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11話 アベラルドの賭

我はアベラルド・ブロット王。レグレンツィ王国125代国王である。

青い髪が王家の象徴とされている中で、我の髪は青くない。

とは言えこれは別に悲観するべきことではなく、歴代の王たちも大半が青以外の髪色を持っていた。

魔族の手からこの大陸を取り戻した初代国王様の髪が青く、それ以降、度々青い髪を持つ子が生まれ、王となってきた。

初代様の再来とされている青い髪の子は、それ故に順序に関係なく1位の継承権が与えられる。

王であると同時に歴史学者でもある我からすれば、再来等という発想は些か滑稽ではあるが、時に血生臭く玉座を争って来た我が国の歴史に置いて、青髪の子が継承に至らなかったことが無いと言う事実は、再来という非現実的な現象に一片の説得力をもたせる。


平凡な髪色を持つ平凡な王として、大きな争いも混乱もない今統治は誇るべきことなのであろうが、我もまた、凡庸な王として歴史書に短く刻まれるだけの存在に成るかと思うと、些か自尊心がくすぐられる。

しかし、王として名を残すことを望むのは、王として相応しくない。なのでせめて学問で名を残そうと我は歴史学に身を投じた。

歴史学を選んだのは、この大陸で最も長い歴史を持つ国の汎ゆる資料を見ることの出来る我ならば、市井(しせい)の学者より優位に立てるのではという、些か邪な考えからであった。


そんな我に吉報が訪れた。我が子の中に青髪の子が生まれたのだ。

青髪の王の親として、歴史書に刻まれる我の名が増えたことに人知れず歓喜した。

古代言語で愛しい娘の意味を持つ(カーラ)と名付けた。


そんな我に凶報が届いた。カーラが継承の試練の最中に魔物に襲われたと言うのだ。

儀式の途中、助けを出すことは継承権の放棄を意味した。

娘の窮地に何も出来ない、我が身の役に初めて苛立ちを覚えた。


そんな我に誤報だと報せが来た。魔物に襲われたのは本当だが、通りかかった冒険者によって傷一つ残さず治療されたと聞いて、安堵した。

その冒険者に望むままの褒美を取らせようと密かに決めた。


後日、カーラによって連れ添われた其の者は、僅か16歳という少女であった。

カーラが嬉々として話すノエミという少女の身の上話は、初代王の再来よりも滑稽な話で、

この世界の創生にまつわる、神代の勇者と魔王が憑依したという。


それはつまり、神代の存在が精神体として現存することを意味し、少女の妄想だとしても余りにも稚拙すぎる話であった。

精神と魔力は密接な関係にある。滅した肉体から離れた精神は器を失い霧散し原初へと帰り、魔力として循環するとされている。

学者によってはそこに意志が残り、次なる精神に宿る”転生論”を掲げるものも居るが、精神が霧散すること無く現世に留まり続けるなど、児童向けの伝奇にも無い発想である。


聞けばノエミは地方貴族の娘で有るという。成る程、学者である私に対し斬新な論説を展開することで覚え良くするつもりなのかとも思ったが、続き話を聞くうちにブラックワイバーンを一人で撃退したという。

我が王国騎士団の中に同じことが出来るものが何人居るだろうか?

普段から武に触れていないカーラだけが言うのならば、誇張が過ぎると一笑できたが、証言するのは他でもない、ベルトイア家のクレオの言だ。


目の前に居る、我でも折れそうな手足を持つ少女がブラックワイバーンを単独討伐したと成れば、少女の妄想だと片付けることは出来ぬ事であった。


我は秘密裏に係の者を集め、ノエミのランク測定を準備した。

ノエミの存在は、カーラの試練に関わってくる為、公にすることは出来なかったが、結果としてはそんな配慮の意味はなくなった。

再現しうる最強の魔物を呼び出せと、挑発するノエミに乗せられた幻影魔法師が2匹のドラゴンを再現したが、ノエミは言葉もなく手をかざし、強烈な熱と光を呼び出し幻術のドラゴンを一瞬で消し去った。


幻影魔法師達は、口々に「そんな魔法はありえない、幻影魔法を掻き消したのだろうと」ノエミの行いを否定した。

幻影魔法を掻き消すには、それよりも強い幻影魔法をかけ無くてはならない。

彼らが主張する手段は、104名の幻影魔法師が作り出した幻影魔法を上書きしたと言っているに他ならず、その事実だけでもSランクに匹敵する力で有るのだが、彼らがそれに気がついていない訳ではない。

それ程までもノエミの魔法が凄まじすぎたのだ。


我は慌てた、恐らく生を受けて初めてであろう程に慌てた。

カーラが襲われたと聞いた時、これ以上無いと思っていたが、その比ではなかった。


勇者か…?

大凡500年周期で現れる勇者の存在。そして今は周期的にいつ現れてもおかしくない時期である。

これほどの少女がこれほどの力を持つことは、それ以外に理由付けすることが我には出来なかった。


カーラの髪をチラリと見て、再び思いを巡らせる。

青髪の王が統治する時代に勇者が居ないことは多くあったが、勇者が居る時代に青髪の王が居ないことはなかった。

この事から、ノエミが勇者であることは間違いないと結論付ける。


最も、勇者と対になる存在を忘れているわけでは無い。勇者が生まれるということは、魔王も生まれる。ノエミが魔王である可能性も十分にありえるのだ。

だからといって、それを確かめるすべは我にはなく、魔王である可能性が有るからと言って国外に追いやることも出来るはずがない。


我はこの時、愚王に落ちた。

勇者と魔王、我の名声と国民の命を並べ、賭けに出たのだ。

ノエミが魔王であるならば、何れ多くの血が流れるだろう。

早いか遅いかの違いでしか無いのだ。

ならば我は、早期に勇者を優遇した王として歴史に名を残す夢を見たいのだ。


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