32話
王宮の一角にある、陛下の私室に招かれて途切れていた話の続きを伺った。
端的に言うと陛下の要望は、クローチェに騎士団を駐留させて欲しいと言うことで、指揮権なんかは持たせないでねと言質を取って、私はそれを了承した。
私からはワイバーンのアンデッド化が人為的なものではないか、と言うアデルの見解を念のため伝えておく。
陛下は半信半疑ながらも、調査隊を編成して街の内外に派遣するようジェズ様に申し送られると、僅か2~3時間で成果報告がやってきた。
場所を王城の謁見室に移すべく移動する。
私にも立ち会って欲しいと言われ、陛下の後を付いていくと………玉座の裏側、陛下専用の通用口から謁見室に入ってしまった。
(えっなんでお前がそこにいんの?)
王台の上で、立ち並ぶお城の重鎮方の雄弁に語るそんな眼に晒されてオロオロしていると、下段の脇に控えるジェズ様が手招きしているのが見えたので小走りで駆け寄っていく。
「凄いねノエミ。後にも先にも王族以外があの扉を潜ったのはノエミだけだよ」
真っ赤に赤面する私を、ジェズ様がそんな風に弄ってくれるが、今は入る穴を探すので精一杯だ。
恨みがましく陛下の方を見ると、ニヤリと不適に笑う陛下の顔が見えた。
その笑顔から悪気のない悪戯心だと察しはつくが、公私の区別はつけて欲しいと赤面しながら切に願う。
「我が名はボイスの子・アブラーモ。ノヴァリャ聖国二級使徒である。偽神に支える異国の王よ、此度の不当な拘束は如何なる大義あっての事かお聞かせ願いたい。」
ロープでグルグル巻きにされて連行されながらも、陛下に対してひれ伏すこともなくなんとも慇懃無礼な物言いをするこの男。
調査隊が郊外の林の中で遭遇し、逃げ出そうとしたので捕らえられ、連行されて来たらしい。
物言いだけみれば、其なりの地位に有る者のように聞こえるが、薄い綿のパンツにうっすら紫色に染められたローブといった姿は、率直に言って貧乏臭い。
お世辞にも地位がある様には見えなかった。
「ジェズ?あの人の言う二級使徒ってどれくらい偉いんです?」
身なりと物言いのギャップが余りに激しいので、隣にいるジェズ様に聞いてみた。
「あー…二級使徒って言うのはね、この国で言うと爵位の無い兵卒って感じかな。あの国の国民に成れば全員が三級使徒を名乗れて、兵役に着けば二級使徒が与えられる。隊長クラスで1級使徒になって、騎士に相当する者はパラディンと呼ばれてる。このパラディンにも上中下級とか有るんだけど、その辺はややこしくなるからまた教えてあげるよ。」
「えっ?それであの物言いなんです??」
「ハハッ。彼等にとっての異教徒は、三級使徒より下に存在するからね、あれで普通なんだよ」
「うわぁ、それはちょっと仲良くなれへんわ…」
ヒソヒソと私達がそんな話をしている間にも、使徒様への詰問は続いている。
「それでは先程のワイバーンはノヴァリャ聖国が送り込んだと言うのだな?」
「送り込んだ等と口を慎まれよ。愚かにも魔王の手に堕ちたこの国を救うべく、勇者様の神器によって神獣と化したワイバーンを遣わして頂いたのだぞ!」
最後までそんな口調で洗い浚いを説明してくれた使徒様は、やがて兵に連れられて牢屋に向かった。
「あの使徒様も捕まったのが温厚な陛下の収めるこの国で良かったですね」
謁見室から退室する途中、並んで歩くジェズ様にそんな事を言ってみる。
相手が陛下でなければ、とっくに彼の頭と身体は離れていただろう。
「そうかな?どの道今夜、彼の牢屋には偶然毒蛇が紛れ込むだろうから結果は変わらないと思うよ?」
サラッとそんな事を言ってのけるジェズ様を2度見して、改めて言動に注意しようと気を引き締めた。
王城を出たところで、「それじゃあまたね」と言ってジェズ様が去っていった。
私はこれからカーラ様の元に向かうと言ってあるので、てっきりついてくるものと思い込んでいたので驚いてしまった。
「離れるのは寂しいだろうけどまた直ぐに会えるよ」
お陰でそんな勘違いした言葉とウインクを飛ばされてしまう。
うん、やっぱ苦手だわこの人…。
カーラ様の私室に向かう途中、アデルが不意に真剣な顔で聞いてくる。
『ノエミ、この国とあの王族達の事は好きか?』
(なんやいきなりやな?そりゃこの国は自分の生まれた国やし、陛下達も好意的に接してくれるから嫌いになるほうが難しいよね?)
『……そうかわかった。それじゃあ後であの王と少し話をさせろ』
(え?無理。)
『あぁ?!てめぇ、無理じゃねーだろ無理じゃ!!』
即答で断った私に向かって、アデルは柄悪く睨み付けながら迫ってくる。
(はぁ?!無理に決まってるやん無理に。普段から只でさえ突飛もない事ばっかり言うてる奴に、改まって話させろとか怖すぎるわ!)
私も負けじと睨み付け、迫るアデルに向かって前に出る。
これがコントならこのままキスして落ちがつく、そんな距離まで接近したとこで、アデルは舌打ちしながら背を向けた。
勝った!!!
アデルの背中に向かって、両手を高く上げて拳を握る。
『てめぇ、勝ったとか思ってんじゃねーぞ!!』
何かを感じたアデルはサッと振り返り、再び私を睨み付ける。
私の両手は、アデルの視界に止まること無く下げられて、既に私の背中で組まれていた。
これもカストとの訓練の成果だろう。
チッっと再び舌打ちをしたアデル、「はぁ…」と1つ溜め息をついてから、陛下に話すつもりの事を教えてくれた。




