14話
「『1000の土塊人形』」
アデルが魔法を唱えた途端、周囲の地面がめくれ上がり、そこから無数のゴーレムが湧き出て来た。
「『さぁ、土塊ども仕事だ!木を抜き地を均せ!!』」
見渡す限りのゴーレムがアデルの号令で一斉に動き出す。
ゴーレム達は自動で働き続けると言うので、私は一度レオまで戻る事にした。
普通なら何週もかかる道程が、飛行魔法を使えば僅か半日程で移動できてしまい、便利過ぎて癖になる。人目につかない様に高高度を飛ぶが、飛行中は常に膜に包まれて快適この上ないのも原因の一つだ。
レオには引っ越しの準備をしたり、知り合いに挨拶したりしながら一週間ほど滞在した。
帰りは転送陣を使って秘密基地に戻る。基地に有るような転送陣を別の所に設置すれば相互に行き来が出来るそうなので、いつか町外れに小さな家でも買おうかと思う。
なんて話をアデカスにしたら、
『金持った途端ずいぶん大きく出たな』
『驕りは身を滅ぼすよ』
なんて事を言われてしまった‥‥‥‥。
秘密基地から表に出るとその景色は一変していた。
鬱蒼と生えていた木々は切り倒され、広大な土地が広がっている。
半径3キロにも及ぶ空き地に、アデカスが描いた図面の通りに石畳が張り巡らされ、一部では外壁も作り出している。
組み上がった門を眺めて、二人は並んでニヤニヤしてる。
『悪くはないけど、少しさみしいかな‥‥そうだ、この辺りに彫刻なんかを施すのはどうだい?』
『彫刻か。カストのくせになかなか冴えてるじゃねーか!』
そんな話をしながら、組めない肩を組み合う二人。仲が良いのはいいんだけども、ここまで来ると気持ち悪い。
『ノエミ!街に出て人を集めるぞ!!』
突如振り向いたアデルがそんな事を言いながら、私の中に消えていく。
(待て待て早まんな!道もないのに集めた人をどうやって連れてくるんよ)
「『チッ…それもそうか‥‥土塊共!道だ!!道を作れ!!!』」
そんな感じで突然道路の工事が始まったりするから、ゴーレム達も大変だ。
そんなゴーレムたちの仕事ぶりに
「何もやることないなぁ」
何てうっかり呟いてしまうと、アデルがニヤリと笑い、秘密基地の修繕に駆り出されてしまった。
細かな作業が苦手なゴーレムでは 手を出せない部分が多々あるらしい。
発電室や冷蔵室なんかを見て回りながら、アデルは執拗に舌打ちを繰り返す。
『クソ、電線類が全滅だ。銅板と絹糸を買いに行くぞ。それとノエミ、小便をそのへんの瓶に貯めておけ』
「はぁ?何言うてんの??アホこじらせ過ぎて行き着いたか???アホで魔王で変態とか救われへんで。」
乙女に向って小便貯めとけとか、色々振り切ってる。
『黙れバカ。魔法で精製して冷媒として使うんだ。説明しても分からないんだから、黙って貯めとけ。』
そんなやり取りを繰り返しながら、一月程で電気設備の整備を終えた。冷蔵庫だけはアンモニアが足りないらしくまだ使えない。
アデルがブツブツ文句を言ってたが、私だって恥を忍んで溜めてるんだ。文句を言われる筋合いはない。
この一ヶ月間、狩をしたり、トレーニングしたり、修理をしたりと、自分でも驚く程に充実できた。
修理なんかは、やってるうちにどんどん楽しくなって、街づくりに燃える二人の気持ちが少し理解できたりもした。
街の建築も順調で、ギルドや宿屋、商店街なんかは内装以外は完成し、陛下に追加でお願いされた港の建築もここから三キロほど離れた海岸で始まっている。
唯一問題と言えば、石材資源が不足していて、城壁の建築が停滞気味だ。
ゴーレム達が新たな採石場を探してくれてるが、探索に出たゴーレムが魔物に破壊されたりしていて成果は芳しくなかった。
(アデカス~。ボニャに行くよー)
新たな図面を描く二人に声を掛ける。今度は10階建てのマンションを建てると言い出して、昨日の夜からずっと、あーだこーだ盛り上がっている。
ボニャというのはトルネロの森の南西に有るここから一番近い街で、この森に挑む冒険者たちの拠点として栄えてる。
アデルの魔法でひとっ飛び、一時間ほどでボニャにたどり着くと、行きつけの食堂の扉を開ける。
「あっ、ノエミいらっしゃい。相席に成るけどいいかしら?」
マルディがそう言って席に案内してくれる。
マルディは金髪のボーイッシュな髪型がよく似合う反面、狂気のような胸を持つ16歳の少女だ。
歳が同じという事もあり、この食堂の給仕を務める彼女とはすぐに仲良くなった。トルネロに拠点を移してからは2日に一回は夕食を食べに来ているのですっかり常連だ。
相席の冒険者たちと他愛もない話をしながら、出された料理に舌鼓をうつ。
辺鄙な場所にあるわりに、羽振りの良い高ランクの冒険者が多くを占めるこの街だから、物価は高いが食材も良い物がそそってる。
カーラ様と食べた食事とまでは言わないが、実家の食事よりは明らかに格上だ。
「止めて下さい!」
食後のデザートに手を伸ばしかけた時、マルディの叫び声が聞こえた。
「固いこと言うなよ、俺に逆らったらこんな店簡単に潰せるのは知ってるだろ?」
そんな下衆極まる言葉を放つのは、顔も身なりも綺麗に整った男、ゲスメンだ。その下品な笑みだけ何とかすれば、結構モテると思うんだけど?
強引なナンパ?を続ける男を横目に、相席の冒険者に話しかける。
「ここで、バシーッと助けに行ったら、かっこえんんちゃうん?」
その冒険者は、いかにも強そうな筋骨隆々な男性で、腕なんか私の顔くらい有る。
この冒険者を大根とするなら、あのゲスメンはカイワレ大根だ。
「そうしたいのは山々だが、あいつを相手にするにはちと分が悪い、、、、。」
随分と弱気な大根だ。
あんなカイワレが強いのかと訪ねたら、そういう事ではないらしく、あれでも子爵家の六男だという。冒険者でありながら騎士見習いの資格も持つとかで、高ランクと言えども平民冒険者には手が出しづらいという事だ。
因みに見習い騎士の資格を持ちながら、冒険者に成るのは珍しいが、貴族の子が冒険者の成ることはそれほど珍しくはない。
たまにゲスメンみたいな奴が出るから、貴族上がりの冒険者は傲慢なんだろうと誤解を受けるが、実際はその真逆がほとんどだ。
実家に居場所がなくて冒険者に成った彼らだが、勘当された訳ではない。
下手な事をして家名に傷を付けられないので、普通の冒険者より余程温厚な者が多く、責任感が強いので冒険者としての評価は高い。
食堂の女将さんがこの街のギルマスを呼びに行ったと言うことなので、しばらく様子を見ていたが、遂にマルディの腕を掴んで身体を触りだしたから、もう我慢できない。
「兄さん、兄さん。黙ってたら顔はいいのに、そんな口説き方じゃ誰も落ちひんよ?」
「あぁ?なんだ?‥‥おぉ。えらく綺麗な顔してるじゃねーか。どうだ、俺と星空を眺めながら肌を合わせねーか?」
ゲスメンは不機嫌に振り返ったかと思うと、私の顔を見た途端、鼻の下を伸ばして私の身体に手を伸ばしてくる。
気持ち悪いからヒラリと躱す。
「冗談。その残念な性格直して来たら、お茶くらいしたるわ」
「あ゛ぁ?相手見て物言えよ?俺はAランク冒険者様だぜ?」
カストの特訓のおかげでそれなりに相手の強さを測れるようになったと思うが…コイツがクレオさんより強いとは思えない。
再び胸ぐらを掴みに来たゲスメンの手を避けて言う。
「強さ自慢やったら、あたしはSSランクだよ‥‥ほら」
陛下の前でランク計測した際に発行されたギルドカードを見せながら、威圧感も出してみた。
「え‥‥‥あ…え、、エスランクなんて存在するはず無いだろ。嘘をつくな嘘を……お、俺はジャコッビ家の者だぞ。子爵家だぞ!」
お前こそAランクちゃうやろ、嘘を付くなと言ってやりたい。
私ごときの威圧で、声を裏返しながら二歩下がったのが何よりの証拠だ。
今の私はアデカスが入ってないのでFランクなんだから。
「だからどうしてん…ほんならホラ。私は伯爵様だよ…ほら……次は?」
功労勲章の指輪と共に伯爵位を示すカフスボタンを取り出して、ゲスメンの目前に突き出した。
貴族というのが本当なら、これを見せれば分かるはずだ。
強さや権威を笠に着て横暴に振る舞うような奴だから、それ以上の物を見せれば逃げるだろう。
「そそそそそ、そんなはず有るか!!!!黙れ黙れだmレ!!‥‥お前えみたいな小娘ががががっっg、身分詐称は死刑だぞ。そうだ、死刑だ死刑。俺が、俺が執行してやるよぉぉぉぉ!!!!」
あれぇ??あてが外れた…。
突如ゲスメンが壊れて叫びだす。
ろれつの回らない口でまくし立て、剣を抜いて振りかぶる。
「取り押さえろ!!!!」
誰ともしれない叫びと同時に、数人の男が飛びかかる。
ゲスメンは武器を奪われ、うつ伏せに潰されながらも発狂するように叫んでる。
幾ら何でもメンタル弱すぎだろう…。
ゲスメンは、一通り叫んで静かになった頃、ようやく現れたギルマスによって連行されていった。




