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10話

(アホアデル!ボケアデル!カスアデル!ハゲアデル!)


『剥げてねぇよ!』


カストが治療して回る間も、罵詈雑言を浴びせ続ける私にようやくアデルが反応を返した。


(うるさいボケ!そんなんええねん。どうすんのあんな派手な魔法使って………見てみいな、あのクレオさんの顔……絶対不審がってんで…まんま不審者見る目やん。)


ブラックワイバーンを倒した後、クレオさんの態度が一変したのは明らかで。これまでなんとか誤魔化してきたが、それも時間の問題だろう。


(だいたい、あんな派手な魔法使わんでもファイヤーボールとか有るやろもっと!)


『俺様がそんなチンケな魔法使うわけ無いだろ、だいたい派手さで言えばコイツが火弾を切った時に手遅れだ』


『何を馬鹿な、火弾くらい勇者になる前の僕でも斬れたし、2000年ほど前のSランクに到達した剣士も斬っている。過去とは言え人類が成し遂げた技なんだから、お前の人外の技と同じにされるのは心外だ。』


(はぁ…無駄に5000年も存在してるんやから、いい加減自分らの規格外っぷりを理解してぇな……なんて説明したら良いんよほんま………。)




馬車の中でブラックワイバーンを倒すまでの経緯をカーラ様が目を輝かせて聞いている一方で、話すクレオさんの顔に笑顔はない。


「ノエミ様はどこでその様な魔法を身につけられたのですか?」


一通りの話を聞き終わり、そう尋ねるカーラ様の目には探るような意図はなく、極めて純粋に輝いている。


「いや……独学で………いつの間にか…」


「ノエミが見せた火弾を切る技術、どのようにして習得されたのか、剣の道を進むものとして是非お聞かせ願いたい。」


そう尋ねるクレオさんの目には言葉以上に探る意志が見え、極めて怪訝に光っている。


「あれは…その……過去にそんな事をやった人がいると聞いて練習したら………」


歯切れの悪い、我ながらバカバカしい言い訳しか出てこない。

練習って何処でするねん…。


お腹が痛い。


「あぁ、確か2000年ほど前の剣聖と呼ばれた人物の話ですね」


「まぁ、勇者ジェズアルド・ソルレンティーノ様のお話ですね。勇者様と同じ技が使えるとは…ノエミ様はもしかして勇者様なのですか!」


「ま、まさか……勇者だなんて恐れ多いです…」


子供のように輝く瞳と、検事のように突き刺す瞳に挟まれる。なまじ寝食を共にしたせいで二人の暖かさが身にしみていて、騙すことも疑われることもとても辛くなっていた。

やがて、私とクレオさんが発する空気にカーラ様まで巻き込まれ、馬車内に異様な沈黙が続く。



そんな空気がその後も数日続き、遂に私は覚悟を決めた。


「いよいよ明日でこの旅も終わりですね」


張られたテントの中で、川の字に寝具を並べて眠る旅の最後の晩に口を開く。

笑い飛ばされるかもしれないし、恐れられるかもしれない。何れにせよ話し終えればアデルの魔法で他国に飛び立ち亡命しょうと覚悟を決めて、アデカスとの出会いから話していった。







「ノエミ・カウジオ。そなたの功労を称え カヴァリエーレ・ディ・グラン・クローチェ(第一級功労勲章)を授ける。」


王座の前に跪く私の指に、陛下の横から歩み寄ってきたカーラ様の手で証の指輪がはめられる。

この第一級功労勲章を持つことはこの国では最高の栄誉と考えられている。

受勲者には、伯爵位と領地が与えられる事になっているため余程のことがないと叙勲されることがないからだ。


結論からすると、私の主張はすべて受け要られた。

手放しで私の話を信じてくれたカーラ様に連れられて、国王陛下に謁見した。

流石に陛下が鵜呑みにすることはなかったが、虚偽探知魔法や、ランクを測定することでアデカスの存在を証明した。

ランクの測定は、幻影魔法を使い作られた仮想空間の中で戦闘することで測定する。

100名近い幻影魔法使いによって作り出されたSランクのドラゴン2匹をアデルの魔法一発で消滅させた私に、立ち会った多くの者が言葉を失った。



「叙勲に伴い、伯爵位及びトルネロ一帯の統治権を与える。今後はノエミ・ザイラ伯爵として、王国のために力を貸してもらいたい」


「はい、有難うございます。ザイラ伯の名に恥じぬよう誠心誠意務めさせたいただきます。」


私の姓が変わったように見えるがそういうわけではない。以前のカウジオと言うのは私の父が持っていた、カウジオ男爵という爵位名であり、今回ザイラ伯爵という爵位を頂いたのでノエミ・ザイラ伯爵と成っただけだ。

つまるところ、この世界では貴族や王でも姓をもっていない。没落すればザイラは無くなり別の人にザイラ伯が与えられればその人がザイラ伯となる。

前世の記憶が残る私には非常にややこしいシステムだ。



目録を受け取り、謁見室を後にする。

ざわめく周囲からは、好意や反意が入り混じった言葉か聞こえてきた。

私の中にアデルとカストが居るというのは、陛下とカーラ様とクレオさんだけの秘密と成っているので、知らない人からすれば私の存在は不気味だろう。

虚偽探知の魔法は訓練すれば誤魔化すことが可能で、信頼性は高くない。

その上で、あんな強大な力を見せつけられたら穏やかでいられないのは当然だと思う。


事前の謁見で、陛下はよく受け入れる結論を出されたなと訪ねてみれば


「ノエミを危険視したところで、我が国に抗う術はない。後先考えず国家全体で戦うなら勝てる見込みも出るかもしれないが、同じ賭けに出るなら懐柔する方に賭けたほうがまだマシであろう。」


なんて事を苦笑いを浮かべながら(おっしゃ)られた。

そんな訳で、この私の身に余りすぎる勲章も、懐柔策の一つだと言われゴリ押しされて今に至る。

まるきり怪獣扱いだ。




叙勲式を終えた夜、招待を受けた私は陛下と向かい合い夕食を頂いている。

正確にはカーラ様に招待されてクレオさんと三人で食事する筈だったのだが、そこに陛下が乱入してこられた。


「聞き損ねていたが、ノエミは何故あの様な辺境を希望したのだ?」


領地の下賜が決まった時、全く別の場所を指定されていた。それをアデルが煩いので変えてもらったのだ。


「えーと…アデルの居城があった場所なんだそうです」


「それもアデル殿が?」


そう尋ねる陛下の目は何処と無く懐疑的だ。


「はい、だからトルネロを貰えと言われました」


「なんと、伝説の魔王城があんな所にあるとは面白い……そう言えば……なるほど……あれ程迄有ることを…」


領地として下賜されたトルネロと呼ばれる地域は、深い森林地帯を指している。

トルネロとは古い言葉で「帰らず」の意味を持ち、その名が示すとおりこの森に生息する魔物のランクはC~Aと非常に高く、人の手による開発を拒み続けていて。稀に太古の魔道具などが発見されることでも有名だった。


「っと、失礼した。兎に角あの地に開発の手が伸ばせることは国家戦略的にも大きな意味を持つ、可能な限りの協力は致すゆえ期待しておるぞ。」


何やら独り言を続けていた陛下が私を見つめ直して強く言う。


「いや…そこはあまり期待しないで下さい…。」


熱く見つめてくる陛下から目線をそらす。

そもそも爵位を受けたのも、実家が進めた縁談を回避するためにはそれしか無いと言われ、領地を得たのもアデルが貰えというからだ。


アデカスだけでも持て余しているのに、国家戦略とか言われても荷が勝ちすぎる…。




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