04『シザー・ブラスター』
森から現れた巨大な騎士、周囲の木の高さの倍くらいだから大体15、6mと言った所か。俺の記憶が正しければイベントでダンジョンを開放した巨大ゴーレムに姿が似ているが、偶然か? しかし、一体何処にこんなものが隠れていた? この色と大きさじゃ姿を隠せる筈が無いが、とにかく出て来てくれたのなら助かる。まずは話かけてみよう。
「俺は冒険者ギルド公認キャラバン『渡り蟹』のリーダー、ジン。俺達のホームを攻撃したのはあなたか? もしそうなら、その理由を話してもらいた――」
『問答無用!』
俺に問に対しそう答えた黄土色の騎士は、背中からハンマーを抜きこちらに振り下ろしてきた。マジで問答無用かよ!? ならば、
「ネイ!!」
『ガッ!?』
俺の呼び声に答え、ネイは振り下ろされたハンマーの先を騎士の横腹付近の空間に繋ぎ、騎士を右へ吹き飛ばした。本当でこっちを潰す気だったのだろう、巨大な騎士は結構な距離を跳び倒れた。気絶でもしたのか動く様子は見えないが、じっとしている訳にはいかない。立ち上がればまた攻撃してくるだろうし、ここは妖精の森、何が起こるか分からない。
「ネイ! 魔法の全力使用を許可する、急いでシェルハウスを立たせてくれ!」
直後、周囲の空間が歪み、元に戻ると俺の視界が傾いていた。縁に立ってりゃそうなるよな。良かった、足を固定しておいて。
「俺をテラスに! その後は街まで全力前進だ!」
再度周囲の景色が歪み、今度はテラスに移動した。すぐにネイが動き出したので、鞭の先を手すりに結び付け、持ち手付近をベルトに巻きつけ体を固定する。
『ちょっと!? 情報が来ないと話が聞けないんですけどぉ!』
「すまん! 分かったのは巨大な騎士が攻撃してくるくらい――っとわ!?」
突然、大きな衝撃が体を襲う。騎士が追撃してきたのか? いや、マップを見る限り騎士はまだ動いていない。なら、狙撃の方か!
「ネイ! シェルハウスの【防御障壁】の厚さを上げろ、防御を固めるんだ!」
刻印型防御魔法デュアルシールド、物理、魔法どちらにも対応可能な不可視の盾。いや、全身を覆うスーツの方が表現としては正しいか。こういう魔法か物理か分からない時には助かる魔法だ。なにせ、どっちでも軽減は可能だからな。
どちらかに特化した方が効果は高いらしいが、両方は同時に付けられないとの事でバランスを考えて設置してもらったものだ。ちなみに刻印は貝殻の内側に彫ってあるので、外からは見えない仕様になっている。
とにかく、これでさっきみたいに横倒しにされる事は無くなる、筈だ。まあ、威力を上げられたら分からないが。
『こちらアンク! 残り貯蔵魔力73%』
リビングに設置されたゴーレムのサブコンソールコア、俺の部屋にあるマスターコンソールコアの機能制限版を確認したであろうアンクが、ゴーレムの魔力残量を伝えてきた。今の2度の移動で3割近く消費したみたいだ。
と、言っても俺を移動させた小規模のものは2%程で、大半はシェルハウスを動かした時で消費したんだろうけど。ホント、ネイのスキルをゴーレムの魔力で代用出来る様になったのは助かるね。おかげでこんな大きなものだって移動出来る様になったんだから。
「分かった! また大きく減少したら随時報告を――マジか!?」
突如、俺達の進行を阻む様に地面から巨大な壁が出現した。狙撃してきた奴か、はたまた別に伏兵が居たか? とにかく突破だ!
「ネイ、叩き壊せ!」
ネイが操るゴーレムが大きなハサミを壁に振り下ろす。しかし、壁は壊れずハサミは弾き返された。更に破壊してそのまま走り抜けるつもりだったので、スピードを緩める指示を出していなかった。そのせいでそのまま壁にゴーレムが激突した。
「わっと!? どんだけ頑丈なんだよ?」
ぶつかった衝撃が体を襲い激しく揺れるが、壁にはヒビすら入っていない。シェルハウスの激突を受けて無傷、これは物理では駄目だな。かと言って、避けて森に入れば妖精の機嫌を損なって何をされるか分からない。ならば、
「ネイ、シザー・ブラスターだ! 壁に穴を開けろ!」
【シザー・ブラスター】、シェルハウスクラブのハサミから魔力の光線を放つ武器だ。ネイがスキルで使っていた攻撃を【アイン】の錬金術師達が模倣して制作した物だ。こちらも消費するのはネイの魔力ではなく、ゴーレムに貯蔵されている魔力だ。
しかも、ゴーレムに命令した時は射程、威力、消費魔力は全て一定なのだが、ネイが使用する時はそれを調整する事が可能になっている。まあ、今回が初使用なので、どこまで出来るかは未知数なんだけど。だが、使うなら今だろう。
「アンク、シザーブラスターを使う。そのまま魔力残量の確認を頼めるか?」
『おお! 例の武器ですね。了解です、任せて下さい』
アンクから少々高揚した返事が来る。まあ、こう言う武器はロマンだからな、気持ちは分かる。でも俺達が出来る事って使用を指示するだけなんだよ。だってゴーレムの武器だからな、これ。強いて言えば使用する為のチャージの間、邪魔が入らない様にするくらいかな。
『女性陣の誰か、後方の騎士の様子を見てもらえないか?』
『それならもうミームちゃんが行ったわ、一番目が良いからって』
『分かった』
『それと大きな騎士の情報だと思うものが聞けたけど、どうする、今聞く?』
マリーダとリアンノが手に入れた情報は気になるが、今はこの状況をどうにかするのが先だな。
『いや、それは後で聞く。キリムさん達の方は頼んだ』
『『了解!』』
『ミーム、騎士の状況は見えるか?』
『……うん。後ろ、黄色の騎士が片膝を突いた状態で手を地面に当ててる。土の魔力の流れの感じから、今正面に立ち塞がったって言う壁はあの騎士の仕業……だと思う。それと森の中、別の大きな風の魔力がある。大きさと形が似てるから、多分、黄色の騎士と似たようなのが居る。さっき狙撃してきたのはきっとコイツ』
ミームの種族【ハーフエルフ】は、種族特性として魔力を最初から見る事の出来る【妖精眼】と言う能力を持っている。俺の【擬似魔眼】と違い、魔力の集中も消費も無く使用出来る優秀な能力だ。これは亜人種なら誰でも持っているそうだ。
つまり、いままで俺が有利に戦ってこれた無属性魔力剣の特性である、不可視効果が無効化される訳だ。だから、出来れば共和国のノルンとは敵対したくは無いのだが、相手に聞く耳が無いんじゃどうしようもないよな。うん。
「了解だ、そのまま監視を頼む。それと――」
『聞いてた。一応、体は固定しておく』
「分かった。気をつけろよ」
『エッグサンドをお腹一杯食べられる場所を離れるつもりは無い』
それは報酬として大量のエッグサンドを要求しているのか?
「まあ、そっちは考えておいてやるよ」
『ん、よろしく』
流石に大量の用意は難しいなぁ、しばらくは俺の分を分けてやるかな。おっ!
『シェルハウスクラブ・ゴーレムの魔力チャージが完了しました』
ログに追加されたチャージ完了の文字、それじゃま早速その威力、確かめさせてもらおうか!
「ネイ! 目標、正面に立ち塞がる壁! シザー・ブラスター、撃てぇ!!」
一度言ってみたかったセリフをアレンジすると同時に、正面に伸ばした手を振り払う。主砲発射と言えばこの動作だろ?
そんな俺の感慨など知らないネイは、左のハサミを小さく開き壁に向け、俺の指示の直後に開口部から黒い光線を放つ。光線は一瞬壁に押し止められるもすぐに貫通し、それほど大きくない穴を開ける。発射の衝撃は思った程大きくない、少々体が後ろに引っ張られた位か。中々に優秀な武器じゃないか。
と言っても、壁に開いた穴はシェルハウスた通れそうなものではない。せいぜい閉じたハサミが入る位だが、問題は無い。向こう側さえ見えれば、ネイにとっては壁は無くなったも同然なのだから。
「ネイ、壁の向こう側に転移! 転移後、そのままレトに向かって前進だ!」
3度目の転移の指示。ネイは直ぐに反応し、正面に空間が歪む。そして、躊躇する素振りも見せずに歪みに突撃、抜けた先に壁は無く、レトの街の外壁に向かう道がしっかりと見えている。転移成功だな。ネイは指示通り、道を駆け出し始める。
「よっし、成功だ! ミーム、騎士達に動きは?」
『……まだ無い。あっ、今風の魔力が上がった、何かの合図……かな?』
「……だろうな。恐らくは増援の要請だとかその辺だろう、しばらくそのまま見ていてくれ」
『了解』
「アンク、魔力残量は?」
『ブラスター発射直後に32%になって、今は3%しか残ってません!』
「マジか!? 消耗率半端ないな、仕方ない。予備魔力槽開放を許可、ユキムラ、悪いけど一層のマジックバルブの操作を頼む」
『分かりました』
【予備魔力槽】、ゴーレムの魔力が戦闘等の行為で急速に減ってしまった時用の予備魔力だ。貯蔵量はゴーレムの最大魔力の半分。ネイの【魔力吸収】で走行時の魔力消費は相殺出来るから、転移、もしくはブラスター一発分回復したと思えば、まだ無茶が出来る。出来れば勘弁願いたいが、難しいだろうなぁ。
もしかしたら、あの騎士達が攻撃してきた理由が分かれば戦闘を回避出来るかもしれない。って事で、
「リアンノ、マリーダ。聞けた情報の説明を頼む」
『はいはーい! 【スピリット・ナイト】って言う共和国の魔導兵器だって』
「魔導兵器?」
『大昔の遺跡から発見された、対大型魔物用の人型決戦兵器なんですって。元々の名前はメガ・ナイト』
『でも、そのままじゃ使えなかったらしくって、精霊や妖精の力を借りる事で使えるように改良したそうだよ。それと、色で使う属性の判別も出来るって』
色で属性の判別? と言う事は、ハンマー叩き付けようとしたあの騎士は土属性か。なるほど、だから地面から壁の召喚なんて事をやってきたのか。そして、俺の記憶が正しければ、精霊や妖精と契約出来るのは亜人種のみ。つまり、
「亜人専用の巨大兵器って訳だ。それで? なんだってそんなのが問答無用でこっちを襲ってくるんだ?」
『それがさっぱり』
『スピリット・ナイトが居る理由としては、以前の襲撃で防衛力が減ったレトの街の救援に来てるとからじゃないかっ、て言ってるんだけど。襲って来た理由は検討もつかないって』
「そうか。ありがとう2人共、そのままキリムさん達の護衛を頼む。おそらく、あともう一悶着あるだろうからな」
『『了解』』
『ジンさん、バルブ開放しました』
『魔力槽からの魔力供給、始まってます。現在8%まで回復!』
リアンノとマリーダの返答直後にユキムラとアンクから魔力槽の開放と魔力残量回復の報告が来た。既に5%回復している、ってことは、リアンノ達と話している最中には作業を終え、話が終わるまで待っていたとみえる。待たせてしまったなら悪かったな。とりあえず、今俺達に出来る事はこれくらいか。
「了解、ユキムラはリビングに戻って何が起きてもいいように待機。アンクはそのままゴーレムの状態確認を頼む」
『『了解』です』
さて、これで今出来る事は大体やった、あとはレトに全速力で進むだけ。出来ればさっきの合図らしきものが、予想した事じゃない事を願いたいけど、無理だろうなぁ。だが、理由はどうあれ交戦してしまった以上、俺達には進む事しか出来ない。ならば、全力で進むだけだ。絶対レトに辿り着いてやるぞ。