26『ゴブリン砦~救出編~3』
【ゴブリンコマンダー】対応rank:C
『ゴブリンの隊長
12体以上のゴブリンの部隊を結成し、それを指揮するゴブリン
コマンダーが現れるとゴブリン達は隊列を組み、人族同様の軍事行動を行うようになる
基本となる部隊編制は、コマンダー1、リーダー3、ソルジャー3、アーチャー又はメイジ3、ゴブリン3の13体
単体で現れることはまずない』
壁を壊して現れたのはゴブリンコマンダーなるゴブリンだ。
子供位の大きさだったゴブリンに比べると、コマンダーは大人と言って良いだろう。背は俺と同じくらいだが、膨れ上がった筋肉が威圧感を感じさせる。
握った拳には所謂"メリケンサック"と呼ばれる物に酷似した物を装備し、肩と肘、膝には棘の付いたパッドを、胸部にも胸当てを装備している。
どう見ても格闘戦を想定した装備だ、絶対近寄りたくない。
「あれもゴブリン!? 肌の色と耳以外完全に別種だろう!? 」
「早く離れるでござる!! あれの一撃を受ければ拙者達は一溜りもないでござる! 」
「そんなの言われなくてもそうする! 」
グレイス達を連れ、コマンダーから一番離れた倉庫の隅へ逃げる。
壊れた壁と扉からはゴブリン達が次々と入ってくる、コマンダーは壁の側から動かない。どうやら戦いには参加せずに、後ろで指揮に徹するつもりのようだ。胸の前で腕を組みこちらを睨み付けてくる。
「完全にやられたな」
「もう脱出するしか手がないでござる」
「・・・その前に一つ、試したい事がある」
「まだ悪足掻きをするのでござるか? 諦めが悪いでござるな」
「悪かったな諦めが悪くて。とりあえず賭けが上手くいくかどうかを試す。上手く行けば生きたまま脱出できる……かもしれない。って事でグレイス! 思いっきり吠えろ! ラプター達を起こせ! 」
ラプター達は俺達からゴブリンを挟んだ向こう側にいる、上手くいけば、ラプター達が後ろから強襲する形になるだろう。
ただ、先程の破砕音で目を覚まさなかったのが気掛かりだ、が、今は少しでも生還できる可能性にかけるしかない! もし無理なら、使いたくはないが緊急脱出だ。ゲームと言えど死ぬのは御免だ。
俺の指示を受けたグレイスは大きく息を吸い、吠える。
「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!! 」
倉庫内に響き渡る遠吠えに俺達もゴブリン達も耳を塞ぐ。コマンダーだけは仁王立ちのままだ。ホントにあいつは別格だな。
遠吠えが止むと何体かのゴブリンが膝をついた、倒れた者もいる。
「いったいなんで? 」
「何を言ってるでござるか、獣型の魔物が持つ【咆哮】スキルではござらぬか」
「グレイスはそのスキル持ってない」
「ならば今発現したのでは」
「後で確認してみる」
「それが良いでござるな、さて、ラプター達の方は」
「・・・どうやら目は覚ましたようだな、さぁ、こっからが本番だ、どうなる? 」
ゴブリン達にも少なからず仲間意識はあるらしく、膝をついた者を後ろに下がらさせていた。倒れた者がそのままなのは、生死が分からないからか? とにかく、コマンダーが隊列を整えている後ろでラプター達は一体、また一体と立ちあがり、そして、
「グォォォォォォォォォォン!! 」
雄叫びを上げると共に、ゴブリン達に襲い掛かった。
「ギャギャ! ギャァァ!! 」
「グァ! クォンクォン! 」
ゴブリンは木の棒を手当たり次第に振り仲間を巻き込みながら進み、ラプターは飛び上がりゴブリン達の中に突入。こちらも手当たり次第爪で切り裂き尻尾を振るう。
まさしく乱戦模様。まぁ、コマンダーだけはラプター3体相手に完封しているが、ソルジャー達の動きを止められただけで十分だろう。
「おぉ! 狙い通りにいったでござるな」
「感心してないで壁壊して逃げるぞ、このチャンスを逃してたまるか! 」
「おっと、そうでござるな。いざ、【爆炎蹴】」
大きな爆音と共に後ろの壁が破壊され大穴が空いた、これで逃げ道は出来た。ただ使った技が悪かった。その場に居た全員がこちらを見て固まっていた。そして、
「ガァァァァァァァ!! 」
コマンダーの叫びに反応して、ゴブリン達がこちらに向けて走りだし、ラプター達も近くにいたゴブリン達を蹴散らしながら向かってくる。俺達は慌てて穴を抜け中央に向け走り出した。砦の向こうに向かわなかった理由は、
「コマンダーの奴、なんで倉庫の裏までゴブリン配置してんだ! 」
「そんな事よりもっと速く走るでござる! 」
「お前もお前だ! なんであんな派手な技使ったんだ! 逃げにくくなるだろうが! 」
「す、済まぬ。つい、いつもの癖で」
「お前忍だろ! 忍らしく隠密に動けよ! 」
「それは偏見でござる、忍だって人それぞれでござるよ。ちなみに拙者は派手にいきたいでござる」
「お前その耳と尻尾、わざと出してるな。目立つ為だけに」
「ノーコメントでござーる!? 」
シノブが後ろを見ながら驚いている、俺もつられて後ろを振り返る。そこには燃え盛る炎に包まれた倉庫があった。そして、そこから逃げようとして倉庫から飛び出すゴブリン達とラプター達の姿があった。
「あの中に燃えるような物、あったか? 」
「燃えるものどころか、中は空っぽ。ラプター達が眠ってただけでござる」
「じゃあ、なんで燃えてんだよ」
「さっぱりでござる」
「あっ、また壊れた」
立ち止まり燃える倉庫を見ながら話していると、新たに壁が壊れた。そして中から何体ものラプターに噛み付かれ、鋭い爪でしがみつかれたコマンダーが転がってきた。そのあとを更に別のラプターが追う。先程、俺が装備を外した首元が赤いラプターだ。そしてそのラプターは、嘴のように尖った口を開き火を吹いた。どうやらあれがこの火事の原因のようだ。
「へぇ、ラプターって火を吹けるんだ」
「【ヴォルケーノライドラプター】ならともかく、フォレストが吹けるのは普通はありえないでござる。あれは特殊固体でござる」
「なるほど、レアモンか」
「まぁ、そう呼ぶ事が多いでござるな」
「あのままコマンダーを倒してくれないかな?」
「無理でござるな、同じrankのモンスターでも強さは固体によって大分変わるでござるからな」
「具体的には? 」
「コマンダーはCの上位、Bに限り無く近い魔物でござる。対してラプターはCの中位、速さはピカイチでござるが、他では負けるでござるな。火を吹けることを勘定に入れても勝つのは難しいでござろう」
シノブの説明を受けてる間もラプター達はコマンダーと戦っている。ラプター達はコマンダーにすれ違い様に爪で攻撃しているが、コマンダーはそれに対して防御と回避、そして反撃を行っている。が、決定的な一撃を与えるほどでは無いようだ。
理由は、コマンダーが付かず離れず、常に一定の距離を保ち、コマンダーの反撃の際、火を吹いて牽制している。余程、火が怖いのだろう。攻撃よりも火を警戒して攻めきれないようだ。だが、
「今の俺達には好都合だな。そろそろあちらさんも体勢を整えてきたし、逃げるぞ」
「むしろ見ていた時間が勿体なかったでござる」
「お前も見てたんだから文句言うな。行くぞ! 」
「承知したでござる」
倉庫から脱出したゴブリン達の一部がこちらに向かい始めた。まぁ、コマンダーの指示のもと動いているのは明白だろう。
だって、ラプターの攻撃を受けながら叫んでるしな。だがこちらとしても追いつかれるつもりはない。それにこちらに来るのは先程咆哮で膝をついていたゴブリン。追い付かれても対処可能だ。
「ここまで上手く行くと気分が良いな」
「拙者はむしろ、上手く行き過ぎて不安でござる」
「そうか? 」
「こういうときは必ず何か厄介な事が待ってるでござるよ」
「それは経験か? 」
「我が家の家訓でござる」
そう言うとシノブは空を見上げ、
「これ以上、大きな問題が起きませんように」
と、星の見えない空に小声で祈った
目標達成!!
ステータスは救出編終了までお待ちください
それほど気にしてる人はいないと思うけど
それとHPをLPに順次変えて行きます
理由はLPの方が自分的に表現しやすいからです
それではまた次回!