27話
「ノエミ!そなたは我と共に来い!」
アデルと醜い責任の擦り付け合いをしていたら、陛下がそう言いながら私の横を通り過ぎていったので、慌てて後を追う。
長い廊下を何度も曲がり、これは絶対一人で戻れないなと思った所で、城下を一望できるバルコニーに出た。
街の一部では火の手が上がり、そこを更によく見てみれば家の屋根にワイバーンが取り付いていた。
「一匹しか居らへやん?」
「あそこだ。」
アデカスに訪ねたつもりの言葉に陛下が答えて下さり、街の一角に向かって指を伸ばされた。
陛下が指し示す方向を見ると、少し離れた場所にある広場でもう一匹のワイバーンを無数の兵士たちが取り囲んでいるのが見えた。
「危ない!」
思わずそう叫んだ時には既に遅く、素早く振り回されたワイバーンの尻尾の一振りで10人以上が吹き飛ばされていった。
「行って来…」
「待て!」
ます。と言いかけて、手すりに手をかけた私を陛下が制止する。
「ノエミを呼んだのは他でもない、我が王国の力の一端を見て貰うためだ。見よ、あれが我が王国最強の部隊。レグレンツィ正騎士団だ。」
再び広場に目をやると、広場に続く大通りから10騎程の騎馬が到着した。
騎士団達は到着早々下馬すると、一人を中心に散開し取り囲んで行き、囲いが完成すると同時に八方から炎の魔法が放たれた。
火炎放射器を思わせる強い炎が5秒ほどワイバーンに浴びせられる、ワイバーンは魔法が止まった後も煙を上げながらブスブスと燃え続けていた。
「おぉ凄い!一撃で倒したやん……ですね…」
「ハッハッハ、なに、二人の時はそうかしこまる必要もない。寧ろ友のように思ってくれれば我も喜ばしい。」
予想以上にワイバーンを瞬殺したことに驚いて思わず独り言をこぼしたが、陛下が居られる事を思い出し、言葉を誤魔化す。が、陛下はさして気にした様でもなく寧ろタメ口大歓迎といった趣だ。
(小娘相手に友達みたいにとか、ここの王族はいったい何なん…?)
懐柔策だろうと分かってはいるが、王族ってこんな軽いもんじゃないはずだ。
『お前の力はこの世界の軍事バランスを激変させるからな。国としては大いに利用したいが、かと言って無理を言えば国外に逃げられる可能性もある。友達の為となったら、多少の無理でも叶えようとするだろ?王族のプライド程度でお前が使いやすく成るなら安いもんだ。』
『アデルが言うと少しトゲが有るように聞こえるけど、僕の知る限り、王というのはそのプライドを捨てれない者ばかりだからね。そういう意味ではこの王は中々に出来た王だと思うよ。最も、それを懐が深いと取るか、強かだと取るかはノエミ次第だけどね。』
(はは…何にせよ、これから先はあんたら以外にこの国にまで振り回されるかと思うとゾットするな……。)
若干引きつった顔をしながら、そんな脳内会議を繰り広げる私に陛下が気が付き、大凡アデルが言った事と同じような事を自ら語られた。
そんなセリフを小娘相手にぶっちゃけるのも如何なものかと思わないでもないが、少し照れるようにそう語られる陛下を見て、懐が広いほうなのかな?なんて思えたりした。
ワーワーと騒がしい街に向かって再び意識を戻す。
先程一匹のワイバーンを倒した広場に目をやると、騎士団達は二匹のワイバーンを相手に戦っている。
「あれ??」
見間違いかと二度見するが、間違いなく先程真っ黒に燃やされたはずのワイバーンと、家の屋根に取り付いていたワイバーンが合流して、元気に兵士をなぎ倒していた。
「ワイバーンってあんな頑丈なんですかね…?」
独り言の体を装って陛下に訪ねてみるが、陛下は手摺を強く握りしめ、無言で広場を睨みつけている。
『ノエミ少し借りるぞ』
アデルが珍しく断りを入れてから、私の身体に入り魔法を使う。
2メートルほど離れた空中に丸い画面が合わられて、広場の様子を拡大した。
(おぉ。千里眼みたいなやつ?)
(『懐かしい言葉知ってんな、だが、これはただ空気中の水分でレンズを作って拡大しただけだ』)
アデルはそんな説明をしながらも、ワイバーンの様子をうかがい、舌打ちをしながら苦々しく言った。
「『チッ、アンデット化してやがる、何処かに術者がいやがるな。こうなったら騎士団共では手にあまり出すぞ』」
(え?そうなん??アンデット化しても特別強くなる分けちゃうやろ??)
『強くはならないけどね、アンデット化した魔物は手足を切り飛ばして無力化するか、完全に消滅するだけの攻撃を与えないと止まらないんだ。ここに居る者たちでは骨は愚か、肉を断つ事も容易じゃないと思うよ』
通常ワイバーンの様な大型の魔物を倒す時は、流血させて弱らせるか、先程のように全身を焼いてしまうしか手段がないそうで、硬い鱗や筋肉、更には骨まで切り飛ばしてしまう様な事はAランクと言われる者たちでも簡単な事ではないらしい。
そうこうしているうちに、騎士団達はみるみる数を減らしていく。
辛うじて、騎士団長と思われる人と数人が拮抗した戦いをしているが、カストの言う通り致命的な攻撃には至ってない。
(アデル行ける?)
(『あぁ?もう行くとかありえねーだろ。この王の口から助けてくれと言わせるまで待って、どっちが上なのかハッキリさせといたほうがお前のためだそ?』)
『余計なことを言うな魔王!!!僕がこの世に有る限り、僕の目の前で正義が損なわれる事は絶対にさせない!ノエミ僕の装備を取り出してくれ!!』
カストが言うほどの正義感は持ち合わせていないが、助けれるなら助けたい気持ちは私にも有る。とは言え、今後のことを考えるとアデルの言うことにも、一理あり……
(あっ。)
時間にして一分にも満たないが、私がウダウダと考えている間に騎士団長の渾身の一撃が決まり、アンデットワイバーンのクビを切り落とした。
『流石は騎士団長だね、見た所彼はAランクにも届いてないようだけど、護る者のために彼の限界を大きく引き出したんだろう。ノエミあれが正義の力だよ。』
(あ…うん……でもこれやったら、このまま行けそう…?)
確か以前クレオさんに聞いた話では騎士団長はB-ランクだった筈で、Aランクでも難しいことをやってのけた彼の底力は凄いと思う。
もう一匹残ってるけど、あれは普通のワイバーンなのであの騎士団長が居るなら余裕だろう。
『残念だけど、まだまだ楽観はできない。さぁノエミ、すぐに助けに行くよ。』




