19話
「ようこそクローチェヘ」
下船したマルディ達を出迎えて、頭を下げる。
人を迎え入れるにあたって、この街の名をクローチェと決めた。
由来は知らない…。
言い出したのは私なのに、寝ている間に二人が決めていた。
だから由来も聞いてやらない。
「ノエミ!」
おもむろに両手を広げたマルディが私の名を叫ぶ。
「マルディ!」
それに答えて私は両手を広げて名を呼び返す。
そのまま、互いに駆け寄り抱き合う二人。
まぁ、やってみたかっただけで、あまり深い意味はない。意味はないが、領民第一号を迎えられて、心なし興奮しているのは間違いない。
マルディ一家との挨拶を終えると、よく日に焼けた中年の英国紳士と言った印象の男性が前に出る。
「始めましてザイラ伯。わたくしアメリゴ・クリッパと申しまして、今回の運送を担当させて頂きました海運商を営むものです。」
「クリッパって…子爵の?」
「はい。ウベルティ商業ギルドのマスターは私の兄に当たります。あっご心配なく、公正な入札により受注しましたので、不正などは一切ございません」
なんて事を聞いても居ないのに言ってくる。
一瞬戸惑ったが、普段から身内びいきとか言われてるんだろうと、察しがついた。
「あぁ、そういうことですか。大変ですね、兄弟が大きな役職を持ってると」
「いや、申し訳ございません。ご察し頂けたとおり、普段から言われ慣れてしまいまして、挨拶の一部としてすっかり定着してしまいました。」
そう言って浮かべる照れ笑いは、成熟した男性の顔に子供っぽさを見せる魅力的な笑顔だ。
「そう言えば、鐘の音が聞こえた気がしたのですが、何かありましたか?」
さり気なく、カストの所業がバレていないか探りを入れる。
「聞こえていましたか。実は途中間違った潮目を踏んでしまい、ノヴァリャ聖国の支配海域に入り込んでしまったのです。普段なら警告の後追い返される程度なのですが、今日は追われて火矢まで射掛けられる始末でして。なんとか引き返してくれましたが、危ないところでした。ノヴァリャ聖国とドラープ帝国の間がきな臭いという話は聞いていましたが、今日の感じだといよいよかもしれません。」
どうやらバレては居ないようだ………が…。
「それって海路は大丈夫なんですか?」
この国付近の地理は前世の世界のイタリア半島付近の地形に非常によく似ている。
私が所属するレグレンツィ王国は、イタリアと似たような国境を持ち、スロベニア・クロアチア・セルビア・ボスニア辺りをまとめた国がノヴァリャ聖国になる。
さほど広くない内海のような海を互いに睨み合っているので元々トラブルが絶えない海では有るらしい。
「そうですね、沿岸近くを走る航路に成ってしまいますので、今回のような大型艦は使えなくなり、一回の輸送量は大幅に落ちるかもしれません。」
それを聞いたアデルが耳元で騒ぎ立てる。計画にズレが出るとかなんとかかんとか。
散々好き勝手やってる癖に喧しい。
「あっ、ご心配なく。輸送量は落ちますが回数を増やして補填します、最終納期までには定量を収めますのでご安心下さい。」
アデルの声に、思わずしかめた私の顔をアメリゴさんが別の意味に受け取ったようだ。
私の主観からしたら、心の狭いやつに見られたみたいで少し抵抗があったが、アデルが静かになったので、「有難うございます」とだけ言っておいた。
続いて木工職人達がやってきた。
「半年間よろしくおねがいします」と、それぞれの自己紹介と共に挨拶されたが、うん。覚えきれません。
そして最後に5人組が目に入る………誰だこいつら?心当たりがない。
黒い衣服に身を包む2人は、王城で見かけた役人に似た姿で、もう二人は綺羅びやかな鎧を着込んで騎士っぽい。最後の一人は、ラフな格好だが小奇麗にまとめられていて、得体が知れない。
「始めましてザイラ伯。僕はジェズアルド・ブロット。この四人は都市運営に役立ててほしいと父が派遣したものだ。」
「始めましてザイラ伯。文官のアルホ・サリネンとリーア・サリネンと申します」
「始めましてザイラ伯。武官のエラズモ・マッシオとニルデ・パーチェと申します」
ジェズアルドと名乗った得体の知れない男に続いて、残る四人も名乗りを上げた。
クローチェさんとリーアさんは兄弟で、リーアさんとニルデさんは女性だ。
四人とも20代後半だろうか?大人の風格が漂っている。
「急な来訪で申し訳ない。噂のザイラ伯がトルネロの森に街を作ったと聞いて、居ても立っても居られず来てしまったんだ。」
得体の知れない男はそんな事を言いながら、頭に手をやり屈託の無い笑顔を見せる。
「あぁ!ブロットって王族や!!」
閃いたままに言葉に出して、ポンッと手包を打つ。
やばい声出てた…。
「ハハハ、その通りだよ。 でも、カーラ同様友達の様に接してくれたら嬉しいな。そうだノエミ殿とお呼びしても?」
友達の様にって言うが、カーラ様にも友達の様に接した覚えは無い。とはいえ失言をスルーしてくれた様なので、黙って頷いておく。
「そ、それは勿論構いませんが…」
「そうか構わないか!これで僕らも友達だな。 それじゃあノエミちゃんは僕の事をジェスとでも呼んでくれたまえ」
ノエミちゃん??殿はどこ行った…… まあ、いいか。
「ジェズ様ですか…」
「ん〜硬いなぁ、、、君とかちゃんとか、そう言う感じが嬉しいんだけどな」
あぁ、あかん。こいう距離感の感覚の合わない人は苦手なタイプだ。
「いや、すいません。それは流石に勘弁して下さい」
渋るジェズ様になんとか譲歩してもらおうと頑張ったのが悪かったのか、最後には命令口調で敬称を禁じられてしまった。
こんな事なら、さん付け辺りでやめておけばよかったが、今となっては後の祭りだ…。
ほんと、何がしたいのかわからない。




