06『狼と兎』
門を抜け、町の外に出た。
そして、グレイスの体が光り、体が大きくなった。
いや、元に戻ったと言った方が正解だろう。
「グレイス、体の様子はどうだ?」
グレイスは伸びをしたあと、こちらを見上げ、
「ワン」
と鳴いた。なんとなく「大丈夫」と言ってる気がする
まずは周りを見渡す。町に繋がる道がある、幅は車1台が通れる位だ。その道を中心として左右に草原が広がり、右奥には山が見える。左奥は背の高い木が乱立する森だ。パニックバタフライが出ると言う森だろう。門の方を見る、門の前は橋になっている。町は高い壁に囲まれていて、壁に沿って堀がある。横幅は大人2人は余裕で入るだろう。水が流れていて、深さは分からないが深そうに見える。
今日は草原を探索だ。【気配察知】を使いながら、グレイスと一緒に駆ける。【俊足】の効果は出ているのだろうか? 速さに変化が見られない。下のゲージが赤くなるまで走り、全快するまで歩くを繰り返す。【気配察知】の対象はMPにしている。SPは走るのに集中したいしな。
現在【気配察知】はMPを常時消費している、これも数値=秒数のようだ。だが回復時間は違う。計測すると3秒で1回復している。100使ったら、回復に300秒、5分待つことになる。これも繰り返せば最大値が上がるのだろう。
回復している間は目視とグレイスの鼻が頼りだ。
ちらほらと人の姿も確認できる。ウルフの群れと戦っている人達がいる、数は5人。構成は前衛が3人後衛が2人だ。対してウルフは3頭、十分対応出来ているようだ。早くこっちも見つけないとな。
20分程探索したところで、グレイスの鼻が何かを嗅ぎ付けた。鞭を構え、グレイスの示す方向へ向かう。
見つけたのはラビットだ。数は1羽、草を食べては立ちあがり、耳をあちこちに向けて警戒しては、草を食べるを繰り返している。なのにこっちには気付いていないようだ。チャンスだ。
音を立てないように鞭を構える。ここでスキル【気力操作】だ。体の中に留まっている気を意識し、それを流す。それと魔力を鞭に纏わせる。
流す場所は、膝から足先の部分と、右肩から指先の部分。ラビットとの距離は約10m、気力で強化した脚力で一気に距離を詰め、強化した腕力で魔力を纏った鞭を振るう。これで大ダメージが与えられるはず。MPはほぼ満タン、SPは7割行けるな。
早速行動に移す。グレイスに待つのように指示し、気力を流すため集中、目を閉じる。大事なのはイメージだ。腹から腕と足に向かって水を流すイメージ。次は腕と足に留まるイメージ。最後に、周囲の魔力を鞭にまとわりつかせるイメージ。
目を開く、ラビットを見る。まだ気付いてない。
野性動物としては駄目だが、俺としてはありがたい。
右足を踏み込み前へ、
ドン!と大きな音が鳴り、一気に体が前へ跳ぶ。
ラビットの姿が近づいて、通りすぎた。
跳びすぎだ! ラビットの姿がさっきよりも遠い。
反転してもう一回、ラビットはさっき俺が踏み込んだ場所を見ている。偶然にも背後を取った形だ。今度は少し力を抜いて踏み込む。さっきよりはマシだが、それでも速い。着地した場所はラビットの3M位手前。俺は魔力を纏った鞭を縦に振るう。
ブォン! と音を出しながら鞭がしなる。ラビットは2度目の踏み込む音が聞こえたのだろう。丁度振り返った所で鞭に当たった。
バァン!! と音と共に、ラビットが爆ぜた。明らかにオーバーキルだ。これは流し込む気力を調整する必要があるな。
『ラビットを倒した。経験値20を手に入れた』
ログにはこう書かれていた。グレイスと山分けだから、ラビット一羽経験値40か、次のLvまでの数値が分からないから、あまり意味はないけど。
MPとSPのゲージを見る。MPは2割減っている、今回は纏わせただけだしな。SPは残り1割もない。早く解除しないと虚脱になるな。俺は、気力と魔力の操作を止める。
「いったぁーーー!!!」
止めた瞬間、腕と足に激痛が来た。
思わぬ痛さに地面を転げ回る。何が起きた! グレイスが駆け寄ってくる。無事な左手で、ステータスを開いた。ステータスに状態の欄が加わり、【骨折】と書いてある
骨折! まさかそんな状態異常があるとは。
原因は、間違いなく気力操作だ。気力を流し過ぎたか?
【骨折】
『体のどこかの骨が折れた状態
効果
痛覚倍加 異常箇所の挙動の度にダメージ(中)』
中ってどれくらいのダメージ何だろうか?
さて、とりあえず動いただけで、ダメージなのは間違いない。だが、気力操作を解除するまではLPは減っていなかった。
となれば、気力操作をしている間は骨折のダメージは発生しないと考えるべきか? それとも解除したから骨折になったと考えるべきか? とりあえず、今は動けないな。SPが回復しないと気力操作は使えない以上、確かめる術がない。
SPが全快するまで約2分間は、グレイスに助けてもらおう。
そのグレイスだが、爆ぜたラビットの肉片を集めて俺の前に置いている。見てて気分の良いものではない。
ちなみに、このゲームには倫理コードはきちんとある。未成年は初期設定でONになってるが、成人はOFFだ。こっちの方がリアルな感じがするから、俺はそのままだ。
全て集め終わったのだろう。俺の左側に伏せている。俺が動けないのを理解してるのだろう。賢い奴だ。
「ウ~~~~」
グレイスが唸る。SPが回復する前に、敵が来てしまった。種類はウルフ、数は5だ。何故こんなときに。
理由は一目瞭然 、目の前のラビットの肉片だろう。こんなことならグレイスにでも食わせりゃ良かったか?俺は座ったまま左手に鞭を構える。MPはあるから魔力は纏える。
「グレイス、極力1対1で戦え!無理はするなよ」
「ウォン!」
グレイスは返事をすると駆け出した。ウルフ達も駆け出してきた。グレイスは、ウルフ達の中央に向かって走り、通りすぎ様に最後尾のウルフの尻尾に噛み付いた。相手のウルフはたまらず、
「キャイン!?」
悲鳴を上げて振り返った。グレイスは振り返ったウルフに飛びかかり、倒れたウルフの顔を器用に足で押さえながら首に噛みついている。それだけでLPゲージは5割減った。この様子ならすぐに片がつくだろう。
「うぉりゃ~~~!!」
俺はと言うと、向かって来る4頭のウルフに対して、鞭を縦横無尽に振り回し、近づけないようにしていた。それでも少しづつ距離が詰められていく。
どうする? 鞭の最大射程は5m、ウルフ達はすでに射程内だ。当てる事は難しくない。だが当てたとしても、当たらなかったウルフが俺に襲いかかるだろう。鞭は先端から離れるほどダメージ量が下がる。だが、攻撃するなら今しかない。どうする?
振り回してる間もSPは減り続けてる。あと、1分もすれば虚脱になってアウト。ならば倒すしかない。だが、どうやって?
1つ思い付いたことがある、試すか? この土壇場で?成功するかも分からないのに? だけど、やらなきゃどちらにせよアウトだ。
使うのは【魔力操作】、MPも残り3割、出来たとして足りるのか? ええい悩むな! どれを選んでも最後は転送ゲート行きだ。やってやるさ!
イメージは刃、鞭の先端から伸びる刃だ。剣ではなく刀の刃。全てを切り裂くイメージを魔力に込める。
鞭を振るう横一直線で、狙いは目だ。先端がウルフの顔に当たるギリギリで。
ビュン!
音と共に鞭がしなる、横一線で。
「「「「キャウン!!」」」」
ヒット!! 成功だ! MPは残り1割もない。
4頭のウルフは、顔から血を流しのた打ち回っている。ゲージも3割は減っている。グレイスが1頭を片付けて戻ってきた。早速他のウルフに襲いかかる、首が弱点だと知っているんだろう。執拗に狙っている。俺も鞭を振るう。もう、気力も魔力も操作出来ないが、追い討ちにはなるだろう。
俺が追い討ちで1頭を、グレイスが3頭を倒した所で、最後の1頭が逃げ出した。どうやら、目には当たらなかったらしい。グレイスが駆け出したが、逃げ足が速く、追い付けそうにない。
1頭逃がしたか。この状態なら良くやった方だろう。というより、もう回復しない限り、何もできん。諦めてポーション飲んで、歩けるか試すか。
追いかけていたグレイスが立ち止まった。さすがに諦めたか?と思ったら、逃げていたウルフが突然横に跳んだ。いや、飛ばされた。直前に白いものが見えた、あれはラビットか?
グレイスが慎重に近づいているのが分かる。まだ気が抜けないのかよ。さすがにもう1戦は無理だぞ。
しばらくしたら、グレイスがウルフの死体を引きずって帰ってきた。隣にラビットと思わしき白い動物がいる。
そのラビットは、俺が倒したラビットより一回り大きかった。それに小さいが頭に付いてるのは角だろう。ラビットの別種みたいだ。
ラビットは俺の前に来ると、身ぶり手振りで、何かを伝えようとしているようだった。何だろう?怒られてるような、貶されてるような、誉められているような。ラビットは最後に胸を張る仕草を見せた。そして、
『ニードルラビットがテイム可能です。テイムしますか?』
yes/no
悩むまでもないな。このニードル? ラビットは、手負いで逃げていたとはいえ、ウルフを倒せる力を持っている。仲間になってくれると言うなら、ありがたい。yesを選択。
「キュー」
ニードルラビットが鳴いた。こいつ兎なのに鳴くのか? いや、魔物だしな。気にしたら負けの気がする。さて、次は名前を決めないとな。おっと、グレイスにウルフを集めて貰おう。牙を回収しないと。それに骨折の治療法も調べないと。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
「よし、今日から君はシロツキだ」
「キュッキュー!」
どうやら、納得してくれたみたいだ。名前を入力しないとな。
名前【シロツキ】
種族【ニードルラビット】
Lv3
LP:50/130
MP:80/150
SP:120/200
攻撃:12 魔攻:10
防御:10 魔防:10
持久:20 精神:15
器用:15 素早さ:20
運:20
土:5 水:5 火:3
風:5 光:5 闇:-5
スキル
【聴覚Lv4】【俊足Lv3】【危機察知Lv5】
【気配遮断Lv4】
アクセサリー【】【】【】
ステータス高いなぁ。俺より高いのまであるじゃないか!
知らないスキルもあるな確認しないと、
【聴覚】
『音が良く聞こえるようになる』
【気配遮断】
『周りに溶け込み、姿が認識しにくくなる』
これで耳と鼻で探索出来るようになる、遮断の方は試してみないとが分からないな~。
あとグレイスの方も確認してみたら、スキルLvがしっかり上がったようだ。これなら俺の方も期待できる。さて、さっそく。
「おーい! 大丈夫かー! 」
男の声の方を見ると、さっき見掛けた冒険者達の様だ。
プレイヤーか?はたまたノルンか?
とにかく返事をしないと、手を上げて、
「すいませーん! 出来たら、手を貸して貰えますかー? ここから動けないんです!」
助けを求めよう。ノルンだったら、回復ポーションを渡して。プレイヤーなら、俺の持ってる情報でなんとかなるだろう。
冒険者達は、何かを話している。先ほどの男が叫んだ。
「何で動けないんだー? 」
「状態異常になったんでーす! 」
「何になったんだー? 」
「骨折でーす! 」
どうやらあっちは【骨折】を知らない様だ。だとすれば、プレイヤーかな?
5人は、こちらに近付いてくる。とりあえず大声で話さなくて済むようだ。グレイスとシロツキは、ウルフを1ヶ所に集め終わっている。牙も回収したい。
「まずは、自己紹介と行こう。俺はイアン。ジョブは【戦士】だ。」
「俺はジロウ【剣士】です」
「おいらはクロウ【盗賊】ッス」
「私はレキ【魔女】やってまーす! 」
「私はキキ【修道女】です」
挨拶は基本だよね。俺も返さないと。
「俺はジン【捕縛師】をしています。あっちは【ウルフ】のグレイスと【ニードルラビット】のシロツキ、悪いな、ここまで来てもらって」
「気にするな、困った時はお互い様だ。それに骨折とか詳しく知りたいしな。」
「それに、その子達テイムモンスターなんでしょ! どうやってテイムしたの? 私でもテイム出来るかな?せっかく【魔女】やってるし、黒猫とか居たらテイムしたくて情報がほしいの!」
イアンは親しげな感じでレキは捲し立てる様に話しかけてきた。
「それぐらいなら全然大丈夫だ。ただ、テイムに関しては何とも言えないぞ。魔物によってテイム方法は変わってくるから」
「え~、そうなんだ残念。でも参考にこの子達時はどうなったか教えてほしいな」
「俺が神殿まで、たどり着けたなら話して良いぞ」
「よし! じゃあ行こう! 直ぐ行こう! 」
「レキ落ち着いて、彼が今どういう状態なのか教えて貰わないと。もしかしたらここで治療できるかも知れないし、彼の言う通り、神殿まで行かないとどうしようも無いかもだし」
急ぐレキに対して冷静なキキが突っ込む。良いコンビの様だ。 ちなみに神殿とは、回復や状態異常を魔法で治療する施設だ。魔法を使わない方は診療所と呼ばれている。グレイス達がウルフを集めてる間に、掲示板で得た情報だ。
「あ~、悪いんだが、とりあえず【骨折】について教えて貰えるか。俺は前衛なんで、いつかなるかも知れないんで」
「あぁ、分かった」
ジロウの言葉を皮切りに俺達は、情報交換と交渉を始めた。
~~~~~~~~~~~~~~~~
結局、骨折の治療は出来なかった。【治癒魔法】は他の魔法に比べて、呪文の構成が難しく、成功しなかった。
回収できたウルフの牙が10個、彼らも同じクエストを受けていた。お礼として4つほど譲った。これで彼らも指定数に達したそうだ。俺は掲示板で得た情報を教えた、皆驚いていた。
彼らも、チュートリアルを受けたそうだが、掲示板の情報は知らなかったらしい。ミナギリタロウ、あの人はどこであの情報を得たのだろうか?特にマイルームの情報を聞いた彼らは落ち込んだ。皆3つ終わった所で結構な時間がたっていたらしく、約束もあったらしく切り上げたんだそうだ。惜しいな、俺の予想だと4つ受ければマイルームが貰える筈なのに。
「それじぁ、町に戻るぞ」
「はい」「ウィーッス」「りょーかーい」「わかりました」
「しばらくやっかいになる、よろしくな」
イアンの掛け声を皮切りに、俺達は町に向かう。
神殿に送って貰う予定だ。
イアンが俺を背負い中央に、ジロウ、クロウが前衛、レキ、キキが後衛だ。グレイスは右側、シロツキは左側でそれぞれが警戒だ。せっかく生き延びたんだ、無事に帰り着きたいところだ。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・
【ジン】 冒険者rank:F
種族【常人種】 状態:【骨折】
職業【捕縛師Lv1】【調教師Lv1】
TLv2
LP:140/140 ↑20
MP:150/150 ↑40
SP:240/240 ↑70
攻撃:15(25)↑5 魔攻:12 ↑5
防御:10(15) 魔防:7
持久:23(28)↑5 精神:12 ↑4
器用:23(34)↑10 素早さ:20(25)↑7
運:15 ↑2
土:5 水:5 火:5
風:5 光:5 闇:5
JP:0
ジョブスキル
【鞭術Lv1】【調教術Lv2】↑1
スキル
【気配察知Lv1】【魔力操作Lv1】【気力操作Lv2】↑1
【俊足Lv1】
称号
【世話好き女神の加護】
従魔
【グレイス】
種族【ウルフ】状態:【良好】
Lv2
LP:130/130 ↑50
MP:90/90 ↑40
SP:180/180 ↑60
攻撃:17 ↑5 魔攻:7 ↑4
防御:10 ↑3 魔防:7 ↑3
持久:20 ↑8 精神:10 ↑5
器用:10 ↑6 素早さ:21 ↑9
運:8 ↑3
土:4 ↑1 水:5 ↑1 火:3 ↑1
風:6 ↑1 光:3 ↑1 闇:5 ↑3
スキル
【嗅覚Lv3】↑2【俊足Lv3】↑1【危機察知Lv3】↑2
アクセサリー【】【】【】
名前【シロツキ】
種族【ニードルラビット】状態:【良好】
Lv3
LP:130/130
MP:150/150
SP:200/200
攻撃:12 魔攻:10
防御:10 魔防:10
持久:20 精神:15
器用:15 素早さ:20
運:20
土:5 水:5 火:3
風:5 光:5 闇:-5
スキル
【聴覚Lv4】【俊足Lv3】【危機察知Lv5】
【気配遮断Lv4】
アクセサリー【】【】【】
()内は装備の合計値
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今日の分は終了です。
今回から、ステータスに状態異常を加算しました
次の更新は3日以内に出来るように頑張ります
それでは!