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泣いた烏がもう笑った

晴れ上がった夏の海…


私はカモメを見ると

時々あの時を思い出すことがある


あの日

初めて見るカモメを

夢中になって追いかけていた時


早くこちらへ来るようにと

海水浴をするための準備をしていた母に呼ばれ

カモメを後ろ目にしながら母のいる

コンクリートのステップの所まで

向かって行った時のことだった


母の近くまで行き

ステップに上がってみると

そこには初めて見る大きな海が

ただただ広がっていた


それは何も遮るもののない

左から右までの上下の景色で

空の青

海のブルー

砂浜のサンドカラーによる

綺麗なセパレートの三層に

私は息を呑んだ


そして時折吹く海風や

肌を熱く焦がすほどの

ジリジリとした日差しに耐えながら

そこからほど遠くない

俗に言う

海の家と言う浜辺の茶屋で

荷物などを置いている父の所へと

向かって行った


そこは

吹きっさらしの建物で

木の皮と混同した木材で出来ており

砂の地面の上に

畳のようなものが敷かれた高床な

窓やしっかりとした壁のない

日陰で風通しの良い場所だった


その少し薄暗い

高床な床のスペースに

等間隔に設置された

ちゃぶ台型の小さなテーブルに着席すると

お店の人が出してくれたお茶などを飲んで

軽くくつろいだりしていた


そしてしばらくして

母は持ってきた水着などを持ち

私を連れて更衣室へ行くと

何かを話しながら

水着に着替えさせてくれた


もちろん母も

私と一緒に水着に着替えたのだが

その時の母の大胆な色の

ゴールドな水着には

子供ながらに悪い意味でない

衝撃を受けたことを今でも忘れ得ない


何故なら母は

派手でも地味でもない

洋服を普段着ていたのだが

時々のお出かけの時などに着る洋服は

決して派手過ぎではないけれど

目を引く柄や配色

生地の素材感やデザインなどに

こだわっていることを説明してくれることもあり

子供ながらに興味深く見ていた


もちろん

そのゴールドな水着も

フリル等の飾りが無い

シンプルなワンピースタイプの

キラキラでテカテカで無いタイプのものだった


その時

おそらく私は…


母に素敵だねオーラを発していたと思う

そしておそらく母も

めちゃくちゃなニコニコ顔で

私に自慢のオーラを

発していたように思う


そう確信できるのは

母の笑顔は

私の小さい頃から今にいたるまで

健在であるからに思う


そんな母は

水着に着替えさせた私を

砂浜と海との境目に連れて行き

座らせて遊ばさせてくれていた


私は揺ら揺らと揺らぐ波打ち際で

波や水の音とともに揺れながら

寄せては返してゆく

キラキラに輝く

透き通った水の動きがとても心地好くて

従順に波の動きを追っていた


そして

私が波に慣れた頃

母は私から少し離れた沖の方へ

時々振り返りながら

泳いで行った記憶が今でも甦る


その…

母の泳ぐひと駒ひと駒…


何故か父が母が

心配そうに私を起こそうとして

何か話しかけている


私の記憶では

その時…

水の中で間近に見ていた砂と水とが

空気中の砂嵐のように

見えていたように思う


どうやら私は波に倒され

波打ち際で仰向けな状態で

波にさらされていたようなのだ


おそらく

私の姿が見えないことに

両親は相当焦ったに違いないが

早く気付いてくれた為

何事もなく済んだのは

私にとっても不幸中の幸いであったと

安堵している


今思うと

プールや川でしか遊んだことがない

背丈の小さな私が

立ったままでは波にも抵抗出来ない状況で

海に慣れ親しむには

波打ち際が丁度良い場所であったのは

間違いなく

そんなアクシデントもあったのだが


泣いたカラスがもう笑った…


その言葉の通り

私は何事も無かったかのように

ケロっとしていたのを覚えている

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