06『再会』
え~と、思い出せ、まだ【CWO】が始まって一週間だぞ、必ず覚えてるはず。黒く縦長でツバの広い帽子、黒っぽいローブ。【魔女】? 俺の事を知っている【魔女】といえば、
「レキ、だっけ? 」
「そう、レキちゃんです。ていうかなんで疑問系? 」
「あ、いや、その、ちょっと忘れてた」
「ひっど~い! 人の名前を忘れるなんて」
「そう言われてもな」
「そうだよレキちゃん、一回しか会ってない人全員覚えるのは難しいよ」
そう言ってレキの後ろから修道服を着た女性も来た。確かキキだったかな?
「私は覚えてるよ、それに人の名前を忘れるのは失礼じゃない? 」
「それはそうだけど」
「というわけで、なんか奢って」
そう言って、両手を前に差し出してくる。それを見たキキが呆れたように呟く。
「・・レキちゃん、最初からそれが狙いだったんだね」
「盛り上がってるとこ悪いが、今手持ちが少ない上に、これから王都へ向かうための旅支度があるんで、また今度な」
すると、又もやレキが反応する。
「何々!? ジンも王都に行くの? だったら私達と行かない? 」
「ん? レキ達も行くのか? 」
「とう~ぜん! 東でレベル上げも良いんだけど、やっぱり王都まで行ってみたいじゃない? 」
「それに初心者向けのダンジョンもあるらしいんです。行ってみて損はないだろうってリーダーが」
「ほう、ダンジョンか。まあ、RPGと言えばそうだよな」
「ってことで、今メンバーを集めてるところなんだ。目指せフル『ユニオン』ってね」
「『ユニオン』? 」
「【CWO】ってパーティーの上限が8人なんだけど、他のパーティーとくっつけて最大40人が一緒に行動出来るんだよ。そのパーティーをくっつける事を『ユニオン』って言うんだよ」
「今はそのメンバー集めの最中なんです、けど」
キキの声のトーンが少しずつ下がっていく、あ~これは、
「何か問題でも出たか? 」
「それがですね、日程とか移動中のポジションとかは、まぁ、出てくるかなぁ、と思ってたことなんで、それはなんとかなりそうなんですけど」
「最後に来た奴がね、『俺達が一番レベルが高い! だから指揮は俺達が出す』とか言っててね。それに文句を言ったら、『俺達は攻略組だ。だから一番指揮も上手い』とか意味不明な事言い出したんだよ。もう見てるのも嫌になっちゃってさ~」
「攻略組って、一体何をもって言ってるんだそれ? 」
「彼等が言うには、他のプレイヤーが持ってない物や情報らしいですけど」
「ぶっちゃけ、信憑性が無いんだよね。その内容も話さないし」
「今の所は本人達がそう言ってるだけ、と」
「まぁ、そういうこと~」
「迷惑な話です」
人が集まるとそれだけ問題が増える、面倒な話だ。しかし、
「良くそんな状態で俺を誘おうと思ったな」
「う~ん、単純に悪い人じゃないのは知ってるしね~。それにこのままだと『ユニオン』駄目になっちゃいそうだし、その時の~・・・保険? 」
「すいません、レキちゃんが失礼で」
そう言って申し訳なさそうに頭を下げるキキに向かって、
「良いよ、それぐらい気にしないから」
と返事をすると、キキはまた頭を下げる。いつもこんな事やってんだろうな、と思っていると、
「お待たせしました。こちらが馬車のデッサンになります」
ようやく待ち人が来た。さてさて、どんな感じかな? 早速、目を通してみる。
「え~と、これが借りる予定の馬車、ですか? 」
「はい、カードにはそれで登録されていましたよ」
「そう、ですか」
確かに、練習で使った物と同じ種類には該当するだろう。しかし、これは、
「これは、二階があるんですか? 」
「はい! ギルドマスター御用達ですから。重量も魔道具で大幅カット、揺れも少なく二階は寝室付き。超豪華仕様です」
「これ、借りていいの? 本当は駄目なやつじゃない? 」
「そう聞かれた時の回答もカードに記載されてました。担当者曰く『馬が無事なら壊しても良いよ、修理費なんかは全部マスターの給料から天引くから、むしろギリギリ動く程度まで壊してきて』だそうです」
「ギルドマスターなにしたの? 」
「あ~、なんでもこの依頼の件、全部この担当者さんに丸投げしたらしいです。よくある話らしいんですけど」
「・・・よくあるんだ」
「ええ、さすがに今回は我慢出来なかったみたいで、マスターへの腹いせも含んでるみたいです」
「そう、ですか」
改めてデッサンを見る。
見た目は帆立馬車、ただ客車上部に窓枠のようなものが描かれている。更に他のデッサンも見てみると、御者台をスライドさせることで、馬を収納出来るスペースを確保出来るようだ。ここまでくるとリアルとかけ離れてくるな。一応最大乗車人数は35人と表記されているが、今回の2頭立の場合は25人とちょっと少なくなるな。
まぁ、そんなに乗っていく予定はないからいいか。しかし、これは、
「練習と同じで、行けるのか? 」
「重量としては、牧場の物よりも軽いはずですから、大きな問題はないと思いますよ。むしろ、乗せるものの重量の心配をした方がよろしいかと」
「そっちの方は大丈夫だと思いますが」
「そうですか。それでは明日の朝一度ギルドにいらしてください、係りの者が馬車まで案内しますので」
「分かりました。失礼します」
話を終えて受付から離れると、さっきから会話を離れたところで聞いて、うずうずしていたレキが話かけてきた。
「ねぇねぇ! 今の話ってさ、ジンが馬車を運転するって話だよね」
「まぁ、そうだな」
「それなら私達を乗せてよ」
「言うと思ったよ。まぁ、別に構わないぞ」
「本当!? 」「良いんですか? 」
「あぁ、恩人だし別に問題ないぞ。でもユニオン全員は無理だから、二人のパーティーだけならな」
俺の提案を聞いて、二人はがっかりしたように表情を曇らせる。
「あ~、それだと無理そうです」
「ちょっとくらい人数オーバーしても大丈夫じゃない? ねぇ? 」
「残念な事に既に4人乗ることが決まってるんだよ。俺のパーティーを含めると5人と2匹、更に一匹加入予定、ついでに言えば、乗員オーバーしても40人越えは、さすがになぁ。それに出発は【CWO】内時間で明日の朝、都合つくのか? 」
「私らだけなら行けるよ、もう出発準備は出来てるし」
「でも他のパーティーはどうか分かりません。彼等が来る前は明後日からゆっくり出発する予定になりかけてましたけど」
「いきなり解散ってのも無理そうだし、今回は縁が無かったって事で」
「えぇ~」
「残念です」
「まあ、あれだ。もし1パーティーだけで移動するような事になったら、明日の8時、おっと、【CWO 】でのな、それまでにここに来いよ。乗せてってやるから」
二人はそれを聞いて頷きながら、
「分かりました。伝えておきます」
「無理だと思うけど、そっちの方が楽そうだし、一応説得してみるよ」
「まあ、期待せずに待ってるよ。じゃあな」
互いに挨拶をして別れてギルドの出入口に向かうと、ネリネさんが待っていた。
「彼女達も一緒に行くのですか? 」
「まだ分かりません。他のメンバーの事もありますし、あっちも独自に王都に向かう計画を立てているみたいだから、折り合いがつけば、ってところですかね」
「共に行くなら挨拶を、と思いましたが、また今度ですね」
「そうですね、それともう1つ用事を済ませても良いですか? 」
「構いませんけど、時間が掛かりませんか? 」
「それは大丈夫だと思います。受け取りだけですから」
「だったら、早く参りましょう。で、どちらに? 」
「正面の【薬剤師ギルド】です。さあ行きましょう」