33話 アベラルドの好奇心
「待たせたのノエミ。」
ノエミから本日中に再び謁見したいとの申し出があったと聞き、急ぎの執務だけ済ませカーラの私室へと足を運んだ。
「陛下!お呼び頂ければ私が向かいましたのに」
「あーよい。そのまま座っていなさい。」
カーラとクレオとノエミ。仲良くテーブルを囲み歓談していたようだ。
前触れ無く現れた我にクレオとノエミ、それに少し送れてカーラが立ち上がり礼を取るので着席を促す。
王家という常に気の抜けぬ立場に有る我が家族なれど、せめて王宮内だけは互いの立場を外し暮らす様決めておる。
「有難うございます。しかしながら陛下、いくら陛下とは言え突然入室されるのはお控え頂きたく思います。」
とは言え、側付の者を除いた他者がいる場合はそうも行かぬ。普段王宮内では我の事を父様と呼ぶカーラも、ノエミが居ることを考慮し陛下と呼んでおる。
「おぉ、すまぬ。それとカーラ、今後ノエミの前では普段のように振る舞うことを許すゆえ其のつもりでいなさい」
「…分かりました……。では父様、いくら家族とは言え娘が友人を招いてる部屋にノックもなく入るとは、市井の娘ならば数日口を利かなくなりますよ!けして殿方には聞かれたくない話もあるのです。今後はお気をつけください!!」
我としたことが判断を早まったか、とたんカーラからこっぴどく怒られてしまった。
(娘よ。許可しておいて何だが、少しは我の立場を考慮してほしかったぞ……。)
ノエミは見てはいけない物を見てしまったような顔をして目を伏せておる、我はせめてもと声にありったけの威厳を込めて「すまなんだ」と頭を下げた。
「あー、してノエミよ。我に用件とは何であったか?場所が悪いなら移しても良いぞ?」
カーラの横に腰掛け、未だ気まずそうな顔をしているノエミに話しかける。
一日に二度謁見を求められたことなど今までに無い事であったので、情けなくも何を言われるのか気が気でない。
「あーと……カーラ様達は居てくださって問題ありません。それじゃぁ、ア………」
「『王よ、この国は目先に欲にとらわれること無く今後もノエミの後ろ盾と成ることを誓えるか?」
突如ノエミの言葉遣いと取り巻く空気がガラリと変わる。この変化は過去にも何度か見ているが、今日の変化はその比ではない。
確かこの様な口調のときは魔王アデルを演じているときであったと記憶しておるが、なんともこれ程の威圧を発せられると、ついつい本当に魔王の魂が入っているように思えてしまう。
彼女の実力からすればこの様な威圧も造作も無いことなのかも知れないが、普段はこれを完全に隠し通しているのかと思うと空恐ろしくも有る。
背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。
「フム、後ろ盾であるか……カーラにクレオ、そしてノエミよ。これから話すことは他言無用として欲しいが、我としてはノエミにこそ、この国の後ろ盾であって欲しいと願っておる。我には国の都合よくノエミを使う力量などとても持ち合わせておらんが、他国に渡ればどうであろうかと、時折ふと考える度に眠れぬ日があるのが正直なところじゃ。流石に王家の歴史を我の代で絶やすわけには行かんので国をまるごとやることは出来ぬがな」
王の言葉としては何とも情けない言葉である。
歴史を紐解けば過去の勇者の現れた国の王達は、実に匠に勇者を使い国力を伸ばしてきた。
勇者に求められるのは何も魔王を倒すだけではない。其の圧倒的な力をもってすれば、小国が大国を打ち倒す事も叶う。
そういう意味では、今回勇者を得たというノヴァリャ聖国の宣戦布告も、ある意味正しいやり方であろう。
しかし同時に、勇者を得ていながら勇者に見限られてしまった国があることも歴史上紛れもない事実で、其の国の王は軒並み愚王として語られておる。
愚王として後世まで名を残すくらいなら、我は弱気な王として歴史の波に消えてゆきたい。
「『それは今後ノエミを裏切るような事はないと誓うということだな?』」
「うむ。それで間違いはない。最もノエミが我が国に牙を向けなければと付け加えなくては成らぬがな。」
「『カハッ、そりゃそうだ。……良いだろう、お前の欲しがっている信頼の証というものを、一つこちらから出してやる。』」
ノエミはそう言って立ち上がり、有事の際逃げ込むのに最も適した場所はと訪ねてきた。同時に我が正妃サーラも立ち会うように言う。
一体何をするのかと訪ねてみたが、「やれば分かることをいちいち説明するのはゴメンだ」と答えてもらえなんだ。
それにしても、ノエミのこの言い様にいつジャンとクレオが食って掛かるかと心配したが、ノエミの威圧に押されそれどころでは無いようだ、ホッとした反面少し寂しく感じるのは人の性であるな。
ちなみにジャンとは、我の近衛であり幼少の頃より共に過してきた友である、
ベルトイア公爵ことクレオの父、ジャン・ベルトイアの事だ。
「ここに即位した者のみが知る隠し扉が有る、まさかブロットの血を持たぬのもにコレを教えることに成るとは、何とも複雑な心境であるな」
我の私室に有る隠し扉前に立ちノエミに言う。
「『ハッ、それは悪いことをしたな。それじゃぁそこの騎士、剣をかせと言っても無理だろうから、お前が代わりに斬ってくれ。指先に血が滲む程度でかまわねぇ。』」
ノエミが突然其の様な事を言って小さな手を差し出す。指されたジャンは少し戸惑うが、我が目線で頷くと懐から取り出した短剣でノエミの指先を小さく切る。
「『よし、それじゃぁ全員同じようにし、出た血を一滴で構わねぇからこの器に入れろ』」
ノエミはそう言いながら自らの血を器に落とす。
流石にそれは出来ないとジャンが言うので、代わりに我が皆の指先を切っていく。
我とサーラとジャン、そしてカーラとクレオとノエミ。
全員の血がノエミの持つ小さな器に落とされて混じり合う。
ノエミは歌というよりも音楽を奏でるような魔法を唱えだし、唱えながら隠し扉に向かって見たことのない魔法陣を書いていく。
「『よし、コレでいいだろう。よし、誰か試してみろ。』」
魔法陣を書き終えたノエミは振り向くと、我らに向かってそんな事を言う。
「……ノエミよ、疑うわけではないがせめて其の魔法陣が何なのか説明してくれぬか…」
「『あぁ?この魔方陣を見て何かわからないのか?お前それでも……』」
「申し訳ございません陛下。アデルの奴ほんと口が悪くて……。ちょっ、良いからもう黙っといて!!………あはははは、すいません……。えっと変わって説明させていただきますと、これはアデルの旧居城までつなぐ転移陣になります。害は御座いません、「転移」と言って陣に触れて頂くだけで発動しますので、一度お試しいただけませんでしょうか?」
再びノエミの口調と気配が変わる。先程までの威圧は完全に姿を消し、何処から見ても普通の少女にしか見えないノエミがあった。
何とも手の込んだ芝居である。その様な設定を持ちえずとも我らの見る目が変わるような事はないというのに………。
(「大きすぎる力は時には奇異の目で見られることになります、時には同じ人として扱われないことも。ノエミ殿はそれらを恐れ、この力は神代の魔王と勇者の力なんだと理由付けたいのではないでしょうか?」)
以前ジャンがノエミをその様に分析しておったのを思い出す。しかし、この様にコロコロと気配まで変わってしまっては、余計不気味に感じると思うのは我だけでは無いと思うのだが………。まぁ、それも若さゆえの過ちであろうか。
「それなら私が試させて頂きます」
「いけません姫様、それならば私が先に参ります」
ここに居る誰もが二の足を踏んでいる最中に、カーラが進んで前に出て、クレオが必死に止めておる。青髪の子は生まれながらに王の資質を持つと言われておるが、まことこの器の大きさは凡庸な我には真似できぬ所である。
ブクマ登録有難うございます。
少し書き溜めが出来始め、近く週三位で投稿できることがあるカモ?しれません。
とは言えそれが続くわけもなく。頑張ると言ってもその程度が限界です、、、。
何処かで投稿数が増えてたら、お、頑張りよったな。なんて思っていただければ幸いです。
稚拙な文章で読みにくいとは思いますが、これからも宜しくお願いします。




