12話
「それじゃぁ、お世話になりました。」
城門まで見送りに来てくれたカーラ様とクレオさんに頭を下げる。
4日ほど滞在するよう陛下から厳命を受け、カーラ様達とはその間も常に行動を共にしたこともあり、なんだか離れがたく感じさせる。
滞在を命じられた陛下のご用は、開発支援金の下賜だった。
爵位を頂いた折に、報奨金として200万ポソが支給されたが、それとは別に1000万ポソを用立ててくださった。
そのかわり、拠点の構築と近隣町村への道路の建設を強く希望されていて。
そのための資金としては微々たるものだが、今後も優先的に予算を回すと約束された。
つい先日まで500~800ポソの日銭を稼いで暮らしていた私にとっては、今あるお金を見るだけで頭が痛い。
首都ウベルティの街を出て、街道沿いに2時間ほど歩いて林の中に身を隠すと、アデルが地面に何やら魔法陣を描き始める。
(何なんそれ?)
『転移陣だ、仮だから片道しか使えないけどな。』
そう言いながら描き上げた陣の中央に立ち、言葉とも言えない音楽のような呪文を唱えだす。
陣から立ち上がる黒い霧が身体を包み、光の届かない暗闇に閉じ込められた。
未だ続いているアデルの呪文が終わると、黒い霧は晴れていき、私の身体は、薄っすらと光る魔法陣に照らされた石造りの部屋に移動していた。
長年密閉されていた様な、空気が重く淀んでいた。
アデルは左手から出した光る球で辺りを照らし歩きだす。
立ちはだかる強固そうな扉に手をかざすと寄せ細工の様に分裂し、道が開かれた。
ピカピカに磨き上げられた石の廊下を歩いていく。
飾り気こそ無いが、隙間なく床や壁に張られた石のタイルが近未来的施設を連想させる。
しかし、足を進める毎に異様な物体が目に入りだす。
(えーと、アデルさんこの骨はなんなんでしょう?)
途中から廊下のいたる所で白骨化した遺体が打ち捨てられている。
私の歩く振動でサラサラと崩れ去り、粉になって積もっていく。
『エルフにドワーフ、セリアンスロゥプなど、俺を慕ってくれていた奴らだ。』
そう答えるアデルの声に高揚はなく淡々と廊下を進む。
そういう事を聞いているんじゃ無いんだよと思いながら見ていると、中には手足が切られたような遺体も多々あり、闘いの跡だと見て取れた。
カストの方をチラリと見ると目が合った。
『どうしたんだい?』
声の調子こそ普段と代わり映えないが、その表情には何の感情も伺えない。
あぁそう言えば、普段あれだけやかましい二人がここに来てから全く喋って居なかった。
やがて、開け放たれた大きな扉の前に到着した。扉の前で折り重なるように倒れる遺骨をアデルは風で優しくつ包み、端に寄せる。
扉をくぐると、アデルは立ち止まり、光球だけがふわふわと飛んでいく。
その部屋は小さな光球では照らし出せないほど広大らしく、壁も天井も闇に隠されていた。
『ノエミ、あそこに有る武器防具一式を回収してくれ』
そう言って光球が向かう先を指さしたアデルは、私の身体から抜け出した。
アデカスが出す雰囲気に飲み込まれ、言われるがままに光球の後についていく。部屋は次第に荒れていき、砕けた床や柱の残骸が散らばっていて歩きにくい。
「あ………」
光球が止まり照らし出すのは、真っ白な鎧を着込んだ骨と、真っ赤なローブを纏う骨。
真っ赤なローブは胸に剣を突き立てられ、立ったまま壁に縫い付けられている。
真っ白な鎧はその前で、仰向けに、大の字になって寝転がっていた。
「これって……」
『いいからサッサと装備を剥ぎ取って来い。』
アデルは背を向けたまま、怒鳴気味に話す。
「みんでいいの?」
『見たくないからお前にやらせてるんだ!』
「ん〜……分かった。」
魔王といえども、自分の死体を見るのは抵抗があるようだ。こんな白骨死体じゃ面影も何も無いだろうに…。
カストは良いのだろうかと視線を送ると、アデルと同じ様に背を向けていた。
「あっそうや!この場合って、手合わせるべきなんやろか?」
『合わせるな!!!』
縁起が悪いとアデルが呟く。
死んでるくせに生意気だ………。
胸に刺さる剣を抜くと、アデルの骨はサラサラと崩れ落ち、
白い兜に手をかけると、カストの骨も同様に崩れ落ちた。
白い粉にまみれた装備を拾い集めて行く。アデルが身に着けていたローブやアクセサリーは問題無いが、カストの鎧が大変だ。
金属ヨロイとは思えない程に軽く作られていて体力的には問題ないが、如何せんかさばり過ぎて幾つも持てない。
『ローブの内ポケットに収納魔法がかけてある。これくらいは楽にしまえる筈だ。羽織らないと使えないから気をつけろよ。』
いつの間にか真横に立つアデルがそんな事を教えてくれた。言われた通りにローブを着込み、内ポケットに鎧一式を近づけていくと、スポンスポンと消えていった。
「流石は神話のキャラクター、収納魔法みたいなお伽噺が普通に出てくるんやね…アデルが作ったん?」
『そいつは、部下だったエルフとドワーフの合作だ。俺には作り方も分からねえ。』
アデルが言うには、このローブ以外で収納魔法を見たことが無いそうだ。これすら偶然の出来た物らしく、生産法を確立させる研究の途中でこの国は滅んだそうだ。
「滅んだって…勇者に滅ぼされたんよね?…………カスト早まったなぁ…」
収納魔法が完成していれば、世界は激変してただろう。物流における距離とコストの概念は限りなく無くなって、腐敗を恐れず備蓄が出来る。世界の食料事情は安定し素晴らしい世界になっていただろうと、何処か神妙な面持ちのカストを弄ってみる。
『アハハハ、痛い所を突かれたね』
普段どおりの笑顔で返すカストにホッとする。
『遊んでないで、この施設を説明するぞ』
普段なら喜んで混じるアデルが、そんなことを言いながら先に進む。
空気の読めない奴だ…。
(えらい真面目やん?)
『ようやく滅ぶ決意ができたのかい?』
『アデル帝国復興のチャンスだ。燃えないはずが無いだろ?』
『まだそんな事を企んでいるのか!!!』
冗談めかし笑うアデルに、いつものようにいきり立つフリをするカスト。
こうして殺し合った二人だが、今でも喧嘩はしていても本当に憎み合っているように見えない。
(5000年の歳月が二人のわだかまりを解してくれたのならいいなぁ)
なんて事を考えながら、次の部屋を目指し歩いていく。
評価及びブックマーク有難うございます。
一人でも読んでくれてるなら最後まで書いていこう。
なんて思いながらやってますが、数字に動きがあるとやはり励みになります。
稚拙な文章で読みにくいとは思いますが、今後も宜しくおねがいします。




