07『姉弟』
「それではこちらが依頼品になります。お納め下さい」
差し出される10本のビン、中には青色の液体が入っている。良く見ると少しずつ色の濃さが違う。7本は同じ濃さだが、2本は薄く1本は少し濃い。鑑定してみよう、まずは一番多い色から、
『LP回復ポーション
飲む又は体に掛けることで、LPを30%回復する
※飲むと直ぐ回復する、掛けると徐々に回復する』
市販のポーションと変わらないようだ、続いて少し薄い色のを鑑定。
『LP回復ポーション
飲む又は体に掛けることで、LPを28%回復する
※飲むと直ぐ回復する、掛けると徐々に回復する』
少し効果が低い様だ、rankが低いのかな? 最後に一番濃いのを鑑定。
『LP回復ポーション
飲む又は体に掛けることで、LPを32%回復する
※飲むと直ぐ回復する、掛けると徐々に回復する』
こちらは効果が少し高い、つまりrankが高いと言うことだろう。ポーチに入れて確認すると
『LP回復ポーション×1
LP回復ポーション×7
LP回復ポーション×2』
と表記された。どうやら別アイテムと認識される様だ、並びはrankの高い順からみたいだな。しかし、これじゃ間違えて使ってしまう事もありそうだな、注意しないと、戦闘中にそれは無理か。
さて、と、
「お待たせしました」
「いえ、本当に直ぐだったので大丈夫です。それでは行きましょうか」
ネリネさんがそう言いつつ、入り口の方に振り向くと、
「あれ、姉様? どうしたの、男の人と一緒なんて、まさかデー、った!? 」
「そんなわけ無いでしょう。そんな事言ってると叩きますよ? 」
突然、ギルド内にある店から出てきた少年が話掛けてきた。少年の言葉を聞くや否やネリネさんは少年に近付き頭に拳骨を降り下ろした。姉様とか言ってたから弟かな? あっ、拳骨食らってしゃがみ込んだ少年が立ち上がった。
「もう叩いてるじゃないか! 姉様のステータス【鍛冶師】のせいかリアルより痛いんだから手加減してよ」
「これは叩いたんじゃありません、躾です。それに痛くないと教訓にならないでしょう? 」
「こう言うのは虐待って言う、ごめんなさいごめんなさいもう口答えしないから腕を離して!? 」
拳骨に対しての抗議を行った少年の腕をネリネさんが掴んだ。少年は逃げようと抵抗している様だが、一向に離れる気配はない。少年の言う通りネリネさんの力が強いのか、それとも少年の力が弱いのか。とにかく、少年が必死なのは見てわかる。頑張れ、名も知れぬ少年! 俺には何も出来ないけどな、部外者だし。
「駄目です。一週間前に言った事をもう忘れてしまっている出来の悪い子には改めて教育しないと」
「ゲームの中まで姉様の理屈を押し付けないでよ! 」
「・・・今回は少しきつめにいきましょうか」
「わぁぁぁぁ!? 思い出した! 思い出したからその手を離してネリネさん!」
「ふぅ、今は余り時間が無いので、今回は見逃がしましょう。次は無いですから、ね? 」
少年は何度も首を上下に振っている。そこまで恐ろしいのか、厄介な兄弟姉妹がいると大変だな。そろそろ助け船でも出してやろうか、なるか分からないけど、
「この子、弟さん? 」
「はい、私の不肖の弟です。この様な容姿ではありますが、実年齢はきちんと【CWO】の指定年齢はクリアしているので問題はありません。ほら、いつまでも震えてないで挨拶しなさい」
「はっ初めまして! 『ユキムラ』です。ジョブは【戦士】です。槍をメインでやってます。よろしくお願いします! 」
「俺は、ジン。【捕縛師】だ。よろしくな」
自己紹介を終えて改めて少年の姿を見る。防具は赤い金属系の鎧、背中には槍を背負う形で装備している。名前といい、装備といい、間違いなく戦国武将を意識しているのだろうが、鎧は西洋系だし、背の低さが子供の様に見せてしまっていて、非常に頼りない。身長150あるか?
姉と違い、髪色は黒、瞳の色は茶色。もしかすると結構リアルのままなのかもしれないな。
「そうだ、ユキムラ。貴方明日から暇よね? 」
「えっ、そうでも、ないかな? 南の森には行けないけど、東に行けば素材は集まるから暇ではない」
「ひ・ま・よ・ね? 」
「・・・はい、暇です」
おい、負けるな! もう少し粘れよ。
「ということでジンさん」
「はい」
「この子も連れていきますよろしいですか? 」
「人数に余裕はありますからこっちは構いませんけど。むしろユキムラ君はそれで良いのか? 」
「ネリネさんにこれ以上逆らうと後が怖いので構いません」
「ユキムラ」
「ごめんなさい! 」
名前を呼ばれて直ぐ謝るのは構わないが、なんだろう、この子の将来が不安だ。このままだと、姉に逆らえない人生を歩む事になるかもしれない。【CWO】で変わる切っ掛けを見付けられたら良いんだが。
「とにかく、どこに行くかぐらいは話した方が」
「・・・分かりました。流石に今のは理不尽な気が、しないでもないので。ユキムラ」
「はい! 」
「明日から一週間かけて王都に向かいます。準備は明日の、【CWO】で明朝までです。急ぎなさい」
「えぇーーーー!? 」
「返事は? 」
「はい! 」
「よろしい。ではジンさん行きましょう。仲間達が待ちくたびれているでしょうから」
「良いの!? 今ので良い、んですか? 」
「ユキムラはこれで良いんです。それより急ぎますよ」
ネリネさんは迷いなくギルドの玄関に向かって行く。言葉通り急いでいるんだろう、少し早歩きだ。それを慌てて追いかける。
強引に王都へ同行する事になったユキムラ君が気になり振り返ると、顎に左手の指を当てぶつぶつと何か言っている、同時にメニューを操作しているようで右手が上下左右にスライドしているのが見えた。聞き取れたのは「必要な……」「これは足りない……」等の言葉の切れ端、おそらく、アイテム欄を見て旅に必要な物をピックアップしているのだろう。
本当にあの会話で良いんだ、スゲーなこの姉弟。
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少し急いで噴水広場に到着。ネリネさんはキョロキョロと首を振り仲間を探していた。そして、「居た」と呟くと駆け出して行った、もちろん後ろを付いていく。ネリネさんの向かおうとしている方を見ると3人の女性がこちらを見ていた。あれが待ち人かな?
「遅いわよネリネ! 」
「ごめんなさい、いくつか用事を済ませてきたの」
真っ赤な髪色でツインテールを揺らす、小柄な女の子が出会い頭に怒鳴った。ネリネさんは謝り簡潔に理由を述べる、なんだか慣れている感じ、いつもの事なんだろうか? 女の子が再度口を開こうとすると、隣にいた茶髪でショートカットのスレンダーな女性が止めに入る。
「まあまあ、ビウム。こっちだって用事が済んだばかりなんだから」
「なに言ってるの!? ネリネがもっと早く来てればあんなの相手しなくて良かったのよ! 」
「むしろネリネちゃんが来たら~、もーっとしつこかった気がするよ~、あの人達~」
更に、反対側にいるウェーブのかかった長い緑色の髪色で、溢れんばかりの胸部を揺らす眠たそうな顔をしている女性もフォローに入る。一体どんな奴等に絡まれたんだ? 聞いてる限りナンパにあっただけな気がするんだが、
「ネリネ美人だしね」
「それは私がキレイじゃないって言いたいの!? 」
「ビウムちゃんはキレイと言うより、可愛い、じゃないかな? 」
「そうそう、ちっちゃくて可愛いのがビウムだよ」
「ええ、口うるさくて生意気で子供のように見えるのが私よ! 文句ある!? 」
「ビウムさんその辺で、そろそろこちらの用事を済ませましょう」
4人が一斉にこちらを見る。あれだな、さすがに女性にじろじろ見られるのは落ち着かないな。そして、
「ダメね、チェンジで」
おい、いきなりダメ出しかよ。