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28話


「『陛下、行ってまいります。』」


カストは素早く自前の装備を身に纏い、陛下に軽く会釈をしてバルコニーから飛び降りた。


(チョッ、アホ!ヒャァーーーー)

              スタン。



(スタン。ってなんやねん……。)


若干目頭に涙を溜めながら今飛び降りたバルコニーを振り返る。

数十メートルありそうな高さから飛び降りて”スタン”と降りるとか。この世界で物理なんて言葉は聞いたことはないけれど、それはそれ。いくらなんでも可怪しいだろう。


「『はは、何を怒ってるんだい?』」


カストはなんら気にした様子もなく広場に向かって走り続け、アデルは呆れたように引きづられているが、これは助けに行くことに対してだろう。こうなってくると、だんだん私の感覚が可怪しいのでは無いかと思えてくるから怖い話だ。


風のような速度で走る私の身体。それでも昔のように身体が悲鳴を上げていない事に成長の手応えを感じる。


1人の女性とすれ違いざまに、風圧でめくれかけたスカートの裾をカストは素早くはたき落とす。「キャッ」っと女性の驚きの声が聞こえたのは、既に何十メートルも離れた後のことだ。

カストさん。紳士的なのは良いけど、世が世ならこれも立派なセクハラだと思うよ?

なんてくだらない事を考えている間に、広場についた。


(えぇ…あんなん有りなん??)


広場について目についたのは、ボロボロに成った騎士団員達と、今まさにワイバーンの攻撃で弾き飛ばされた騎士団長の姿。そして、その騎士団長を弾き飛ばしたのは首のない黒焦げたワイバーンだった。

騎士団長は弾き飛ばされた勢いのまま近隣の家の壁に突き刺さる。辛うじて立ち上がろうとしている姿が見えて安心するが、他の騎士団員たちは手足がちぎれ、腸を掻き集めながら藻掻く者もいたりして、さながら地獄絵図のようだ。


『これがアンデット化の厄介なところだ。頭を潰そうが、心臓をえぐり取ろうが、残った体積の大きな部分が活動を続けやがる。理屈の上では、チリのように細切れにしても、どれか一つの部分は生き続けるから邪魔クセェ。』


(うわ、最低やなそれ…。)


『あぁ、最低だ。だからこそ随分昔に死霊術士は軒並み殺されて、今ではもう残ってないはずだ。全く何処のバカが掘り出して来やがったのか…』


2~3年に一度の割合くらいで、自然にアンデット化する魔物が居ると言う話は私も聞いた事が有るが、昔はそんな魔法が存在したと言うのは驚きだ。


「『はははっ、僕が来たからにはもう安心だよ!!』」


私とアデルのそんな会話を完全に無視したカストは、アンデットワイバーンの前に立ちはだかり妙にテンションの高い声で叫んでる。

私の身体でそういう事するのはホンマ勘弁してほしい。


「『行くよ!!!勧奨懲戒!ミギョログアリチョーレ!!!!』」


カストは手に持つ聖剣ガルガーノを高く掲げて、何かを叫んだ。

同時に広場一面キラキラと輝き出し、その光に触れた身体がえも言われぬ癒やしに包まれる。


(こ、今度は何事?!ってか、カストのキャラ若干変わってへん???)


『俺たちの時代の広範囲極大回復魔法だ。範囲内に居るものは手足が千切れていようと、死んでいようと全快する馬鹿げた魔法だ。最も生き返りはしないがな。』


(はぁ?なんなんそれ。ホンマ常識外れな…ってか、そんな魔法をこんな公衆でで使ったら又邪魔くさいい事増えるんちゃうん?!!!)


そんな私の訴えは時遅く、辛うじて命を繋ぎ止めていた者たちは突如全快した自分の体に困惑しながらも立ち上がり始めていて、更にはアンデットワイバーンのまで首生えてきた。


(ちょっ!敵まで回復してヘンか?!ってか、そもそもアンデットって回復魔法でたおせるんちゃうん???)


『あぁ?誰に聞いたか知らねーけど、そんな事あるわけ無いだろ。アンデット化は死体に膨大な魔力が入り込み、その影響で生前の行動を模しているだけだ。死霊術なら多少の命令はすることが出来るが、言ってしまえばそれだけだ。』


通常の回復魔法なら生命活動が止まった時点で効果をなくすが、カストの馬鹿げたこの魔法はその限りでは無いという。


(そんな敵味方関係なく回復するって……アホやろ?)


『アホなのは同意するが、敵・味方を分けて回復するなんて都合のいい魔法は流石に存在しねーよ。まぁ、この程度の敵なら腐れ勇者の敵じゃねーから安心しろ。』


そんなふうにアデルに言われてみれば、最もな事で。さっきのアンデットの件といい、どうにも前世の知識がごちゃまぜに成っているようだ。


「『さぁ、まだまだ自分たちの正義に陰りがないものは武器を持って、もう一匹のワイバーンを倒してくれ。このアンデットは僕が相手する。』」


カストの方は、私達の会話など何処吹く風で、何が嬉しいのか知らないがいつも以上に絶好調にノッている。

素早く立ち上がった者たちに指示を出し、有無を言わせず従えていく姿は流石は勇者なんだと関心してしまった。


完全に折れかかっていた騎士団達の士気は、カストが起こした奇跡によって完全に持ち直し、誰一人挫けること無くワイバーンに立ち向かっていった。


奇跡…自分で言っておいてあれだけど……やっぱ奇跡にしか見えないよね…。

戦いの最中だと言うのに、時折向けられるキラキラとした騎士団員たちの視線が痛い…。

背中にゾクッと視線を感じて振り返ると、まるで少女がガラス越しに憧れのワンピースを眺めるような目で、騎士団長が見つめてる…。


皆を助けたことに異論はないが、戦いの後何を言われるか考えたら、恐ろしすぎる。


(アデル。ワイバーン倒し終わったら、速攻でクローチェまで飛んでな…)


そんなその場しのぎにしか成らない事をアデルに願って、深くため息を付きながらカストの戦いを眺め続けた。


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