33『森を抜けると……』
「しかし、意思の疎通が出来る虫がいるとはな、本当にゲームの中にいるって実感が出てきたな」
「そうですね、いままでは普通の動物と変な動物しかいなかったですからね」
「出てくるのは兎に狼、鳥に鼠とリアルでも見かける事の出来るヤツばっかで、これは動物を虐待するゲームか! って始めた頃は思いましたよ、エッグイーターも尻尾が生えたまま巨大化した蛙って感じでしたし」
「狩りと思えば罪悪感は少しは薄れるぞ」
「食べ物と思えば、なんとか」
「いやいや、そんな割り切れ無いッスよ?」
「私達が普段食べてる物だって元は動物なんですから、今更な話では?」
「そう言っても、ねぇ?」
「そ、そうですよ、あんなに可愛らしい兎を仕留めるなんて私にはとても」
「だからキキは後ろで回復に専念してるんだよね」
「ダメよ! 可哀想だからってそれを避けてたらこっちがやられるのよ!」
「それは、わかってるんですけど」
「ま~ま~、今はいいじゃないですか~、それより2階ベッド下ろすの手伝ってくれませんか~、お布団が恋しくて~」
「場所を取るからダメよ、カンナ、諦めなさい」
「間違いなくカンナさんが動かなくなるので却下です」
「え~、皆でぬくぬくしましょうよ~」
馬車の中では皆が雑談に花を咲かせている、何故こんなにのんびりと話しているのか、それは【巨虫の森】を抜けたからだ。今、目の前に広がるのは巨大な樹木が広がる森ではなく、極々ありふれた木々が連なる森、つまり、もう巨虫が這いずりまわる地域を抜けた事を表している、とクロウは言ってた。ちなみに皆が1階に集まってる理由は馬車の損傷具合から2階が壊れるんじゃないか? という女性陣の疑心暗鬼からだ。
その馬車は襲撃前と比べるとひどく揺れる様になった、水クッションのお陰で衝撃は緩和されていると言っても結構辛い、皆は平気なんだろうか? ……水クッションはこれしかないし、要求されても困るから心に留めるだけにしておこう。もしかして、それを誤魔化すためにあんなに盛り上がってるのか? いや流石にないか。
そうこうしているうちに森の木々の合間に草原が見えてきた、ようやく森も終わりか、長かったような短かったような、とりあえず皆に伝えよう。
さっきから眷族が女性陣に拐われてグレイス達が困ってるし、ゴウカ達飛行組はゲンジロウとボゥルと一緒に2階と1階を行ったり来たりバタバタうるさい、ちなみにボゥルはアンク君のストーンスワローの名前で、全体的に黄色っぽい燕だ。
燕の主であるユキムラ君とアンク君はイアン達と一緒に掲示板の情報で盛り上がっている、なんでもあの自称攻略組とその仲間達が撃退されたそうだ、討伐ではなく撃退の理由は倒しても町でリスタートするだけでこれといったペナルティーがないかららしい。実際には脅し、というか恐喝? 程度しかしてなかったみたいだ。まぁ、ただのチンピラだったということだな。
「おーい、そろそろ森を抜けそうだぞ」
「おっ、ようやくか」
「は~、何も起こらなくて良かったですね」
「ホントホント、しっかし初めての旅が大きな虫の住む森ってなかなかの鬼畜だよね」
「ネリネみたいな人には辛い場所だよな」
「えぇ本当に、もう2度と【巨虫の森】には来ませんわ、絶対に」
「ま! 鍛治師的にはめぼしい物もないし良いんじゃない?」
「皆さん気を緩めすぎですよ、まだ王都まであるんですから」
「油断大敵と言うしな」
「じゃあおいらはもう一度警戒態勢に戻るッスね」
「あっ、俺も行きます」
「じゃあ俺達は回復アイテムの分配でもしておくか」
ジロウの言葉でクロウを皮切りにそれぞれが準備を始めた、俺は……とりあえずマジックソードでも取り出しておくか、ネリネさん達から奪還したのかグレイスとシロツキが眷族の首をくわえて戻ってきた、しかしコイツら大きくならないな、もしや愛玩用か!? いや無いか、一応召喚獣だもんな。
そうしている間に森の向こうからなにやら声が聞こえてくる、声は野太く男、それも大勢だろう。何かやってるみたいだ。
「クロウ、ガブ、何か分かるか?」
「何かたくさん反応があるのはわかるんすけど、それ以上は」
「草原に起伏があるみたいで、こちらも声の出どころまでは」
「う~ん、行ってみるしかないか」
少しスピードを上げて森を駆けるとすぐに森の出口にたどり着いた、森を抜けると一面に広がる草原と舗装された大きな道、そしてその先に巨大な壁が存在した。あれが王都だな。
こんな土砂降りじゃなかったら壮観なんだろうが、まぁ、そこはいい、問題は、
「あれは、エッグイーター? 色違うけど」
「と、青で統一された鎧の集団、騎士団、でしょうか?」
「そうッス、盾と青色の鎧の胸部にある鷲の紋章が見えるッスか? あれがノグリス王国第2騎士団【ブルーイーグル騎士団】ッス」
「へぇ、ちなみに第1は?」
「赤色の鎧と獅子の紋章の【レッドライオン騎士団】ッス、そしてその上に白と金色の鎧に鷲獅子の紋章を持つ、王の親衛騎士団【ロイヤルグリフォン騎士団】があるッス」
「鎧の色と紋章で所属が分かる様になってるんだな」
「そうみたいッス、ちなみにブルーイーグルは王都の南から西を、レッドライオンは北から東の防衛を担当してるらしいッス」
「それだと北西と南東はどうなるんだ?」
「半々じゃないッスかね?」
「それよりどうするんですか? あれ、もろに道の真ん中でやりあってますが」
そう、騎士団と黒いエッグイーターは道の中央で攻防を繰り広げている、道ではなく草原の真ん中で戦ってくれるとありがたいのだが、あっ騎馬が1騎こっちに来るな。
その騎馬の人の鎧は他の騎士と違い、鎧の縁に金色の装飾がありマントを羽織っている、ん? あの鎧、胸元が大きく膨らんでる? もしかして女性なのかな。
騎馬は俺達の前に止まると、兜の目の部分を開きこちらに問いかけてきた。
「その装い、冒険者の一行か? どこから参られた?」
兜から聞こえてきた声は高くやはり女性のようだった。こんな雨の中ご苦労様です。おっと、返答をしないと、
「はい、アインから来て、いましがた森を抜けたところです」
「そうか、その様子だと大変だったようだな、本来ならようこそ、と言いたいところだが今は取り込み中でな」
「それは、まぁ、見たら分かりますので」
「うむ、理解が早くて助かる」
「ちなみにどれくらいかかります?」
「そうだな、この調子ならあと1時間程だろうか」
1時間か、ちょっと長いな、出来ればもう少し短くならないだろうか? 何か方法はないか。
そうだ、将来的な事を考えて攻略方を聞いてみたらいいんじゃないか? 何か思い付くかもしれないし。
「エッグイーターの攻略法ってあるんですか?」
「ヤツの攻略法? そうだな、一般的には動きを止めてから魔法を撃ち込むのが正しいとされているな、今団員達がやっているように盾でヤツの動きを阻み、風派生魔法の雷魔法を撃ち込むのがセオリーとされている、
実はもう少し楽な方法もあるんだが今は難しくてな」
「ちなみに、その方法は?」
「卵だ、ヤツは卵を食べている間はその場を動かず咀嚼し続ける、別の卵を見かけない限りではあるがな、その間に詠唱の長い上級魔法やアーツをヤツの頭に叩き付けるのだ、だが、今王都ではヤツのせいで卵が不足し、討伐に必要な量を集める事が出来なかったのだ、それ故ああやって地道に攻撃を続けているのだ」
なるほど、それなら役に立てるかな。
「でしたら、これを使って下さい」
取り出したるはストーンスワローの卵、本当は俺自身の手で孵化させたいが、俺の資金面の乏しさを考えると孵化させる程の余裕が出来るまでどれくらいかかるか分かったものじゃない。
それにクモの襲撃や休憩で予想以上の時間をくってしまった、少し急がないとログアウトする時間に間に合わない可能性もある、俺はともかく学生組に無理をさせられない。
だから使えそうな物は何でも使わせて貰おう。少々口惜しいけどね。
「良いのか? 貴殿はその、従魔を連れているのだろう、ならばその卵も」
「今のお、私では孵化させても世話をしきれませんので」
「……承知した、感謝する、ではもう暫くそこで待っていてくれ、すぐ終わらせる」
そう言うと戦列に戻っていった、せっかくだし騎士団がエッグイーターを倒す所を見学しよう。
色々と勉強になるだろうからね。




