24話 チェリオの正念場
俺の名前はチェリオ・カウジオ。ノエミの一つ年上の兄に当たる。
神童だ!なんて言われることは無かったが、幼少の頃から物覚えもよく、頭もよく回ったので10歳の頃には達観した大人の目線で物事が考えられる様になっていた。
ここだけの話だが、俺には前世の記憶が残っている。
記憶と言っても断片的なものばかりで、世界観もこことは全く違う世界の記憶だ。
人に話せば間違いなく夢だと言われるような事なので、この事は一生誰にも言わないつもりだが、これも俺を早熟させた理由と言えるだろう。
そんなマセた俺だったから、オヤジの野心に巻き込まれないよういち早く気が付き、行動できたのは幸いだと思う。
村に出入りする行商達に愛想を振りまき、可愛がられるように成ってから、遠巻きに奉公先を探していると刷り込んでいった。
回を増す毎に本気度を上げていく。いきなり本気で頼んでいたら、親に話されるか、もっと大きく成ってからにしろと、誰も相手にしてくれなかっただろう。
少しづつ意思を伝えていく事によって、商人たちが外で何気ない話題にしてくれることを期待してのことだった。
そんな努力の甲斐あって13歳の終わり頃、奉公先が決定した。
煙に巻くように両親を説得し、逃げ出すように家を出た。
「はぁぁ、やっと着いたぁ」
クローチェに到着した途端、ノエミが吐き出すようにそう言って座り込んだ。
ボニャを出発して2日半、これくらいの徒歩移動は珍しいことでも無いはずなのに、ノエミは馬車じゃないのかと散々文句を言っていた。
貴族様じゃあるまいし何処にそんな金があるのか、俺が文句を言いたかった。
因みに、うちの実家のような名前だけの貴族は貴族として認めていないのでご了承願いたい。
「どうもお世話になりました。」
ここまで無事護衛してくれたマウロさん一行に頭を下げる。
「おう、大将また縁があったらよろしくな………。ノエミも…またな?」
「何で疑問系?!」
ノエミは座りながら手の甲をマウロさんに向けて叩くふりをする。これはノエミが昔から愛用してるジェスチャーで、俺の前世の記憶にあるツッコミと酷似しているので昔はまさか?と考えた事もあったが、笑われるのが目に見えているので聞いたことはない。
それにしても、握手しただけでも手の骨が砕けてしまいそうな屈強な冒険者と対等に話すノエミを見て、妹の成長をマジマジと感じた。
ノエミは特に頭が回るわけでも物覚えが良いわけでもなかったが、昔から不意に鋭い言葉を吐いた。そんなノエミの世界がマセてた俺には心地よくて、いつも一緒に遊んでた。
昔から可愛い子だと言われていたが、俺が村を出る頃にはその評判が近くの街まで伝わり、一時は見学者で村が潤ったほどだった。
そんなノエミの事だから、今頃さぞかし立派な嫁ぎ先が決まっているだろうと思っていたが、まさか家出して冒険者に成ってるなんて…。
妹の成長は嬉しいが、兄としては心配の種が増えてしまって頭が痛い。
「チェリオここやで!」
ノエミの声に食堂の入り口を睨みつける。
町の入口で少し休憩した後、ノエミの案内で紹介してもらう食堂に向かい、まさに今扉が開かれた!!
ちょっと運命の扉みたいな感じで言ってしまったが、別に食堂の娘と繋がりを持った所で現状打開出来たとは思っていない。
しかし、この街で出店している以上許可を出した役人の顔は知っているはずで、もしも今もなお多少の交流でもあれば、許可を出した食堂の娘の友達の兄として手心が加わるかも知れない…………。
(許可を出した食堂の娘の友達の兄って誰やねん…………。)
自分で言ってて情けなくなる縁だが、土下座するしか残されてない俺には、どんな縁でも有難かった。
「あら、ノエミいらっしゃい!」
「マルディおはよぉ~簡単な軽食二人分と、ちょっとお願いがあんねんけど…」
給仕の少女がノエミの名を呼び、それに対してノエミも気安く返した、今も肩を抱いて何やら小声で話してる。その様子から、少なくとも食堂の娘の友達の兄の地位は安泰だと、空いたテーブルに着きながら安堵した。
(せやし、食堂の娘の友達の兄の地位ってどんな地位やねん……。)
やがて給仕の少女と話し終えたノエミは厨房から受け取ったサンドイッチを自らの手で運び、俺の前の席に腰掛けた。
「ここってこの街が出来て一番に店を構えた店やから、それなりの役人に紹介してもらえると思うで。」
「んん?!マジか!!何か騙してへんけ?!!ゴホッゴホッ…。」
進められたサンドイッチを口に頬張った瞬間そんな事を言うものだから、危うく吐き出しそうに成る。
「アハハそれは騙してへんて」
両手に顎を付いてニコニコ笑うノエミの両手をガシッと掴み、少し涙声に成りながら礼を言った。
「有難う…ホンマありがとうな、ノエミ」
「アハハ、大げさやな!どんだけ大物紹介してもらってもあんたは所詮、領地内で経営してる食堂の娘の友達の兄止まりってとこやろ?そんな縁とも言えんような繋がりしか無いんやから後は自分の頑張り次第やで」
ノエミは笑いながらも俺の手を強く握り返して、そう言って応援してくれた。
ノエミの言う通り、俺の持つ縁はすがれるような縁ではない、それでもノエミが絆いでくれた縁は俺にチャンスを与えてくれた。
後は全て俺次第だ。
ノエミはサンドイッチを平らげた後、用事があると言って何処かに出かけていった。
後のことはマルディに任せてあるからと言い残していったが、マルディからは何のアクションもなく、俺は手持ち無沙汰に空になったコップのフチを指でなぞっている。
こちらから声をかけるべきか?そう思って視線を上げた瞬間、食堂の扉が開いた。
「あ、いらっしゃーい。そちらにどうぞ」
そう言いながらマルディは、新しい客に対応するべく俺の横を通り過ぎていく。
邪魔しては申し訳ないと、挙げかけた手を膝に戻す。
実はこの間の悪さ、これで三度目の出来事で若干自信をなくし始めテーブルを見つめる。
「失礼します、チェリオ・カウジオ殿でいらっしゃいますか?」
テーブルに突っ伏して、絶賛自己嫌悪中だった俺に誰かが声をかけてきた。
「は、はいっ。チェリオ・カウジオです」
慌てて体を起こし、声の主を見ると綺羅びやかな金の細工が施された鎧を身にまとう女性が立っている。
「私、クローチェ騎士団、近衛長を努めますニルデ・パーチェと申します。主の命によりお迎えに上がりました。」
「え?…………?」
騎士団とか、近衛長とか、主とか、余りにも想定外の名が並んで思考が追いつかない。
満面の笑顔で手を降っているマルディを見る限り、ノエミが絆いでくれた縁の続きで間違いなさそうだ。
(食堂の娘言うても、持ってるもんがデカイと人脈もデカイんやろか…)
振られる手に合わせてフルフルと揺れるマルディの胸を見ながらそんな事を考えた。
「主を呼んで参ります、暫くこちらでお待ち下さい」
「え…あ…はい…。」
アホみたいにデカイ城門を潜って、アホみたいにデカイ城に入って、アホみたいにデカイ部屋に通された。
そんなアホみたいな存在感に圧倒されて、結局ここまで「主とは何方ですか?」の一言が聞けなかった。
いや、実際は聞かなくて正解だ。町の名を冠する騎士団に所属する近衛兵長が主というのだから、それがこの街の領主であることは明白で、聞けば正気を疑われる質問だ。
だからといって、街の食堂の娘の伝で領主が出てくるなんて誰が考える?
「あかん、半端なく緊張してきた…。」
この地を治めるノエミ・ザイラ伯爵は、最近受勲されたばかりなので確かな人物像が分かっていない。
名前こそ妹と同じだが、流れる噂を集めるとうちの妹とは似ても似つかない人物で、
曰く飛行魔法の使い手だとか、SSランクの冒険者だとか、あまつさえ11代目の勇者だと言う人までいる。
容姿に関しては、この街に入るに当たり、領主の容姿の関する情報は一切他言しない旨の誓約書にサインさせられるほど厳重に伏せられているので、年齢すらはっきりと分からない。
絶対身長とか3m位有るんやで…。
”コンコン”とノックされた扉の音に背筋が伸びる。
「ノエミ様が到着なさいました」
その言葉を聞いて片膝を着き頭を垂れる。コツコツコツと、足音が目の前で止まったことを確認して口火を切った。
「ヒャじめまして、チェリオ・カウジオと申します…。」
声が裏返り、頭の中の俺が盛大にズッコケた。
評価及びブクマ有難うございます。
遂に100ポイント超えました!とまぁ、次元の低い喜びなのですが、私にとっては感無量の出来事で有難うごさいます。
書き溜めもロクにない状況ですが、喜び勇んで連投してしまいました。
稚拙な文章で読みにくいとは思いますが、今後も宜しくおねがいします。




