見ていると、とても同じ種族の思考回路には思えない。
「ジェズアルド様、まさかここまで来てお戻りになられるのですか?」
ジェズの後ろで控えていたもう一人の男が、そのまま背後から声を掛ける。
「あーそうだね、ノエミがわざわざ迎えに来てくれたんだから、ここは帰らざるを得ないね」
「そ、そんな!!」
男は驚きの言葉と共に、私を睨みつけてくる。
『お?やる気か?』
(やらへんから…いちいち興奮しんといて)
案の定しゃしゃり出ようとしたアデルが発音する前に弾き出す。
早ければ意味がなく、遅ければまたわけのわからない音を発することになる。
それらを踏まえた上での完璧なタイミング。美しすぎる芸術的な技が決まった喜びを、人知れず噛みしめる。
「ジェズ、良かったらこちらの方を紹介して貰えますか?」
「あぁ、そうだね。彼はヴェネリオ・プッチャレッリ、プッチャレッリ伯爵家の三男だ。
ヴェネリオ、彼女はノエミ・ザイラ伯、最近話題のレグレンツィの勇者と言ったほうがわかりやすいかな?」
「え?!何なんその二つ名みたいなん。私そんなんで呼ばれてんの?初めて聞いたで?!!」
「なんと、この方がザイラ伯爵様でしたか……。先程は失礼しました、改めましてヴェネリオ・プッチャレッリと申します。以後お見知りおきを。」
私のツッコミなんて聞こえていないかのように、ヴェネリオさんは淡々と片膝を付いて頭を下げる。
だけどなんだろ、その言動とは裏腹に何だかとても気配が怒っている。
礼を終えて立ち上がったヴェネリオさんの顔を見ても、怒ってるようには見えないんだけど、怒ってるように感じてしまう。
『ノエミ気をつけろよ、うまく隠してる方だが、殺気がチョロチョロと漏れ出てる』
更にはそんな事をアデルが言うもんだから、否が応でも緊張してしまう。
『駄目だよノエミ、緊張は相手に付け入る隙を与えてしまう。難しいと思うけどもっと自然体でいようね』
そしてカストの無茶振りだ。
無理を承知でリラックスを試みるが、一応は今までのトレーニングの成果が出てるんだろうか?ヴェネリオさんは私に目もくれずジェズと何かを話し合っていた。
「ノエミキュン…大丈夫…初撃は絶対僕が受け止めるから…」
うん、駄目だった。後ろに立つウザ男ですら私の緊張を読み取って、そんな言葉をかけてくれた。
「ジェズアルド様!お考え直し下さい!!」
「大丈夫だよヴェネリオ。元々僕はただの見学者なんだから、計画通りやれば全てうまくいくよ」
ジェズを引き止めるヴェネリオさんの形相は、形容しがたいほど必死な物で、なんだか私が悪いんじゃないかと思えてしまう。
「ジェズ、そんな大事な用があるんやったら、帰るのもうちょい後でも良いよ?私で手伝えることやったら手伝うし。」
「それは頼もしいけどね、でも駄目なんだ…。実はここだけの話なんだけどね…」
そう言って、ジェズ達がここで何をしようとしていたのかを説明してくれた。
曰く、ヴェネリオさんは第二王女アーダ様と人知れずお付き合いしているらしい。
二人は結婚の約束を交わすほど愛し合っているらしんだけど、伯爵家の三男程度ではとてもじゃないが許される見込みは無いんだそうだ。
だけどそれで諦められる二人じゃない。
「二人の間に障害が多いほど愛は燃え上がるんだよ」なんて意味のわからない事を、ジェズは言っていたけれど、ともかくヴェネリオさんは武功を上げて自分の価値を高める事にしたそうだ。
とは言え戦争も起きていない平時では武功を立てるのは難しい。
強大な魔物を倒せば名は広まるが、それはどちらかと言えば冒険者的発想で貴族としての名声とは比例しなかった。
最も、偶然街を襲ったドラゴンにでも倒せば話は別なんだろうけども。それこそ、戦争が起こるのを待つほうがまだマシな確率だといえる。
「そういうことか…って、あかん!いくらなんでもそれはあかんで!!」
ここまで聞いて、余りに恐ろしい考えが頭に浮かぶ。
これなら確かに、うまくやれば名声は得られるだろう。密な計画を練れば被害も抑えられるとは思う。
だけど流石にこれはあかん。
「え?駄目かい?」
「当たり前や、そんな人を食い物にするみたいな事…悪魔の所業やで」
「んー…確かに人を殺めるのは褒められたことじゃないだろうけど、相手は犯罪者だよ?」
ブッ飛んだ感性は置いといて、ジェズは王侯貴族の中じゃ平民寄りの感性を持っているなと感じていた。
だから余計に残念だ。
こんな人を人とも思わない計画を、悪びれもなく立てれる様を見て幻滅する。
「犯罪者って…いや、それでも中には善人がいるかも知れへんやん」
狙いは犯罪者ばかりを集めた村だろうか?
犯罪を犯し、罪を償った後でも居場所を追われる者は多いだろう。
そんな者ばかりが寄り集まって出来た村。私は聞いたことがないけど、何処かに有っても不思議じゃない。
「いや…確かに昔は善人だったって者も居るかも知れないけど…それを言ったらどんな悪人だって生まれた時は善人じゃないか。ノエミが優しいのは分かるけど、そんな昔のことを持ち出して、今現在盗賊という悪行を繰り返している者たちを許すわけには行かないよ。」
「え?盗賊??」
盗賊という言葉に私の勢いは一気に減速。
噛み合わない会話に、絶賛混乱中だ。
「そう、盗賊だよ。この森の奥に100人規模の大盗賊団が最近根城を築いたと情報を得てね。その討伐を持って武功としようと、ヴェネリオと共に来たんだよ。」
「あ、盗賊か…それならまぁ…しゃーない…かな……でもまぁ…極力法の裁きをね……」
「ははっ、それは大丈夫。ヴェネリオも虐殺するために来ている訳じゃないからね。降伏した者の命までは取らないよ。それにしてもノエミはホント優しいんだね。」
その言葉と同時に、ジェズの慈しむような視線が私に向けられる
「う、うん…ごめんね。変なこと言って…………。」
『……うまく誤魔化したな』
アデルが私の前に回り込んでニヤニヤ笑ってる
『だけどどんな事と勘違いしたんだろう?悪魔の所業とか言ってたよね?』
(…………。)
黙秘を決め込むも、恥ずかしさで、顔に熱が溜まって行くのが分かる。
『そうだな……街にワザと魔物を嗾けて、それを討伐して名を挙げる。そんな絵でも書いたんじゃねーか?』
『ハッ!流石は魔王だね、発想がいちいち下衆すぎるよ。ノエミがそんなこと…………ノエミ?!』
肯定も否定もできずに、ただ下を向く。耳が燃えるように熱い…。
「ジェズアルド様!本当に返ってしまわれるのですね?」
若干存在を忘れてしまっていたヴェネリオさんが、覚悟を決めたようにジェズに問う。
「そうだね」とジェズが答えた瞬間、ヴェネリオさんの気配が一転した。
「ジェズ下がって!」
とっさにジェズの手を引いて、私の後ろに回り込ませる。
同時にウザ男が反対側から私の前に半歩出て、庇うように片手を伸ばす。
「ジェズアルド王子、どうしてもあなたが帰ると言うのなら仕方がありません。先の憂いを取り除く為にも、ここでご退場頂きましょう。」
ヴェネリオさんが言うと同時に、後ろの兵たちが一斉に武器を抜き、三歩前に出て身構える。
ジャン!ザッザッザッ!
音にすればたったこれだけで表せる程の、微塵の狂いもない統率された動き。
ここが集団演舞の発表会場なら今の動きだけで拍手喝采を受けていただろう。
「ノ、ノエミキュン…勇者だ…」
私の前に突き出した手を、僅かに震わせながらウザ男が呟く。
「なに?カストと代わったらええの?」
「ち、違う、彼……彼の中に初めて見る勇者がいる」
「え?」
『なに?!』
『なんだって?!!』




