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Create・World・Online  作者: 迅風雷
第4章 アイン防衛戦
176/193

35『天使の梯子』

 巨大な木々が立ち並ぶ森の中を俺は走る、既に【小鱗分】の効果が切れ空を飛ぶことは出来ないからだ。幸い【チェンジ・ステータス】で上がった素早さのおかげで結構な速さで動けている。まあ、空を飛んでいた時に比べたら大分と落ちているが、この調子ならもう間もなくで合流可能だろう。と言っても、


「そうは問屋が卸さない、か」

「やあ、待っていたよ使い魔君」


 正面にある地面から一部が出ている根の影からセネルが現れた。待っていた、奴はそう言った。それは俺がここを通るのを知っていた、と言うこと。どうして分かったのか? いやそれを考えるのは後だ。今はここをやりすごして──ん? セネルの格好が変わって、と言うか最後に会った時に戻っている。ソウルを解除したのか? 何故? あっ、時間切れか。


「ああ、気付いたかい? 君が僕の舞台を破壊したせいだよ。流石は『魔術師殺し』と呼ばれる獣に連なる者。やってくれるよ、本当に」


 残念、外れか。しかしいい情報だ。あの魔法を壊すとソウルを解除できるのか、他のソウルにもあるかもしれない。覚えておこう。


「だけど、僕もこのまま君を通す訳にはいかなくてね。悪いけど、ここで倒させてもらうよ。『炎よ暴風よ 今こそ──」


 セネルが呪文を唱え出した。どうやら詠唱をカット出来るのはソウルを発動している間だけらしい、だったらわざわざ待ってやる必要は無し。セネルが異様に長い詠唱をしている間にさっさと行かせて貰おう。

 俺はセネルに向かって走る。セネルは表情を変えない、その理由は──


「お前だよな、アギネス」


 距離が十分に離れていると言えない状況で反応しない。それは自分を守る存在がいるから、それ以外に考えられない。実際、視線を頭上に向ければアギネスがこちらに向かって来ている。だけど悪いなアギネス。もうゲージが1割無いんだ、お前の相手もしている余裕はない。俺はセネルに向かうルートを逸れ側にある木を駆け上がり跳ぶ。

 当然と言っていいか、アギネスは進路を変えてこちらに向かってくる。意地でも俺に攻撃してくるつもりのようだ。だが、残念だったな。


「羽落雷!!」


 小鱗分の効果は消えてもチャージは消えてないんだよ。アギネスは雷に撃たれると俺とすれ違う形で落ちていった。アイツまた痺れたのか、運が無いな。俺はそのままセネルを飛び越え着地、そのまま走り出す。


「──その(アギト)を開き 我が敵を噛み砕け フレイム・トルネード・ドラゴンファング』!!」


 直後、詠唱を終えたセネルが振り向きこちらに魔法を撃ってきた。いや、これは撃ってきたと言うよりは召喚した、と言った方が正解か? 振り向いた俺が見たのは、竜の頭を付けた炎の竜巻がこちらを見下ろしている。あれ、魔法だよな? 生き物ではないよな? 多分。


『グウォォォォォォォォォォォ!!』


 竜が空に向かって吠える。あれが魔法の自信が無くなった、間違いなく意思があるだろあれ!? とりあえずダッシュだ! リィスと合流出来ればどうにかなる筈だ。俺は正面に向き直り全力で走る。すると、後ろから轟音と熱が迫ってくる気配を感じた。後ろを確認したい衝動にかられるが、速度が落ちるとそこで終わる気がしてとりあえず横に逸れる。

 しかし、気配は消えない。むしろより速く近付いて来ている気がする。俺は目の前の木に跳び移り、すぐに横に跳ぶ。


『ギャウゥゥ……』


 着地する寸前に背後から巨大な音と唸る様な、いや、本当に唸っている。振り返ると竜が痛そうに頭を振っている。まるで、痛みを誤魔化そうとしているかの様に。痛覚まであるのか、やっぱりあれ召喚獣の類いなのか?


「無駄だよ! それは僕が指定した対象を噛み砕くまで消えない! 諦めなよ!」

「誰が諦めるか!」


 むしろこれはチャンスだ! 痛みで動きが止まるなら同じ事を繰り返せば逃げ切れ──


『ガアァァァァァァァァァ!!』


 竜が突然自分がぶつかった巨木に向かって火を吐き出し、あっという間に炭に変えてしまった。炭となった部分は巨木の重さに耐えきれず崩壊し倒れるが、他の巨木が邪魔して傾くに留まる。うん、こりゃ無理かもしれない。いや、まだだ! 今しがた諦めないって俺自身が言ったところだろうが!!

 俺はまた走り出す、当然竜が追ってくる。俺はもう一度足止めするために、別の木で同じことを行おうと跳び移る。


『ガアァァァァァァァァァ!』

「マジか!?」


 俺が跳んだ直後、竜がまた炎を吐いた。あれに直撃したらきっと──急げ!! 俺は巨木を踏んですぐに逃げる事を考えて跳び上がり、失敗を悟った。しまった! 跳び上がり過ぎた! 横に跳んですぐに着地、そのまま走るつもりだったのに上に跳んでしまっていたのだ。体感時間がえらく長く感じる。ふと、下を見ると炎を吐くのを止めた竜がその巨大な口を開きこちらに向かってきていた。

 流石にこれは終わった。そう思った瞬間、突然何かに背中を押された、と思ったら今度は勢いよく地面が遠くなる。この感覚、覚えがあるぞ。上を見上げると枝と葉の隙間から紫の目玉の様な物が見えた。間違いない。


「来てくれたのかリィス!」

「ギュアァ!」

『グウォォォォォォォ!!』


 リィスの返事と思われる声と同時に下から響いた声に下に振り向くと、竜は引っ張られる前とそう変わらない距離を追いかけて来ていた。今の俺はさしずめ釣り針の餌のような状態か。その状態もリィスが俺を側まで引き寄せるまでだ。リィスは僅かな時間で俺を釣り上げ、俺を背中に落とした。竜は俺を追ってリィスに迫るが、その姿はリィスに近付くにつれ細くなっていき消滅した。今の内だな。


「リィス! 俺を中に入れて、うおっ!?」


 俺が四つん這いでリィスに言い切る前に、突然手足にあった感触が消えた。と思ったら今度は体に衝撃が走りゲージが尽きた。同時に体を覆っていた鎧が光に変わり見慣れた、と言うほど使っていないクラブアームの凹凸が見えた。


「いてて、まさか自爆でソウルが切れるとは。まあいい、ここに居ればもう怖くないしな」

「シュル~!」

「おう、リィス。ただいま」


 俺が立ち上がるとリィスが現れ俺の右腕に止まる、どうやらここがお気に入りの様だ。さて、リィスが魔法関係を受け付けないと言ってもここに長居は出来ない。セネルが居る以上、アギネスとその部下達もいずれ動ける様になるし、セネルの増援、つまりランディ達もそのうちここにきてしまう。その前に逃げないとな。

 しかし、逃げるとしても何処に逃げるか? このまま【巨虫の森】を抜けるか? いや、その先は王都。国の一番偉い奴が住む場所だ。リィス達大罪の魔獣に通じる武器や魔法を所持している可能性が高い。却下だ。

 ならば西に向かうか? ランディ達に遭遇する可能性があるからこれも却下。南、見晴らしの良い草原だとか言ってたよな。じゃこっちも却下。残っているのは北、確か山脈だったか? だったらリィスもラース・ザウラーも隠れる場所があるかもしれん。決まりだな。


「リィス、ラース・ザウラーを連れて北に向かってくれ」

「シュル」

「……言っといてなんだけど、持っていけるか? あの巨体」

「シュルル~」


 なんだろう。さっきまでのギリギリの戦いの後だとリィスが何を言ってもえらく緩い感じがする。まあ、本人が出来る的な返事が返ってきたので任せることにする。

 この中で俺が出来る事はない。よってリィスが写してくれた外の状映像を見ながら所持品の確認なんかをしている。う~ん。もう普段使いしてた防具は駄目だな。【羽落雷】か【紫電】か、はたまた【小鱗分】せいかは分からないが耐久値が無くなっている。だけど【】によるとまだ修復可能、と。ふむ、もしかしたら認識出来ないだけで防具にも魔力が設定されているのかもしれないな。おっ、リィスが倒れたラース・ザウラーを見つけたぞ。どうやら未だ感電が抜けていない様子、それをリィスが6本の足で掴んだらしく、映像下部にラース・ザウラーの黒の肌と赤のひびが見えている。本当に問題ないらしい

 よし、これで後は逃げるだけ──ん? あれはなんだ?


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「隊長ご無事ですか!?」


 ジンがリィスと共にラース・ザウラーを回収した頃、セネルの手によって感電から復帰したアギネスの元に南の草原に向かった筈の部隊がアギネス達と合流していた。


「ああ、ようやく体が動く様になった所だ。それで? 何故お前達がここに?」

「草原に撤退した我々は怪我人の治療にあたりました。幸いすぐに皆感電から回復、現場に復帰しようと思いましたが、また同じ事が起きた時の為に安全そうな場所で状況を見ておりました。その内部隊の一つが嫉妬を攻撃し出し、その最中に何かが嫉妬の背後から出現。部隊を音の無い雷の魔法で攻撃、この攻撃で次々部隊の者が墜落。その後、魔法を撃った者が居なくなったのを見計らい部隊の者達の回収を秘密裏に行っておりました」

「そうか。皆は無事か?」

「はい。幸い、と言って良いかは分かりませんが墜落時に受けたと思われる傷以外に外傷はありません。どうやら我々同様感電しただけの様です」

「ならば、動けるのだな」

「隊長が連れていった者達はまだ無理ですが、それ以外なら」

「では封印装置は? あちらはどうなった?」

「副隊長の話では問題無し、との事です」

「よし、部隊を再編成し嫉妬を封印装置に誘導するバリエラに伝えろ、何故か奴は憤怒と言う荷物を持ち機動力が落ちている。今ならまだなんとか出来る筈だ。行け」

「ハッ!」


 ならばまだチャンスはある。そう思ったアギネスは部隊に新たな指示を出した。しかし、


「いえ、急ぎ撤退してください」


 セネルはそう告げアギネスの前に立った。


「何故だ? お前としてもあれを捕まえるのは当然の考えの筈だ」

「状況が変わりました。空を見てください」

「空? ──なっ!? あれは!」


 アギネスが青々と繁る枝葉の隙間から空を見ると、ラース・ザウラーとエンヴィー・モスの影響で赤と紫の稲光が走っていた黒い雲に切れ目が出来、そこから光の筋がカーテンの様に伸びていた。


「【天使の梯子(エンジェル・フォール)】神の子飼、エンジェル達を大地に降臨させる為の穴が開いてしまいました。あれを相手にするにはソウルの無い僕には少々荷が重い。貴方もそうでしょう?」

「そ、それは──クソッ、作戦中止! 今すぐ撤退しろ! 封印装置だけは回収しろ、急げ!」

「ハッ!」


 合流した部隊は早足でその場を離れた。アギネスはその姿を見送り呟く。


「おのれ、後少しと言う所で」

「仕方ないですよ。エンジェルの出現は神の気まぐれ、予想すら出来ないのですから。では、僕も失礼します。言ってる間にランディ達が来てしまいますからね。貴方も急いでください」

「分かっている。ではな」


 アギネスはそう言ってその場を後にした。そして、


「さーて、一体なんと言ってランディ達を説得しましょうかね? ま、無難にやりますか」


 セネルもそう呟いた後、アインの方角へと走り出した。その頃には空を覆っていた黒い雲も赤と紫の雷も消え去り、空は青く晴れ渡っていた。

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