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26話



すっかりお気に入りの飛行魔法で王城に向かう。

眼下に広がる雲の大地がとても綺麗で、天国というのはこんな所かも知れないなと私の中の乙女が顔を出す。

最も、私も一度死んで生まれ変わっているのだから、天国があるなら見ているはずだ。


(覚えてないって事は、天国なんて無いんやろな…)


天国の存在を信じていたわけではないが、無いと証明された気分になると、やっぱり少し残念だ。


「『天国に行ける前提ってのが厚かましいな』」


(やかましい。)


いちいち煩いアデルの言葉に折角の感慨が台無しになるが、どこまでも広がる雲の大地が心を洗ってくれる。

アデカスに憑かれたおかげで散々振り回されてきたが、憑かれたおかげでこんな景色を見ることが出来る。

思い返せばけして悪い事ばかりではなく、今の身に余る立場も二人のおかげだ。

少しは感謝してやっても良いのかも知れない。


『お、あそこにワイバーンが飛んでるよ』


遥か遠くの雲の隙間をカストが指差す。


(どこ?……あ、ほんまや。カストはほんま色々目ざといな。)


二匹のワイバーンが翼を並べて飛ぶのが小さく見えた。


『フフ…そりゃそうさ。僕は勇者だからね。』


全く説明になってない言葉を吐きながら、自慢げなカストが面倒くさい。


(あれって、討伐するべきやろか?)


「『(つがい)でこんな高度を飛んでるって事は、渡りの途中だろ。害をなしてない奴らを討伐してたらキリがねぇよ』」


害をなしてからじゃ遅いんだけど……なんて思いながらも、アデルの言葉が正しいんだろう。

過剰な駆除が引き起こす環境破壊は、魔物という強力な生物がいるこの世界では前世以上に影響が大きそうに思える。


(元気で生きや。)


なんて、何故かちょっと良い事した気分に成りながら、ワイバーン達を見送った。




ウベルティに着き、以前陛下に言われた通り騎士団の練兵場直接降りると、隣接する小屋の中から数名の騎士の人が飛び出してきたが、私の顔を確認すると直ぐに陛下に取り次いでくれた。

それこそ最初の頃は、侵入者だと一時騒然と成る騒ぎに発展したことも有り、しっかり伝達しておいてよと陛下を恨む事もあったが、最近は概ね順調だ。



「おぉ、ノエミ。相変わらず到着が早いな。飛ばした鳥が戻るよりも早いとは、まことそなたの飛行魔法は規格外よの。」


そういう陛下の顔は何故か嬉しそうだ。

因みに、まだ会ったことはないがレグレンツィ王国にも世界屈指の飛行魔法使いが居るらしい。

しかし飛行速度は15km/h程度で、高度も20M程度が限界らしく、私が規格外と言われるのも仕方がなかった。


「有難うございます。それでお急ぎの御用とは如何なものでありましたでしょうか?」


「おぉ、そうであった。実は先月ロサンドラがノヴァリャ聖国に襲撃を受けたのだ。」


「は?」と思わず声がでかけた。

ロサンドラと言えば先日移民をが流れ込んだ国境の町で、ノヴァリャ聖国と言えば移民の原因となった戦争をドラープ帝国と初めたばかりである。それなのにレグレンツィ王国にまで喧嘩を吹っ掛けるとは、指導者の気は確かなのかと疑ってしまう。


ロサンドラの街は街とは名ばかりの要塞であり、襲撃してきた敵兵の数もそれほど多くなかった事もあって、大した被害も受けずに迎撃に成功したようだ。


陛下は、宣戦布告もなく行なわれた襲撃の真意を問い質すべくノヴァリャ聖国に使者を立てられたそうで、私はその使者が持ち帰った話に関連するからと呼び出されたようだ。


「ノヴァリャ聖国は一部の暴走だと釈明しながらも非は認め、賠償にも応じる構えでは有るのだが、同時に暴走の原因の一端はこちらにも有ると遺憾を表明してきたのだ」


「遺憾ですか…それに私が関係していると?」


「うむ。読んでみるが良い」


そう言って陛下が差し出された紙の束が、脇に控える文官の手を渡って私に渡された。



びっしりと綴られた政治用語の山に目が眩みそうに成りながら、なんとか読み終えた内容を要約するとこうだ。


”最近レグレンツィ王国では勇者が現れたと騒いでるみたいやけど、本物の勇者はウチにおるから。偽物の勇者を祭り上げるとかやめてくれへんかな?折角神様がドラープ帝国を滅ぼすために勇者様を与えてくれたのに、民が混乱してほんま迷惑なんやけど。

うちの兵士が怒って暴走するのもしゃーないで?

噂に聞くSSランクが本物やとしたら、時期的にそいつは間違いなく魔王やで。

手に余るようやったら勇者派遣したるし、いつでも相談しにきいや。”


「『なん!…』」

    (ハウスやアホカスト!)


危うく飛び込んできたカストに紙束を引きちぎられそうになったが、間一髪弾き出せた。

読んでる途中から怪しい雰囲気を出していたのでなんとか反応できたが、カストの突飛な行動に慣れ始めてる自分が悲しい。

確かに私もイラッと来るような文の書き方だったので、なるべく軽く要約したのだけども、ここで書簡を破り捨てるほど憤慨するのは都合が悪い。


「コホン」


と咳払いして、カストがこぼした言葉を誤魔化してから話し出す。


「この偽物の勇者というのが私を指しているでしょうか?」


本物偽物以前に、勇者とすら名乗ったこともないのに何故私が関係するのか、前提から何かが食い違ってる気がする。


「皆まで言うな。確かに我も最初は戸惑ったが、ノエミほどの聖魔法の使い手が偽物の勇者で有るはずあるまい。時期的に魔王であろうと言われたとしても、そなたの回復魔法が魔王でないことを証明しておる」


暫く陛下の言葉を繰り返して考えてみたが、これって暗に私を勇者だと言ってない?


(ってか、魔王って回復魔法使えへんの?)


コイツ(カスト)程効率良く無いが、使えない事はねえな』


(ってことは私は魔王って可能性もあるん?)


『馬鹿な!ノエミが魔王の筈が無いじゃないか!!!』


(その心は?)


勇者(ぼく)の直感に間違いはないよ』


期待した私が悪かったのか、相変わらずのカストクオリティだ。


(…うん、その気持は嬉しいわ………。それでアデルはどう思う?)


『そうだな……俺以外の魔王は皆、勇者が発生してから誕生してるから、向こうが主張する順序が正しいのなら魔王だと言う理屈も有るが、お前は魔王じゃねーよ』

       『発生って虫みたいに言わないでよ』


(おぉ、断言してくれるんや。その心は?)


『たしかにお前は規格外の魔力を持って生まれたが、今力を振るえるのは俺の力だろう?それは魔王のあり方としては異質すぎる。』

         『僕の力もだよ』


(せやけど私だけでもファイヤーボールで都市破壊出来るんやろ?いかにも魔王って感じやん?)


『あぁ、前のは少し言い方が悪かったな。全く制御を知らないお前が魔法を使っても、初めに流す魔力が多すぎて起動しねぇんだ。』


(ふ~ん…それで起動したらしたで暴走するわけや…。っていうか、魔王の有り方って?そもそも魔王ってなんなん???)


『俺以外の魔王はこの世界の抗体だ』


(交代…?後退…?抗体…?なんやそれ……)

「…らはく……いらはく………ザイラ伯!!!!」

                       「なんや煩いな!あっ…。」


人が考え語としている時に、喧しく呼ぶのは誰だと反射的に叫んだら…忘れてた……。


「な…陛下の御前でなんという暴言を!!」


ヤバイ、いかにも役職の高そうな人がコメカミをプルプルさせながら怒ってる…。


「す、すいません。アデルとカストに……」

                 

意見を聞いてましたと言いかけた時に、バンッと激しく扉が開かれ兵士の人が駆け込んできた。


「報告します!2体ワイバーンが城下に襲来しました。至急正騎士団の出動を願います!!」


「なに!!」と陛下は立ち上がり、素早く指示を飛ばしていく。

騒然とする謁見室でポツンと取り残される私の頭に、翼を並べて空を飛ぶ二匹のワイバーンの姿が映し出された。


(アデル………二匹のワイバーンて、もしかして…。)


『知るか!俺は可能性を言っただけだ。それにあの段階で害をなして無かったのは間違ってねぇ!!』


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