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Create・World・Online  作者: 迅風雷
第4章 アイン防衛戦
172/193

31『撤退』

今回は視点を変えてお送りします

 時は少し戻りジンがエンヴィー・モスに拐われた直後、突然現れたエンヴィー・モスに対してラース・ザウラーは攻撃を繰り返し、エンヴィー・モスがそれを真っ向から受け続けると言う状況が出来ていた。その攻撃の余波を受けボロボロになりながらも、シェルハウスクラブを操作するネイはその場を離れようとしていた。

 何故か? ジンの使い魔セツナの指示である。彼女は異人(プレイヤー)である主ジンが、身近な者への“死”に対して異常なレベルの感情値を爆発させる事を知っていた為、生きているか分からない主よりも今生きている従魔達とノルンの命を優先したのである。


「おい! アイツやられちまったぞ!」

「ばっか!? 今は居なくなった奴より俺達の事を気にしろよ!」

「そ、そうだよ! どうせ奴は異人、すぐにでも町に現れるさ」

「待ってくれ! このゴーレムってアイツの従魔なんだろ? 最悪、ここで放り出されるって事もあるんじゃ?

 」

「それヤバいだろ!? さっさとここから逃げようぜ!!」


 しかし、そんなセツナの思いを知らずに冒険者の一部がジンが倒されたと勘違いして騒ぎ出す。ノルン達の認識だと従魔は主を失うと野生に戻るとされている。しかも、主の従魔への接し方次第でノルンを積極的に襲い始めるものがいる為、従魔を残して主が死んだ場合すぐにその場を離れるか、従魔だった魔物を討伐するのが常識だ。もし、彼等の周りにグレイス達が居れば、脱出ではなく従魔の始末に走る可能性すらあっただろう。

 幸い、グレイスを始めとしたジンの従魔達はラース・ザウラーの備えとして使い魔セツナと新たな下層に開いた穴の側に騎士団と共に居たため、冒険者達はその考えに至らなかった。そもそも、異人がテイムした魔物はアカウントを削除しない限り野生には戻らないのでそんな心配はいらないのだが、NPCの彼等にはそんな事知るよしもないので仕方ない事だろう。

 それでも、シェルハウスクラブが走り続ける様子と騎士団の騒ぐ声が聞こえない事から従魔の凶暴化の可能性は低いと判断し静観に徹していた者や、混乱を大きくしない為に口を結んでいる者もいたが、どちらも少数派。結果、冒険者の意見は逃げに傾き始めていた。そこに、


「落ち着かんかバカ者ども!」


 冒険者の騒ぎを聞き付けた現場指揮官エオリオが声を上げ周囲が静まりかえった。これは大声に強い感情を乗せる事で聞いた人間の注目を集めるスキル【大喝】の効果である。効果範囲は声が聞こえる範囲、声に乗せる感情により効果が変動する。今回は『怒り』の感情を乗せた事により、声を聞いた者は一時的に『冷静』になる効果が発揮され冒険者達の動きを止める事に成功したのである。更にエオリオは下層から上がって来ていたセツナを指差し続ける。


「彼女を見よ! 彼女は先程巨虫(むし)に倒された冒険者ジンの使い魔である」

「……フン」


 騒ぎに気付きやって来たセツナは、状況は分からないが何故か注目されている事を察すると咄嗟に胸を張った。残念な事に、未だ幼児体型から抜け出せていないセツナが胸を張った所で、別段何も起こったりはしないが。しかし、今回の場合は少々違う。


「お主らも知っておろう、使い魔は契約主を失うと空気中の魔力に解け消滅する、場合によっては消えきれず意思を持たないまつろわぬ者となってしまう事もある。

 だが彼女は違う、自身の意思を持ちしっかりと動いている。これこそ冒険者ジンとの契約が健在の証、ならば従魔も同様であろう。我々が今成すべき事は生きてこの状況を【アイン】に伝える事である。

 幸い、大罪魔獣は突如現れた巨虫に興味が移った様子、今ならば比較的安全に帰還出来る筈だ。冒険者の諸君は有事の際に備えて待機してもらっているが、今暫くそれを続けて欲しい。よろしいか?」

「……ああ、分かった。みんなもそれで良いな?」


 エオリオの指示に冒険者の一人が答え他の者に促す。先程まで騒いでいた冒険者達はその言葉にそれぞれ頷き騒ぎは収まった。それを確認したエオリオは、


「さて、セツナ嬢。現在もこのデカブツは君達の管理下にあるのは間違いないな?」

「もちろんです」


 セツナに歩みより確認を取る。続いて、


「では、これから指定する場所に向かって頂きたい。おい、地図を。それとも机と椅子も出せ」

「ハッ!」


 エオリオの側に控えていた騎士の一人が何処からともなく机と椅子を取り出し、少しでもバランスの取れる場所に配置しその上に大きな地図を広げた。エオリオはセツナを椅子に座るよう促し、セツナはそれに答え椅子に座った。


「これはこの森の地図だ。セツナ嬢から見て一番右側の囲いが【王都ガラティン】、左側の奥の囲いが【アイン】になる。そして我々が居るのが地図右寄りにある【巨虫の森】やや南、現在南方面に向かって進行中。ここまではよろしいか?」

「うん」


 エオリオはほぼ緑一色の地図の一部を指差しながらセツナに説明していき、セツナはそれに返事した。エオリオはそれがただ返事をしたのでなく、理解した上での返事だと本題に入る。


「では本題だ。先程まではラース・ザウラーに追われていた為南に逃げるようジン殿を説得したが、奴がこちらを追ってこないと言うなら話は別。我等は1度アインに帰還し、大罪魔獣の事を報告しようと思う。だが、その前に討伐部隊の回収を行いたい。そこでこちら、この赤い丸の範囲の場所に向かって頂きたい」

「広いですね」


 セツナが見下ろす地図に描かれた赤い丸は地図の約2割を囲んでいた。この地図の縮図がどうなっているのか見ただけでの判断は難しいが、相当な範囲を囲んでいるのは間違いない。


「うむ、この辺りは特にゴブリンの数が多く奥まで入り込めなかった地域。故に我々はこの一帯の何処かにキング、及びクイーンがいると予想したのだが何分広い。当初の作戦通りなら徒歩でゴブリンの群れを強行突破しながらの探索の予定だったが、この…シェルハウスクラブ、だったか? まあ、コイツのおかげで移動の手間を減らし、更に予定の倍の人員を用意することが出来た。もしかしたら既に討伐が終わり我々との合流を目指しているか、伝言に出した者と共に村に戻っている可能性もあるが、近くを通ればこちらに気付く可能性は十二分にあると私は考える」

「大きいですからね」

「うむ。それ故目立つ。何より、森の中で見かける類いの物でもない分一際な。これほど分かりやすい目印も無いだろう」

「分かりました。これよりシェルハウスクラブをこちらの方向に走らせ討伐隊に私達の存在を知らせ合流、その後、村の皆も回収して【アイン】に帰還。これでいいのですか?」

「十分だ。そしてすまない、君の主を見捨てるような指示になってしまって」


 そう言ってエオリオは頭を下げる。そんなエオリオの様子を見てセツナは首を横に振り答えた。


「大丈夫です、きっと主様も気にしません」


 実際、ラース・ザウラーの追撃が無かったらノルンの命を優先し、ジンも【アイン】の帰還を選択しただろう。その場合、エンヴィー・モスがアインに近い場所、もしくは【アイン】そのものにジンを狙って強襲、更にその原因を作ったネリネに攻撃を行い【アイン】はジンがテイムするまでの間に更なる被害に会う事になっただろうが。


「ネイちゃん、話は聞いていましたね? お願いします」


 セツナが上を見ながら呟くと直後にシェルハウスクラブが転進、討伐隊が居るであろう場所へと進み始めた。しかし、


「南の空から接近物あり! 魔族と思われます!!」

「なんだと!?」


 魔族。騎士の一人が発したこの言葉に真っ先に反応したエオリオは、急いで壊れた殻型の岩壁から空を見上げる。そこには空を駆ける黒衣の集団が巨大な何かをいくつも運ぶ姿があった。


「奴等、撤退したのではなかったのか!?」

「隊長、どうします? 迎撃しますか?」

「……いや、今の我々は対ゴブリンを想定した装備、魔族とはまともにやりあうのは難しい。だが、奴等の目的は分かっているのだ。合流した後に策を練る。セツナ嬢、申し訳ないが急いで貰えるだろうか?」

「……かなり揺れるけど、大丈夫?」

「構わん、やってくれ」

「ネイちゃん」

『うおぉぉぉ!?』


 セツナがネイの名を呼んだ直後、シェルハウスクラブは不規則に激しく揺れ、穴から覗く景色は駆け足で通り過ぎ始めた。そんな中、セツナは空へ飛び上がり動きを止めたエンヴィー・モスを見つめる。

 セツナは気付いていた、ジンが倒されていない事に。使い魔には契約主の現在地を察する能力がある。この能力はスキルではないためステータスには反映されないが、使い魔の事を調べれば簡単に知る事が出来る為ノルンの中では常識の範疇だ。

 その力はジンがエンヴィー・モスの中にいる事を示し続けていた。しかし、中で何が起きているのかを知る程の力をこの能力は持ち合わせていない。故に、


「主様、どうかご無事で」


 セツナには祈る事しか出来なかった。

予定では多くてもあと7話以内にエピローグまでいける予定

ただ、予定は未定であり決定ではないので変更される可能性があります。

だから”だいたいそれくらい“程度に思っていてください

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