22話
(うわぁ~……爽快な景色やけど、正気かこれ?)
私は今、街の中心に建設中の城にある高い塔の頂上で自分の町を見をろしている。
城壁と城を一体化したような、フランスに有る”ピエールフォン城”のような造形のこの城は、周囲の日照権なんて完全に無視するように高くそびえ立つ。
このお城の目玉と言えばやっぱり堀だろう。
城の周囲には水堀が掘られ、地下水を組み上げて水を巡回させているのだが、この時温泉を掘り当ててしまい、なんとも奇妙な効能付の水堀が出来上がってしまった。
塔から飛び立ち、竣工間近の城をぐるりと見て回る。
「『見てみろノエミ。この重厚さと優雅さを掛け合わしたような佇まい。俺様の居城としてこれほどふさわしい場所は他にはないぞ』」
『魔王の君のセンスだから、もっとおどろおどろしい物になるかと心配してたけど、うん。これなら勇者の住まいとしても申し分ないよ』
「『まぁ、お前も脳筋勇者の割には中々いいセンスをしてる。あの辺りの屋根の造形なんて、正直俺にはできない発想だったぜ』」
『フフッ、僕こそ君の考えたあの射眼の意匠には脱帽したよ』
(いやいや、一介の領主風情の住居にこんな城はやり過ぎやって。そもそも城って発想が可笑しいの分かってるか?)
そんな私のツッコミも無視して、アデカスは互いを称賛しながら飛び回る。
賞賛の言葉も出尽くして、そろそろ満足したかという時にカストが何かを発見した。
『アデル、あの小さな船はなんだい?』
「『あん?船なんて知らねーぞ?』」
カストが指差す方向に視線をやると、温泉掘りの中に何かが浮いている。
ゆっくり降下しながら近づくと、それはイカダのように浮かぶ露天風呂だった。
堀の脇から桟橋が伸ばされて、小さな小屋の立つイカダに続く。
イカダの中央には浴槽となる穴が開けられていて、その浴槽は荒く木を組み堀の温泉が素通りするように成っていた。
そのイカダからはもう一本の桟橋が伸びていて、その先には衝立付きのイカダが浮いている。多分あれが女湯だろう…。
「『くっ、妙に小洒落た工夫をしやがって…しょうがねぇ奴らだな……。』」
(へぇ、、意外やなぁてっきり”景観が損ねる”とか言って壊そうとするかと思ったけど。見逃すんや?)
アデルが暴れだすと踏んで弾き出す準備をしてたのに、肩透かしを食らってしまった。
「『作っちまったのもはしょうがねぇだろ。気に食わないのは確かだが、国民達の憩いの場を奪うほどのことじゃねぇよ』」
(おぉ、これまた意外と愁傷な事やな。魔王とは言っても国民には優しんやね……って国民てなんやねん!頼むし私の口でそんな発言しんといてや!!!)
うっかり聞き流しそうになったが、こんな城を建てて市民のことを国民呼ばわりしてたら今度こそ反乱を疑われても言い訳できない。
今後はアデルの一語一句にまで気を使わないといけないかと思うと頭が痛い。
街の巡回を終えて私はボニャに向かった。
この半年間は官吏の採用や法令整備なんかに追われて街から出ることが出来なかった、
この街ができた影響でボニャにどんな影響があったのか確かめに行こうとずっと思ってた。
「おぉ。噂には聞いてたけどこれまたすごいことに成ってるね」
ボニャの街はクローチェに至る最後の街として、以前とは比べ物にならない程賑わっていた。
クローチェまでの街道は定期的に兵やストーンゴーレムが巡回しているとは言え、まだまだ危険な街道には変わりなく、徒歩なら急いでも丸二日歩かなくてはならないので事前の準備が欠かせない。
そんな準備をする街として、一日中眠ることのないこの街は最適だったらしい。
「ノエミ!ノエミやろ?!!」
散策がてら街を歩いていると、人混みのなか背後から私の名を呼ぶ声が聞こえる。
「ん…?あっ。チェリオやん、こんなとこでどーしたん?………クビ??」
振り返り声の主を探すと、そこには一つ上の兄の姿があった。
「ちゃうわアホ!仕事や仕事。お前こそこんな所でなにしてるんや?誰かと一緒に来てるんか?」
「ははっ、相変わらず家と連絡取ってヘンねんな。時間有るんやったら昼ご飯一緒にどう?私の事は話せばだいぶ長なるし、チェリオの話も聞きたいやん?」
「あぁ、悪い。今はちょっと時間無いんや。せや、夜はどないや?…」
そんなやり取りの末、待ち合わせの場所と時間を決めてチェリオと別れた。
適当に街をうろつき、時間を潰してから待ち合わせの店に入る。
時間は少し早かったがチェリオが手配していてくれたようで、すんなと部屋に案内された。
一緒に出されたお茶と茶菓子を摘みながらチェリオを待つ事一時間、ようやく仕事を終えてやって来たようだ。
「お、悪い待ったか?」
扉を開けたチェリオは開口一番、外套を脱ぎながら言う。
「ん~チョトだけね。せやけどあんた……実の妹を宿屋の部屋に呼び出すって、悪いけど私はそこまでのスキンシップ求めてへんよ?」
「はぁ?……って。ア、アホ!そそそんなんちゃうわ、気持ち悪い。この宿は部屋で食事ができて、ゆっくりと話しがやなぁ…」
「あはははは、嘘やんか相変わらずアドリブに弱いなぁ……そんなんでちゃんと交渉できてるんか?」
軽い挨拶のつもりが、予想以上に顔を真赤にして戸惑うものだから、思わず爆笑してしまった。
チェリオは14歳の時に自分で奉公先を見つけ、さっさと逃げるように家を飛び出していた。才能もないのにやたら野心だけは強い父の元にいると、男子といえども良いよう利用されるからと、10歳くらいのときから計画を練っていた程で、実は頭がよく切れる。
「んで、転職でもしたんか?」
転職していないなら今もロレンツォという、この国で最も大きい街の中堅商人の元に奉公しているはずだ。
「いや、相変わらずトリスター親方の所で可愛がってもろてるよ。それに今度支店を任されることに成ったしな」
「まじで!すごいやん!!!」
自信満々胸を張り、誇るように自慢するチェリオだが、自慢したくなるのも当然だ。
上手くやってるだろうとは思ってたけど、彼が奉公に就いてからはまだ三年しか経っていない。
小さな商家なら兎も角、彼の奉公先は50人以上の人を抱える中堅商家だ。余程のことがない限りはこんな新参に支店なんて任せないだろう。
「言うてもまぁ、出された課題を熟せへんかったらその話もオジャンやけどな」
「それでもまぁ。そんなチャンスもらえるだけ凄いやん。あんたホンマにうちの子か?」
「それな!自分でもあのオヤジの血が入ってるとは信じられへん」
私達の父親、コラード・カウジオ男爵は野心だけは強いのだが、兎に角商売が下手だった。
地方の小さな村の中で、旅人から情報を集め、色々と新しい事業に乗り出すのだが、その度に借金だけが増えていった。
三年ぶりのチェリオと昔話を始めると、父への愚痴が堰を切ったように溢れ出た。
別にふたりとも父が嫌いなわけではない、強い野心も貴族らしい生活を送らせてやりたいと言う思いから来ていることを知っているからだ。
とは言え、私達からすればそんな生活を望んだわけでもなく、野心に巻き込まれるのが迷惑だった。だからもう、出るわ出るわ出るわ出るわ、気がつけば夕食の注文もせずに数時間話し込んでいた。
”ぐぅぅぅ~”
「………チェリオ腹鳴ってんで」
「いや、ノエミやろ?俺はここ来る前に少し間食挟んだし、そんなに腹減ってへんもん」
「はぁ?!何なんそれ、私はなんも食べんと待ってたのに?!」
「茶菓子食ってたやん。ってかやっぱ腹の音ノエミやん」
「……そこは黙って認めとくのが男やろ……そんなんやから未だ彼女もできひんねん。」
「はぁ?!お前が俺の何を知ってんねん!大体今の俺には商人としての輝かしい未来が待ってるんや、彼女なんか後から一杯付いてくるわ!」
「うわ、それ他の娘の前で言ったらドン引きやで……」
そんな兄弟のじゃれ合いは、注文した夕食が届くまで続けられた。




