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2話

地面に降り立ち、対峙する人と魔物を交互に見る。


人の方は軽装の革鎧に身を包み、槍を手に持つ金髪ポニーテールの女性だ、歳は20~25歳くらいだろうか? 魔物にやられた傷なのか、脇腹の防具が破れ血が流れている。


魔物の方は何だろう?見たこともない巨大な熊のような魔物で、真っ黒な毛皮で覆われた体長は4メートル近く、拳や肘に骨が進化したような角が生えていた。


『あれはブラックニードルベアだね。こんな所に出てくるような魔物じゃないんだがどうしたんだろう?』


いつの間にか復活したカストが説明してくれるが、今の私はそれどころじゃない。

アデルが着地した場所は、魔物と女性が対峙する真横の位置でその間に遮蔽物はない。


「なっ…どこから……」


金髪ポニーの女性が目を見開き驚愕し、魔物も私の方に身体を向けて警戒している。


「『お前の相手はあっちだろ、俺に構わずとっとと始めろ。』」


魔物の視線に気がついたアデルは、肩まで上げた親指で女性を指しながら私の声でそんな事を言った。


”ガルルルル”


「『あ゛?』」


そんな余裕の態度が気に触ったのか魔物は唸り声を上げて威嚇するも、アデルが軽く凄んだ途端、踵を返して逃げていった。


「『あ、バカ逃げんじゃねぇ!』」


(バカはお前だ!!このアホ!)


急ぎ追いかけようと身構えたアデルを弾き出し、身体の自由を取り戻す。


『お前、この俺様にバカとかアホとか…生まれて8000年初めての経験だぞ…。』


(やかましいわ!どうすんのこの状況。)


ポニーテールの女性は魔物が去った今も、構えを解くことなく槍を握りしめていた。

そりゃぁ、突如飛んできた小娘が、「とっとと始めろ」とか、「逃げるな」とか魔物に向かって話していたら警戒されて当然だ。

最も、顔色を見る限り困惑のあまり、構えていることすら忘れている感じなのが僅かな救いだろうか。


「あー…ご無事で何よりです……それじゃぁ私はこれで…」


そう言って立ち去ろうとした私を、遮るようにカストが両手を広げて進路を阻んでくる。


『待てノエミ、あの女性は怪我してるじゃないか。まさかこのまま見捨てていくのか?それに…』

   (言うても傷は浅そうやん?冒険者ならポーションくらい持ってるやろ。)


早く立ち去りたい私は、カストが言い終わるのを待たずに言葉を素早く遮った。


『そうじゃない、彼女の後ろの草むらにもう一人居るんだ。治療しなければ一時間ももたないだろう』


(えぇぇ、そんなん聞いたら寝覚め悪いやん…せやけど下級ポーション一個しか持ってへんよ私……)


『そんな心配は無用だよ、僕が誰だと思ってるんだい?』


(え?………正義感がうざい脳筋勇者?)


『………ノエミ…あとで少し話をしようか………』


(いや…いいわ……。)


『…………僕は確かに魔法は苦手だ。だが聖魔法だけは勇者に選ばれた日から神の加護を授かり使えるようになったんだよ、今は僕に任せてくれればいい。』


そんなセリフをキザったらしいポーズで言うと、返事も待たずにカストは私の中に入り込んだ。


「『お嬢さん、どうか警戒を解いてその傷の治療をさせて頂けませんか?』」


私の身体は両手を広げて、ゆっくりとポニーテールの女性に近づいていく。


「ッ!」


そんな私の動作にポニーテールの女性は一層警戒を強めたようだ。


(明らか年下の小娘にお嬢さんとか言われたら誰でも警戒するわアホ!)


「『け、けして貴方に害は与えません。治療するだけです。ほら、見てください』」


私のツッコミに動揺を見せながらも、カストはそう言ってボヤッと青白く光る右手を見せる。


「う、動くな!!!その魔法も直ぐに止めろ!!」


ポニーテールの女性は、そんな言葉を言い切る間もなく一瞬で距離を詰め、私の喉元に槍を突きつけるも、同時に踏み込んだ衝撃のせいだろう、顔を僅かに歪めて痛みに耐えていた。


「『ごちゃごちゃうるせぇな、回復するだけだって言ってるだろ。後ろの仲間が死んじまうぞ?だいいち、俺が敵だとしてお前ごときに止め……』」

                        (でしゃばんなアホアデル!!なんちゅう事言うねん!!)


前触れもなくカストに割って入ったアデルを慌てて弾き出す。

コロコロ変わる言動と態度、こんな奴が怪しくなくて他の誰が怪しい?

私の背後でギャーギャーと騒ぐカストとアデルを無視して、この後どうしようかと考える。

とは言え何もかもが今更だ。

それならせめて恩を売り、顔を覚えられる前に逃げ出そう…。


(カスト!遊んでんと早よ治療して。顔を覚えられる前に逃げるよもう。)


『わ、分かった。』


そう言って頷くと、カストは突き付けられた槍を掴み、そのまま女性の動きを制御した。

女性が槍を離そうとしたら、掌に押さえつけ、逃げようと膝に力を入れたら、槍ごと身体を浮かせてその力を相殺する。

それらはほんの一瞬の出来事で、困惑する彼女が「くっ」と声を漏らした時には、彼女の治療を終わらせていた。


「『もう一人も治療してしまいますね』」


カストは彼女の耳元でそう呟いて移動するが、その動きはおそらくポニーテールの女性に見えていないだろう。

当の私の視界でも、突然目の前に片脚を引き千切られた血まみれの女性が現れたようにしか見えなかったからだ。


「カーラ様!!!!」


ポニーテールの女性がそう叫んで振り向いた瞬間、瀕死の女性を隠していた一角が青白い光に包まれた。


(終わった?ほんならすぐ逃げるよ!)


私がそう言い終わる間もなく、カストは100メートル程をありえない速度で走り、彼女たちの前から姿を消した。




「痛っつっっ」


停止した途端激しい痛みが私を襲う、身体の主導権はまだカストが持っているのでのたうち回ることは無いが、それができないことが余計に辛い。


『ごめんねノエミ、今回復するよ』


カストはそう言うと、回復魔法を全身にかけてから私の身体から抜け出していく。


「痛っっ、ちょっと…まだまだ痛いよ」


さっきまでの激痛に比べれば随分マシだが、まだ身体の節々が痛い。


『適度な筋肉の痛みは力を強くするからね』


カストはそう言って爽やかに笑いながら、それ以上は回復してくれなかった…


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