30『再び戦場へ』
最終調整している最中に寝落ちし遅刻しました
『魔王クエスト【エンヴィー・モス・アストラルを従えよ】をクリアしました』
『勝利条件2達成報酬:ソウル【エンヴィー】を取得しました』
『クエストクリア報酬:称号【魔王の候補者】を取得しました』
『称号【????の?】が【大罪魔獣の主】に変化しました』
おぅ、ノルンにバレたら面倒そうな表記があるじゃないか。どうしたもんかね、これは? ともかく内容の確認だな。まずは称号からいくか。
【魔王の候補者】
『ユニークジョブ【魔王】に就く為の条件の一部を達成した証』
一部、か。大罪魔獣を従える事が条件の1つだとして他は何があるのだろうか? 別に魔王になりたい訳じゃないけど、内容は把握しておきたいな。何処かにヒントは無いだろうか? ……少なくともこの称号にはそれを確認する機能は無い様だ。次。
【大罪魔獣の主】
『大罪魔獣を1体以上従えた証』
効果:大罪を持つ者へのテイム成功率上昇(小)
大罪を持つ者の能力上昇(小)
こっちの称号は島のイベント後半で手に入れた文字が隠されていた称号の片方だな。まるで俺が魔獣をテイムする事を事前に知っていた様なタイミング、偶然か? いや、考えても分からない事は後回しだ。もう1つの方は──変わらず読めないか。んじゃ最後に、
ソウル【エンヴィー】
『エンヴィー・モスの能力を使用できる鎧』
見た目は蛾を人型にした感じの鎧。エンヴィー・モス同様に黒に紫色の根が絡みついた様なデザイン、ディスプレイの感じだと紫色部分は発光しているみたいだ。脛当と籠手、それと首辺りが毛の様な物で覆われている。マントの様に畳まれた羽の模様はよく見かける目に見えるもの、広げた状態の姿も見ることが出来たので確認すると鎧の3倍程でかい。あと色が緑と紫の組み合わせのせいかえらく毒々しい。
それと脇の下辺りに腕がもう1本ずつあるのだが、操作はどうするのだろうか? それにこの能力とスキル、破格過ぎる。一個人が持っていて良いもんじゃないな。見た目と能力から連想したのは、虫をモチーフにした某特撮ヒーロー、の敵役。もう少し何とかならなかったのか? ……魔王と言えば悪い奴の代表みたいなもんだし今更な話か。アギネス達が魔獣を集めていることを考えると、本来は魔族が装備する事を想定していたものかもしれないな。
さて、次は……目の前のこれだな。結晶に触れると色々と項目が出てくるが──大半はリィス専用だろうな。俺には読めない項目ばっかりだし、タップしても画面が変わらん。俺が使えそうなのは、唯一読める【視界投影】だけっぽいな。タップすると真っ白だった壁に、黒い雲とその間を走る赤と紫の稲妻と森の風景が見えた。どうやら外側のエンヴィー・モスが見ているものをここから見ることが出来るようだ。シェルハウスクラブは無事か? そう思い画面を注視する。ん? あの菱形は……ゲッ!?
「ラース・ザウラー、また封印されてんじゃん!? アギネス達は撤退したんじゃないのか!?」
アギネス達の姿を見つけようと画面を隅々まで見渡すが魔族の姿は確認出来ない。ああもう!
「リィス、角と羽が生えた集団を探したいんだが、この画面を動かせないか?」
「シュッ」
リィスに尋ねると返事と同時に映る場所が動く。リィスは完全にエンヴィー・モスの体をコントロール出来る様だ。それで奴等は何処だ? 封印装置がある以上必ずいる筈だ。それにここには『憤怒』だけじゃなく『嫉妬』もいる、奴等の目的が大罪であるならリィスを狙って来るのは間違いない。だから遠くには行っていない筈、ん? 今何かの影が画面の端に、もしや?
「リィス! 上だ!」
画面は動かず見てる場所が変わる。えっ? 今頭動かしたか? 本当に一瞬で切り替わったぞ。いや、今そんな事はいい。それより頭上に陣取ってる奴等だ。どうやら空の上まで捕縛装置は持ってこれなかったようで、モスに向かって魔法を撃ち込んでいるようだ。さっきの俺の様に落とそうと言う算段か?
ふっ、エンヴィー・モス・アストラルの時点で魔力系攻撃はほぼ無効だぞ? その鎧の様なものであるエンヴィー・モスにそんなもの通用するわけないじゃないか。本気で落としたいなら物理で戦えよ、自称魔力に愛されし一族の末裔。あっ、もしかしたら雷撃対策か? 思い返してみるとモスの雷撃は下ばかり攻撃して上には向かわなかったしな。俺の居た場所のせいかもしれないから確定とは言えないけど。ん? あれは……見つけた!
「リィス、ここから出るにはどうしたらいい?」
「シュッ!」
リィスが一鳴きすると目の前に光の柱が現れた。転移門、みたいなものかな?
「ここに入ればいいのか?」
「シュ」
「分かった」
俺が柱に入るとリィスが腕から離れ結晶に止まった。どうしたんだ? と思ったが、すぐにその意味を理解した。リィスはエンヴィー・モスのコア、外に出るとは自ら弱点を晒すも同然。リィスが外に出る時が来るとしたらそれは戦闘が終わった後、いや、もしかしたら外に出れない可能性もある。けど、リィスからはそれを悲観するような感じはしない。
「シュッ!」
むしろ、早く行けと急かされた気がする。なら、それに応えるのが主の役目か。だけど、その前に、
「エンヴィーに話しかけてもリィスに届かないかもしれないから先に言っておく。あそこに見える菱形の結界、その中に俺が仲間に出来なかった奴がいる。リィスみたいに上手くいくかは分からないけど、俺はもう一度アイツのテイムに挑戦したい。だから、あの目障りな結界をぶっ壊してくれ」
「シュウ! シュッシュウ!」
「任せたぞ」
俺はリィスにそう頼み柱に飛び込む。柱に入ると俺は既に外にいた、周囲の景色を見渡しここがエンヴィー・モスの上だと断定した。つまり、魔族は頭上だ。それじゃ早速使ってみるか。一応能力は確認しているが、使い心地はどんなもんかね? 行くぞ!
『ソウルアップ! エンヴィー!!』
ソウルを発動すると黒い靄が全身を覆い、それが無くなると既に鎧を身に付けていた。ふむ、見た目はディスプレイとほぼ同じ。違うのは発光していると思っていた部分が心音に合わせて点滅してる位かな?
続いて軽く体を動かしてみる。特に動かしづらいと言う事はない、むしろ動きやすくてビックリするレベルだ。さて、問題なのはここから、つまりこの増えた腕と羽だ。感想としては不思議な感覚と言った所か? 違和感はあるんだ、なんせ体から腕と羽が生えていると感じるからな。ただ、邪魔と言う感じはしない。動かそうとするとその通りに動く、まあ、若干誤差はあるがこの程度なら問題は無いだろう。実際使ってみるまで分からない、と言うのが正直な所だけど、なるようになるだろう。多分。
少々時間をくったな。リィスもラース・ザウラーに向けて動き出したし、そろそろ攻撃を始めるか。え~と、空へ飛び立つ方法は……後ろに跳ぶと同時に羽を激しく動かすといいらしい。
「せーのっ! おう!?」
危な!? 少し羽を動かすのが遅かったのか、はたまた跳んだ角度が悪かったのか、背中から引っ張られる様に体がくの字に曲がり、後少しで自分の膝で胸を打つ所だった。増えた腕がギリギリで反応して止めてくれたから驚くだけで済んだが、次からは注意しないと。飛ぶときは体をピンと伸ばした方がいいかもしれないな。それじゃあ、今度こそ行くぞ!




