外伝『ギルドマスターの憂鬱』
「もう出てきて大丈夫じゃぞ」
ジンが出ていき足音が聞こえなくなった辺りでアズールは扉の反対側にある本棚の方へ呼び掛ける。
直後、本棚が壁ごと半回転し壁の向こうからローブを着た男性が現れた。
「どうでしたか、彼は」
「ま、善くも悪くも普通じゃな、ノルンとそう変わらん、あれが異人、か」
「ええ」
「それで? わざわざわしに会わせた理由はなんじゃ? あれならお主でも十分じゃったろオーガン」
アインの冒険者ギルドのギルドマスター、オーガン。
彼はジンが王都に到着する数時間前にはここに到着し、ジンが部屋に入ってからは隣の隠し部屋で2人の話を聞いていたのだ。
「異人に対しての1つの基準になるかと思いましたので」
「基準、のう、わしとしては問題さえ起こさなければ、なにも言う事は無いのじゃがのう」
「おっしゃる通りで」
「それよりも、じゃ」
アズールは姿勢を正し、声を落として話を続けた。
「2度の上位rank魔物との遭遇、巨虫の凶暴化、そしてアインでのゴブリン騒ぎ、異人が降臨してから魔物関連の問題が多発しておる、各国の冒険者ギルドからの鳥便にも種類は違えど似たような報告が多数、それも異人が降臨した都市を中心に、じゃ、これは偶然か?」
「私には分かりかねますが、これが必然であれば答えは2つ、これらを予期した神が彼等を寄越したか、それとも彼等の為に用意された騒動か、そんなところでしょう」
「はぁ~、どちらにしろ難儀な話じゃ」
アズールはため息を吐きながら椅子に深く座り込み天井を見上げ呟く。
「せめて半年後ならこんな問題に関わらずに済んだものを」
その言葉を聞き、オーガンはアズールの立場を思いだし話を振った。
「ああ、そう言えばそろそろ引退でしたね」
「うむ、こりゃ早い内に後継をここに呼んだ方が良さそうじゃの、役職は……ギルドマスター代理とでもしておくかのう」
「騒動が起こる前から準備しておく訳ですね、流石アズール様です」
「これからどんな事が起こるか分からんからな、早速文を書くからお主はそろそろアインに戻れ」
「分かりました。ですがその前に」
オーガンは椅子から立ち上がり執務机の正面に立つと、手を擦りながら、
「馬車代の交渉等したいのですが」
「先の話を聞いておっただろう、アインの方でどうにかせい」
「なにぶんこちらはいつもカツカツなもので、なんとか、なりませんかね?」
「ならぬ」
「そこをなんとか」
アズールは目の前で胡散臭い笑顔を浮かべるオーガンを見上げ、どうしたものか、と考察する。
そして、記憶の片隅から1つの記憶を拾い上げ、笑顔でオーガンに告げる。
「ではアインのギルドの運営費ではなく、お主の毎月の給与から差し引くとしよう」
「はえ!? 給与から差し!? 何故そういうことになるんですか!?」
「うむ、実はアインからの報告書にな、ギルドマスターが頻繁に居なくなるので業務に差し障っている、と言う報告があってな、その罰則も含めようかと」
「それは、私にも色々とすることがですね、ええ……勘弁してもらえないですか?」
「だったら、さっさと職場に戻らんかい! こんのバカたれがー!!」
「はい!? それでは失礼します!」
オーガンは慌てて駆け出し、勢いよく扉を開けて部屋を飛び出していった。それを見届けたアズールは、
「はぁ~、あれでわしより長く生きておるとは、一体何時になったら落ち着くのじゃ、さて、わしもするべきことを終わらせるかのう」
机の上に視線を戻し、短く要点のみを書いた手紙を筒に入れ机に備え付けられたベルを鳴らすアズール。
すると開いていた窓から鳩が部屋に入り机に乗った。
「ポッポ~」
「やあ、エルセドア、これをべティまで頼むわい」
アズールはエルセドアと呼ばれた鳩の足に手紙を入れた筒を足にくくりつけると、エルセドアを優しく撫で窓まで運び外に離した。
「よろしくのう」
「ポーポー!」
エルセドアは一声鳴くと空高く羽ばたいていった。それを見送りながらアズールは願う。
「事が起こる前に間に合えばいいがのう、さあ、仕事に戻るか」
アズールは執務机に戻り、書類の処理を再開した。
その頃オーガンは、
「はぁ~、とりあえずするべきは事は終えたが予想以上の出費が、ゴブリン対策だけでも厄介なのに、そもそも何故異人と言えど低ランク冒険者にあの馬車が貸し出されたのだ? 彼がそれを要求したとは考えづらいし、もしや、私に対する嫌がらせ!? いや、結局ギルドそのものに被害が出る訳だし、う~む?」
と、ギルド職員達の嫌がらせに困惑し続けていたのだった。




