39話 リオの愚痴(閑話休題)
僕の名前はリオ。最近ウザ男という新しい呼び名を貰ったけど、一応11代目の魔王だと自覚してる。歴代の魔王たちは生まれた土地の名前と共に呼ばれるので、僕も将来はリオ・ベルターニなんて呼ばれるんだろう。
このまま行くとウザ男・ベルターニとか言われそうで恐いけど…。
ノエミキュンがウザ語と呼ぶ僕の若気の至り。なんだかとても気に入られてしまった様で、普段から使うことを義務付けられてしまった。ノエミキュンの説明でいかに恥ずかしいことをしていたかを思い知らされ、それを分かりながらも使い続けるのはとても辛いんだけど、実はちょっと助かってる面もある。
アデル様もカスト様も入っていない素の状態のノエミキュンの前に立つと、ザワザワと僕の心の落ち着きが無くなって、まるで初恋の女の子を前にしたような気持ちになってしまうんだけど、ウザ男キャラを演じてるときはそんな僕の心も落ち着きを取り戻すからだ。
こんな事を言うと、僕がノエミキュンに恋してる様に聴こえるかもしれないけれど、それは断じて否定したい。
僕の心はあくまで見た目に騙されているだけで、あんな人を弄る事が生き甲斐だと公言するような女性は、手に余りすぎるので御免こうむりたい。
手に余ると言えばカスト様だ。
素のノエミキュンの時やアデル様が入っているという状態の時は何も感じないんだけど、カスト様が入られた瞬間、僕の感情が形容しがたいほどに揺さぶられて、意識が飛びそうになってしまう。
子の仇、妻の仇、親の仇、故郷の仇。
全部僕の想像に過ぎないけど、それらを合わしてもまだ足りない程の怒りと殺意がこみ上げて来て、同時にそれ以上にカスト様は危険だと僕の本能が警鐘を鳴らす。
ノヴァリャ聖国の勇者に対しても同じ様な感情にはなったけど、アレとコレでは比べる次元が違ってる。
奴から逃げた時は強くなって身を守ろうと考える余地が有ったけど、カスト様を前にしたら、強くなることも、逃げ出すことも無駄な事だと本能が叫んで動けなくなる。
「テストのときカストが相手してたけど平気やったやん?」
ノエミキュンにそう教えられて気がついた。僕のウザ男モードはカスト様に対しても免疫効果を発揮するようだ。
「つまり俺様ちゃん、一生このキャラで通さないと駄目なんじゃね?」
「『慣れればいいだろ。』」
ついつい零れ出た不安に、アデル様の一声だ。
その日から、一日三度カスト様と試合することが決定してしまった…。
生きながらに殺されながら生かされる。そんな異常とも言える経験が僕の日課に成った瞬間だった。
それでも僕がここにいたいと思うのは、やっぱりアデル様の存在だろう。
アデル様が入ったノエミキュンの前に立つと、まるで母さんを前にしたような感情になり、心が安らいで暖かい。
ノエミキュンに対しても時に厳しいアデル様が、僕に対してはいつも優しく、懐くなという方が無理な話だ。
そんなアデル様に、僕は魔王に成って以来気になっていた事を聞いてみた。
「アデル様…何時まで経っても魔王軍の幹部みたいな人達が迎えに来ないんですけど……魔王軍の本拠地って何処に有るんですか?」
「『魔王軍?本拠地?そんなもんはお前次第だろ?』」
「え?えっと……それじゃぁ呼び出しとかはどうやったら良いんでしょうか?」
「『呼び出しぃ?そんなもんお前、自分の足で各地を回って探すしか無いだろう?』」
「えぇぇ!自分で探すんですか?!せめてヒントとか無いんですか?!!」
「『ヒントなんか知るかよ!テメーの軍をテメーで探さないでどーすんだ。まさかビラでも撒く訳にはいかないだろ。』」
「えぇぇぇぇそんなぁぁぁぁ~」
壮絶な意思の食い違いだった。
よくよく聞いてみると魔王軍を作る作らないのは僕次第らしい。
「それじゃぁ、僕が作らないと魔王軍は存在しないんですか?」
「『当たり前だ。そりゃ過去にも軍を作った奴はいるがそれでも2000年ほど前の魔王だ。未だに残ってるはずがないだろ』」
つまりはそういう事で、魔王になれば魔王軍がもれなくついてくる。そんなのは僕の勝手な思い込みだった。
ピンチになれば、颯爽と魔王軍が助けに来てくれる。そんな賭けに出なくてほんと良かった。
そんな間抜けな僕の、僕自身気が付いていなかった魔王としての能力を見つけてくれたのもアデル様だ。
僕の力は浄化の力と言うらしい。
それはあらゆる状態異常を浄化する力で、病や呪い、アンデット化すらも消し去ることが出来るらしい。
全くのノーヒントから、アデル様の指示通り2つ3つ魔法を試すと直ぐに答えが判明した。
それは、本人も自覚していない得意分野を見つける事に等しくて、普通はもっと長い時間をかけて見つけるものだろう。
「流石はアデル様です」と称えたら、
「『対になる勇者の力が分かってたら造作もねーよ』」
なんてサラリと言ってのける。ヤッパチョーパネェッスアデル様!
怖かったり、辛かったり、恥ずかしかったりするけれど、必死の思いでしがみついたザイラ伯領に仕官できて本当に良かったともう。
「ウザ男~訓練の時間やで~」
ノエミキュンの声に残ったお茶を慌てて流し込む。
昼食前の軽い地獄の始まりだ。
「チョーベリ了解だよノエミキュン!」
僕は素早くウザ男モードにチェンジして、ノエミキュンの元に駆け寄っていく。
「ウザ男。今日はあんたの大好きなアデルが訓練してくれるって」
「ったぁーーーーホントですか!嘘じゃないっすよね?嘘じゃないっすよね?嘘じゃないっすよね?自分マジ感激です!!ほんと生きててよかったです!!!」
「あはは、嬉しそうやな…。素に戻るくらい喜んでるところ悪いんやけど、カストから一個だけ条件出されてね」
「くぅぅぅ、後出し条件付きってチョーキビスィィ!俺様ちゃんチョーDokiDOKIしちゃってベリーバットサンキューフォエバー。上がったり下がったりチョー懸垂」
「ぶっ、あははははは。落ち着けウザ男、条件言うてもカストにジャンケンで勝ったら良いだけやから」
「ジャ…ジャンケン?」
ノエミキュンのことだから、きっとまた碌でもない条件を言ってくるだろうと動揺してしまったけど、ジャンケンと言われて安心…は出来ない無いな……………逆に恐い……。
「ジャンケンって……グーで殴って、チョキで目潰し、パーの手刀で真っ二つですか…?」
想像の追いつく限り、最も最低な場合を想定して確認しておく。
先日も模擬戦のさなか「『ゴメン、こんなに脆いとは思わなかったよ』」なんて笑顔で言いながら右腕を切り飛ばされたことは忘れられない。
「それジャンケン言わへんやろ!ちゃうちゃう。誰でもやってるごく普通のジャンケンや」
「………お、オッケーオッケーオッケイチャンよ。ビビっとカスチンやっつけて、アデルパイセンにご教示貰っちゃうよ!」
「『ほぅ。僕の事をチ◯カス呼ばわりとは勇気があるね』」
「ち、違う…」
「『まぁいいや。ジャンケンなんて唯の運勝負、気楽にかかっておいで。』」
カスト様入のノエミキュンの笑顔に、体中の穴毛穴から汗がにじみ出る。
普段だったら思わずトキメイてしまうノエミキュンの笑顔なのに、今は只々恐怖しか感じない。
耐性のあるウザ男モードだからコレで済んでるけど、素の僕だったらショック死してるのは間違いない。
「そ、そんじゃぁ行っちゃうよ……さーいしょーはグー、ジャンケン…ポン!!」
合図に合わせて勢いよく僕はグーを出す。握りしめられた拳は捻り込むような回転が加えられそのまま真っ直ぐに突き出される。ヒュンッと風を切って繰り出された拳の先から滲み出た汗がノエミキュン目掛けて飛んでいく。
カスト様が出した手は………………チョキだった。
「ったぁぁぁぁぁぁ!!!!」
繰り出した拳をそのまま高く掲げ、僕は全身で勝利を喜んだ。
「勝った!勝ちましたよアデル様!!!」
そう言いながら、駆け寄ろうとした僕の足が動かない…。
「『ほぅ…………。』」
カスト様の呟きと共にノエミキュンの背景が歪で見える。
ウザ男モードの耐性なんかまるで意味をなさずに、僕の全身の穴という穴から水分がにじみ出る…革のズボンを履いててよかった、直ぐに染みることは無いはずだ………。
「お………俺様ちゃん勝ったよね……?」
決死の勇気を振り絞り改めて互いの手を見比べるが、間違いなく僕がグーでカスト様がチョキを出してる。
「『君はアレかな?その程度のグーで僕のチョキを破れるとでも思っているのかな?』」
「その程度?てっ?えっ?じゃ?ジャンケンだよですね?コレ??」
「『うん、その通りだよ。グー・チョキ・パーを使って相手より強い手を出したほうが勝ちだよ。』」
「えっ、とっ、そっ、それじゃぁやっぱ…」
「『君のグーは僕のチョキより強いのかな?』」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥お、俺様ちゃん、チョー早とちりしちゃったみたひ…………テヘッ」
有無を言わさぬカスト様の気迫の前に、ただもう、そう言うしか残されていなかった…。
ブクマ登録有難うございます。
話数<ブクマ数がいつまで続いてくれるのでしょうか、ヒヤヒヤドキドキ毎日です。
稚拙な文章で読みにくいとは思いますが、今後も宜しくおねがいします。




