21話
4時間ほどの夜間飛行の末、首都ウベルティに到着する。
飛行魔法がばれないように夜間に移動したのだが、考えてみれば城門はまだ開かれていない。
西の空がうっすら白みかけているので、時間的には朝の5時頃だろうか?
二時間もすれば城門が開くはずだが、流石に寂しいのでコッソリと城壁を飛び越え街の中に入った。
至急と呼び出されたものの流石にこの時間に陛下を叩き起こす訳には行かず、お城の門番に事情を話して待合室で待たせてもらうことにした。
待合室のフカフカのソファーに腰掛けて、うつらうつらしていると誰かが耳元で呼びかけている。
「ザイラ伯、陛下がお待ちです、起きて下さい」
「う~ん…ザイラさん呼ばれてるでぇ…」
………あっ、私や。
「はい!」と飛び起きた私を、係の人は生暖かい笑顔で迎えてくれた。
「ノエミ・ザイラ伯爵位にございます。急ぎ招集と聞き参上いたしました」
玉座の前で片膝を突き、頭を垂れて口上を述べる。
「ノエミよ、急な呼び出しにもかかわらずよく参った。言付けを頼んだ船が今日あたり到着するという話を聞いていたが、これほど早く登城するとは。まるで空でも飛んできたかのような迅速さではないか」
そんな陛下のお言葉に、ビクッっと一瞬背筋が伸びるも、なんとか取り繕って答えを返す。
「か、風がよく吹いたそうで、予定よりずいぶん早く到着できたと伺いました。急ぎのお呼び出しとの事で私も出来る限り急ぎましたので、お待たせしていないなら幸いです」
「そうか、大儀であった。しかしいくら急ぎとは言えコソコソと城壁を飛び越えるのは些か問題が有る。今後は騎士団の練兵場へ直接降りるがよかろう。」
「へっ?」
思わず出た間抜けな声と共に顔を上げてしまった。
クックックッと陛下が笑ってる……。
どうやら私が飛び立ち落り立つ姿は、何度も目撃されているらしい…。
「まぁ、その様に警戒するでない。記述として残っているわけではないが、過去の勇者たちも空でも飛ばなくては到底できないような移動を繰り返していることが解っておる。我らとしてもノエミが勇者である確証がまた一つ増えたと喜んでおるくらいだ。」
(え?私って勇者なん??)
突拍子もない陛下の言葉に、思わずカストに確認してしまう。
『いや?前も言ったけど、勇者に選ばれたなら神様のお告げが有るはずだよ?ノエミは神様の声を聞いたことが有るのかい?』
(有るはず無いやん…亡霊の声やったら毎日聞いてるけど。)
『亡霊と言うのは止めてくれないか、僕は幽体だよ!』
(違いが分からへん。)
『いいかい?そもそも、亡霊というの…………』
何やら説明しだしたカストを無視して、陛下に陳情する。
私の中にカストが居ることを知る陛下にとっては同じことなのかも知れないが、流石にその表現はやめてほしい。
「お言葉ですが、流石に私が勇者というのは…」
「ハハッ、まぁ良い。ところでノエミよ、ノヴァリャ聖国とドラープ帝国が開戦したのは聞いておるか?」
私の言葉をサラリと流し、次の話題に転換する。全然良くないとツッコみたいが、陛下の話を蒸し返してまで言う勇気はない。
「……はい、船団の方よりその様な話は聞いています。」
なんでも一度目の船便の時には既に開戦されていて、5度目の船便の時にはかなり激しい戦禍が広がっていると聞いた。
ドラープ帝国はオーストリアの一部とハンガリー・チェコ・ポーランド辺りを占める位置にある。ノヴァリャ聖国とは多くの国境線を隔てている都合上争い続けていたが、この十数年は、停戦協定が結ばれていた。
今回はその停戦協定を2年残して、ノヴァリャ聖国側から宣戦布告がなされたらしい。
迷惑な話だが、本国も両国と一部国境を隔てているため対岸の火事とは行かないようだ。
陛下が言われるには、レグレンツィ王国の北東にあるノヴァリャ聖国とドラープ帝国の国境近くに位置するロサンドラという街に、ノヴァリャ聖国から大量の亡命者が流れ込んでいるらしかった。
ロサンドラは便宜上街と呼ばれているが、その実態は国境を守る城塞であり、住民の9割以上が兵役に付いている。
そんな街なので移民の受け入れなんかが出来るはずもなく、結果私の街に目をつけられた。
「食料等の支援は致すゆえ、なんとか受け入れてはくれんか?」
くれんか?と言いつつも、これが決定事項なのは封建主義の実だろう。
何よりアデカスが喜んでいるので、多少の不安は有るがこれを快諾した。
その後、アメリゴさんの船でロサンドラを往復し2000人近い移民の移動に成功した。
ノヴァリャ聖国の目を掻い潜って、一週間ほどかけた壮大な夜逃げだ。
受け入れるに当たって、移民団の代表と面会したが一番心配してた宗教トラブルが回避できそうなのが有難かった。
ノヴァリャ聖国は唯一神を祭る宗教国家のため、多神教であるレグレンツィ王国とは敵対して来た歴史がが有るのだが、移住してきた人達は単一神的な観念を持っているようで、信仰の自由を認めていれば、人の信仰に口を出す人達ではないようだ。
最悪の場合、居住区を規制して対応しようと考えていた私だけど、
「その様な柔軟な対応ができるからこそ、国を捨てる選択ができたのでしょう」
というリーアさんの言葉が妙に腑に落ちた。
勿論、問題がなかったわけじゃない。
食糧は陛下からの支援で十分に揃っていたが、発展途上のこの街には2000人もの人に割り当てる仕事がなかった。
郊外に土壁を増設し農地を作ったり、漁業用の港も新たに建設したりして仕事を充てがい、
それでも余る手は街の建設に回ってもらったが、建設ゴーレムを減らし警備ゴーレムを増やすよう、アデルを説得することに一番労力を割いた。
人20人分の作業を1匹でこなすゴーレムを減らすのは、無駄が多すぎるとアデルが言うのに対して、現状は無駄を作ってでも仕事を割り当てるべきだと、アルホさんが強く訴えた。
娯楽もなにもないこの街で、不就労者が増えると治安が悪化するとアルホさんに言われてしまえば、アデルも渋々納得したようだ。
この移民をきっかけに、クローチェの街は爆発的に成長していった。
この街は北にAランク、西にBランク、南西にCランクと言った具合に魔物が棲み分けしていて、素材を狙う冒険者にとって非常に便利な立地にあったらしく、噂を聞きつけた冒険者が続々と集まっていたが、今までは生活基盤の整わないこの街に拠点を置くものは少なかった。
移民によって半ば強引に生活基盤が作り上げられたとこにより、この街を拠点とする冒険者が増えていき、その動きに合わせて行商達も集まりだした。
移民受け入れから半年も経つと、街は5000人もの人口規模に発展していた。




