15話
「うあぁぁ、世界が回ってるわ‥‥アイツら子供相手に飲ませ過ぎや…」
『飲む方も飲む方だよね』
「うぅ……。」
あの後直ぐに、私を囲んで宴会が始まった。
皆は余程腹に据えかねていたらしく、口々に「よくやってくれた」と言いながら私のグラスに酒を注いでいった。
止せばいいのに、おごりと言われてついつい言われるがままに呑んでしまい、気づけば私が皆に酒を振る舞って、酒樽一本空にした。
因みにこの世界は16歳で成人するが、前世の記憶の残る私としては、いまいち馴染めない感覚だ。
「あかん…今日はここの街で寝て帰るわ」
『はぁ、ふざけんな!俺は帰って図面の続きを描かなきゃ駄目なんだよ!!』
「ええやん、一晩くらい…」
『身体はどうせカストが操るんだ。ノエミはゆっくり寝てれば良いんだよ?』
アデルはともかく、カストまでそんなに早く帰りたいのか……でも駄目だ。
「それしたら起きたときめっちゃ体だるいねん。かんべんしてやぁ…」
私が寝てる間にアデカスがやりたい事をやる、理屈で言えば理想的だが、目覚めた後の疲労感が半端ない。徹夜明けの身体にリフレッシュされた精神は互いのギャップが激しすぎてとても辛いんだ。
そんな問答を続けながらも、私の足は宿屋に向かう。
大通りから逸れて小道に入ったとき、人気を感じて立ち止まる。
「ん~?だぁれぇ??」
私の言葉に反応して、物陰から姿を見せたのはゲスメンだった。
「おぅ…もう釈放されたんかい…」
「う…うるさい‥‥お前のせいで‥‥‥お前のせいで‥‥‥‥‥‥‥‥‥がぁぁぁ!!」
ボソボソと俯きながら言葉を発したゲスメンは突如目を見開いて殴りかかってきた。
「危なっ!」
迫る拳に反射的に仰け反るも、僅かに頬をかすめて酔いが覚めた。
ブンブンと大振りに振り回される拳を難なく避ける。
カスト(幽体)のパンチに比べたら目をつむってても……なんてことを一度は言って見たいけど‥‥‥‥うん‥‥‥嘘です。目は開けてないと避けれません…。
「ちょっと、まってまって、落ち着きいや。さっきの事なら謝るから。ね?」
「うるさい、うるさい、うるさい!!!」
尚も振り回される拳を避けながら説得を試みるも、効果はない。
「ほら、一発もパンチ当たらへんの分かるやろ?ここで終わっといたほうが自尊心守れるんちゃうん?」
『カハッ!お前ヒデェな!』
『うん、、、今のは流石に酷いよ』
(まじで?私としては説得の延長やったんやけど……あかんほんまや、ブチ切れてはるわ…。)
「死ね!」
ブンッ
「消えろ!」
ブンッ
「殺す!」
ブンッ
「この!」
ブンッ
「ブス!」
ブンッ
「豚!」
ブンッ
「アバズレ!」
ブンッ
「誰がアバズレやねん!!」
ゴスッ
あまりにしつこくて、思わず手が出てしまった。
カウンター気味に放った私の拳が、ゲスメンの脇腹に突き刺さる。
「ぐえぇ……」
ゲスメンはくの字に折れ曲がったまま崩れ落ち、静かになった。
(え…何?一撃とか…?弱すぎやろコイツ……)
今の私には、アデルもカストも入っていない。純度100%純ノエミだ。
カストと訓練しているとは言え、1ヶ月程度で飛躍的に強くなれるはずもなく、Fランクの小娘にワンパンされるとか、詐称しすぎだろ。
『ノエミ、勘違いしてるみたいだから言っておくけど。君は僕等と融合して潜在値が大幅にアップしてる。その状況でのトレーニングは効果を5倍にも10倍にもしてくれるんだ。今のノエミならC-くらいはクリアー出来る筈だよ。』
(え…まじで?!……ほんならアデルくらいやったら勝てるんちゃうん?)
いつもバカバカ言われてるアデルに、優位になれるものが有るっていうのは結構嬉しい。
『ハハッ、残念だけどB-くらいに成らないといい勝負は出来ないかな』
(‥‥‥‥SSランク魔法使いのくせに肉弾戦もB-とか…どんだけ化けもんやねん……)
『何度も言うが、潜在魔力だけなら、お前はSSSSくらいの超バケモンだからな?』
(使えへんかったら意味ないやん…チェッ)
「ぐふっ」
「あっ」
小石をけるフリをして足を振ったら、ゲスメンの胸につま先がヒットした。
(忘れてた…これどない…)
『待てノエミ!様子が変だ。』
(え?)
カストの言葉に数歩下がる。
「はぁぁぁぁ。全く情けねぇなぁ。後はこのニエト様に任せとけ」
くの字のゲスメンはそんな事を言ってから、ゆっくりと立ち上がる。
(なになになに?)
ゲスメンから突如異様なオーラが湧き上がり、私の身体が鳥肌で覆われる。
「お嬢ちゃん、退屈させて悪かったな。これからが本番だぜ?」
ニヤリと笑ったゲスメンは、一瞬で視界から消え、私の身体は脇腹に激しい痛みを感じると同時に吹き飛ばされた。
「カハッ!」
『『ノエミ!!』』
路地の壁にしこたま身体を打ち付けて、一瞬息が止まる。
「『てめぇ、俺の身体に何してんだ!!!』」
素早く入り込んだアデルの魔力が両手に集まり、青黒く輝き出す。
『待てアデル!お前の魔法では無関係のものまで巻き込んでしまう!!』
(ほんまや……あかんでアデ…)
「ガハッ!」
壁にもたれ掛かり座る私の顔をゲスメンに蹴り上げられて、再び宙高く身体が舞う。
鍛えといて良かったよ、今までの私ならこの段階で即死してた自信がある。
痛くて痛くて泣き出したいが、痛がれるだけ儲けもんだろう。
『ごめんノエミ、僕が入るよ!』
ブラックワイバーン戦以来、カストが体に入るのは禁止していたが、非常事態だと私の返事を待たずに入る。
以前身体は宙を舞ってるが、巧妙に体を捻り着地する。
「ほぅ。雰囲気が変わったな?もしかしてお前も憑物か?」
「『何を言ってるのか分からないけど、君は喧嘩を売る相手を間違えたよ。』」
私の気配の変化を嗅ぎ取ったゲスメンは僅かに警戒して身構える。
カストが身体の埃を払い終えたのを見て、一気に距離を詰めてきた。
腰低く顔前まで詰め寄り、アッパー気味の左フックを放つ。
それをカストは軽く叩いて軌道を逸す。
空振りしたフックの勢いのまま身体を回し、今度は右の踵を袈裟斬るように振り下ろしてくる。
カストはそのケリを頭上で受け止め、残された軸足を踏んで前に押す。
ドスッ とゲスメンが尻餅をついた。
「テメェ、なめてんのか…」
ゲスメンは立ち上がりながら険しく睨みつけてくる。
「『舐めてるよ。さぁおいで、格の違いを見せてあげるよ』」
カストは両手を広げて挑発した。
「決めた、テメェは殺す」
小さく構えたゲスメンはボクシングみたいなステップを踏みながら、徐々に距離を詰めてくる。
ギリギリ手の届かない距離で様子を伺い、タイミングを図ってる。
そして、カストが瞬きした瞬間、1歩踏み込み、最短距離でジャブを放った。
パァン!
そのジャブが私の顔に届くより早く、ゲスメンの顔が真横に向いた。
フラフラと数歩後ずさりながら、何が起きたか分からないといった顔のゲスメンは、軽く顔を振ってから、再びステップを踏んで仕切り直した。
パァン!
射程外にいたはずのゲスメンの顔が再び横に向く。
パァン パァン パァン
路地に響く乾いた音に合わせて、ゲスメンの顔が左右に振られ、鼻と口から血が流れ出す。
「テメェ何をした!」
鼻血を拭い、後ずさりながら凄むゲスメン。
「『何って、ただのビンタだよ?』」
カストはひらひらとビンタの真似事をして、笑顔で答える。
「テメェ、絶対殺してやるからな」
「『さっきも聞いたよ?』」
「‥‥‥チッ…覚えてろ……」
そう言ってゲスメンは身を翻し逃げ出した。
「『逃さないよ』」
(カストストップ!)
後を追おうとするカストを止める。
(あの手の奴ははやられたらヤラれただけ根に持つタイプでしょ?もう良いよ放っておこう)
『あぁ?殺せばいいだろ。心配すんな骨まで焼き尽くしてやるから証拠は残らねぇよ。俺の身体に蹴り入れたんだ、それくらいの報いは当然だ』
(あんたのちゃう!私の身体や!!!……いちいち言うことが物騒やねん。ほんまもういいから。ね?)
憤るアデルをなだめて、ホット一息。
『ノエミ。約束破ってごめん』
カストはそう言って、回復魔法をかけてから外に出た。
外に出たカストは俯いて、酷く落ち込んでいるようだった。
幽体になった今でも勇者として正義を貫くカストにとって、約束はとても重い意味を持つ。
(何言うてんの。あの場面で約束とか言ってたら逆に怒るわ。助けてくれてありがとう。もうあんな約束無しにするから、また助けてな。)




