海の記憶に帰る時
あともう少し
あともう少し…
私ははやる気持ちを抑えつつ
車の中でBGMに気分をのせながら
ほんの少しの窓を開け
フィトンチッドの香りと
太陽の光を浴びた空気と
見慣れることのない
山々の景色と共に
海に着くまでの過程を
楽しんで行く
時々…
暗い視界に迷いこむと
木々の枝葉の隙間から
太陽の光が
フラッシュのように注がれるアーチや
コンクリートや洞窟のような
トンネルを見かけたりした
そして
様々なトンネルを抜けた瞬間には
フッと青い世界が開け
青い壁に描かれたアートの空模様が
幾つか飛びこんでくるのも
何となく楽しんでいた
そんな幾つかのアートに慣れ
しばらく車を走らせていると
いつしか見通しの良い
青一面の海岸線の景色に変わっていた
そして
大海原を横目に暫く走り
にぎやかな趣のある
海岸の近くへと車を停め
砂混じりのアスファルトに
降り立ってみると
久しぶりのカラっとした温かな
懐かしい香りの潮風が
私の髪や肌を
常套句のように撫でていったような心地に
やっと着いた…
私は大きく深呼吸をして
山と反対側の遮るものがない
開けた大空の前の
コンクリートのステップに
条件反射のごとく立ってみると
そこには青に満ちあふれた
巨大な壁のような空と海とが
綺麗な平行線を描いて
はるか彼方の向こうの方へと
続いて見えていた
そう…
あの頃の海も良く晴れ上がっていた
そしてそのステップの目下には
海へと続く砂の絨毯に
いついつ来ても
あの頃と変わりない
老若男女の様々な人でごった返した
夏の海の喧騒と共に
キラキラな太陽のオーラを乗せゆく波の様相が
私の心をわくわくさせた
そして目の前を
ふわふわと空に浮かぶカモメが
私の記憶を蘇らせたのだ
そう…
あれは海で見る鳥だということを
兄に教わり
初めてカモメと言う名の鳥だと言うことを
知った時であった