17話
マルディ襲撃事件から1ヶ月程が経過した。
あの後、マルデイ一家には領地の受け入れ準備が整うまで、暫くクレオさんに匿ってもらおうと首都に移動してもらった。
ゲスメンがどれだけ狂ってるかは知らないが、王の懐刀と言われるベルトイア家に殴り込むような真似はしないだろう。
勿論タイミング的に事後承諾になってしまったが、クレオさんは事情を話すと快諾してくれた。
美味しいものを食べて心の傷を癒してくれていれば幸いだ。
当初は私が首都まで送るつもりだったのだけど、マウロ達がぜひ護衛させてくれと言うのでお願いした。何も出来ずに店を壊されたことを悔やんでの申し出だった。
一度やられてるのに大丈夫かなと、不安に思ったが。カストが言うには、能力は変貌してからのゲスメンと大差ないらしい。「油断してたんだろうね」という事なので任せることにした。
そして友達の護衛すら人に任せて、私はひたすら水を飲んでいた。
「基地の冷蔵庫を冷やすには全く足りないが、小さな食堂で使うくらいの冷蔵庫なら、もう少しで足りるだろう。冷蔵機も城(基地)の在庫で1台くらいなら作れるが、どうする?」なんて、アデルが言うもんだから、来る日も来る日も水を飲みまくって、ひたすら絞り出した。
食料の流通もまま成らないこの街だから、せめて唯一の食堂にくらい、十分な食材を確保して貰いたいと頑張ったんだ。
「そろそろ来るはずなんやけどなぁ…」
そう言いながら、私は朝から港でウロウロ落ち着かない。
船が順調に進んでいれば、注文していた石材が今日届くはずで、その商船には、依頼していた木工職人とマルデイ一家が乗っている筈だった。
『何か聞こえるな』
アデルがそう言うので耳を澄ましてみると、確かに遠くの方から鐘が激しく打ち鳴らされる様な音が聞こえる。
『これは船の救援の鐘だね』
「へぇ、よう知ってるやん」
『これでも勇者になる前は腕の良い漁師だったんだよ』
「へぇぇ。漁師から冒険者になって最後は勇者か、中々の刺激的な人生やったんやね」
『いや、漁師からいきなり勇者だよ。夜に仲間とイカ釣ってたら、いきなりピカーって光って、お前は勇者に選ばれたってお告げをもらってね。あの時はよく釣れたって仲間が喜んでたよ』
漁師から勇者って、全く関連が無いように思えるが、選定の基準は何だったのか非常に気になる。とはいえ、前世でも聖書の人は元大工だった筈だし、意外とそんなもんなんだろうか?
『はぁ?俺は魚屋に追い込まれたのか?!』
この事はアデルも知らなかったらしく、ショックを受けている。
「魚屋って…。まあいいや、マルデイ達が心配だし少し様子見に行こうか」
そう言って沿岸部の森沿いに低く飛んで、鐘の鳴る方に向った。
船影が見えた所で森に入って様子を伺う。
「追われてるてっか、襲われてるね」
連なった3艘の船を1艘の船が追っている、逃げる最後尾の船は矢をけしかけられながら懸命に消火活動をしていた。
「なんとか地味で目立たず、誰にも気づかれないように助けれへんかな?」
くどい言い方だけど仕方がない。
『跡形もなく吹き飛…』
「却下。」
なんて事を平気で言い出すから…。
『僕がやるよ』
カストがズイッと前に出る。
多少暑苦しいが強い正義感を持っていて、些細な約束も重く受け止める。それなりの人格者な筈なのに、時にはアデル以上に信用ならない…。
「…………目立たん様にやで?」
「『ハハ、船の事なら任せてよ。誰にも気付かれずに止めてみせるから』」
そう言ってカストは剣を取り出した、アデルの遺体から抜き取った遺品の剣だ。
「『この聖剣ガルガーノの力を借りれば、僕も簡単な魔法なら制御できるんだ。……ストーンウォール』」
「‥‥‥‥‥‥‥えっ?終わり??」
カストは有りふれた魔法を唱えただけで、私の身体から抜け出した。船にも海面にも何の変化も見られない。
『ふふ、見ててごらん』
自信有りげに腕を組むカストを余所に、私は不安げに船を見る。
その時、ミシミシミシっと軋むような音を立てて追っていた船が大きく揺れた。
『船底ギリギリにストーンウォールを立てて座礁させたんだ。船を見れば喫水線下の形状も想像出来るからね。 致命傷じゃないけどすぐに港に帰って修理したい、そんな傷に仕上がってるはずだよ』
そのまま様子を見ていると、カストの言ったとおりに船は進路を変えて戻って行った。
「‥‥‥‥‥‥‥」
『あれ?何かマズかったかい?』
「いや、ごめん。なんか初めてまともに対応して貰えて逆にびっくりした」
『そ、、それは良かったよ……。』
船の無事が確認できたので、彼等を出迎えるために私は急いで港に戻った。




