24『脱出成功』
アギネス達が飛び去ってすぐ、俺は貰ったカギを使い腕輪を外す。これでスキルが使える様になった筈だが、とりあえずみんなに取り付けられた服従石を取り外す。しかし、みんなは目覚めない。まさかログアウトしてしまったのだろうか? もしかしたら戻る前に何かすることがあるのかもしれない。とりあえずエピタス用の台車に2人乗っけて1人は俺が背負う。後は──おっ? グレイスが分身を3体と眷族のウルフを呼び出してくれた、グレイスを含めてこれで5人ーいけるな。あれ? 眷族のウルフが少し大きい? スキルが使える様になったかの確認の為にも調べてみるか。【判別】!
【バトルウルフ】rank:E
『体格がウルフよりも大きく爪と牙が長いのが特徴のウルフ種
その名の通り戦闘が得意で、弱者を追うより強者に挑む傾向がある
その為か、野生よりも何者かの部下になって戦っている姿の方が目撃例が多い』
よしよし、確かにスキルが使えるようになっているな。グレイスの眷族は攻撃的な進化をしていたようだな、タイミングとしては有難いな、特に体が大きくなっているのはこの状況では大助かりだ。あとの運べない人はグレイスの影の中に入れていこう、今のグレイスでも背負った1人も含めてギリギリ運べるだろう。
幸いラース・ザウラーは俺達よりも空を飛ぶアギネス達を狙っている、彼等を囮にしてここから離れるとしよう。SPが無くならない様に注意しながら台車を押して走る事しばらく、俺は森の中を駆けた。そんななか、
「う、う~ん? ここは、って重!?」
「あっ、起きた」
台車に放り込んだリアンノが目を覚ました。ふむ、最初に目覚めるのはクチバさんのパーティの誰かかと思っていたのだが、既にログアウトした後かな? とりあえず起きたからには自力で走ってもらおう。俺は1度止まり走ってきた道を振り返る。空へと昇る黒い煙は無くなっている、代わりに黒い雲が空を覆い血の様な赤い雷が轟いている。既にラース・ザウラーの場所は分からない。いや、空に黒い光線が伸びた、あの光線の根本元に奴はいる。攻撃してるって事は、未だアギネス達も逃げ切れてはいない様だな。
「後ろ見てないで早く降ろしてよ!?」
「おっと、すまん」
俺はリアンノのを台車から下ろす為に上に乗せたミームを退かそうとすると、強烈な痛みと共に両手を弾かれた。
「痛っ!? なんだ? 乗せる時は何もなかったのに、うん? ハラスメントコード?」
さっきは発動しなかった物がどうして今頃……あっ、もしかして、
「ミーム、君、起きてるな?」
「うん、起きてる」
「いつから?」
「臭いのキツイ場所を過ぎた直後くらい?」
結構初めだな、おい。
「何故言わなかった?」
「聞かれなかったから」
起きてるか分からない相手に聞くわけないだろうに。
「起きてるなら退いてよミーム!?」
「無理」
「何で!?」
「はまった?」
「何で疑問系!?」
「ジン、引っ張って」
「だったらハラスメントコード止めろよ」
「体を触ろうとしたら自動発動する、だから手を引っ張って」
「ヘイヘイ、ほらよっ、と」
ミームの手を掴み引っ張り上げるとミームは簡単に台車から降りた。いや、それにしては軽かった、これ自力で降りれたんじゃないだろうか? まぁ、それは本人に聞かないと分からないのでスルー。それよりハラスメントコードだ、多分だが、本人がアバターが操作していない時は相当設定が緩くなっている。そうじゃなきゃ台車に乗せられないしな。
「ほれ、リアンノ」
「もう! 人を荷物扱いしないでよね!」
「悪いな、緊急事態だったんだよ」
「それよ! その緊急事態について説明してよね。掲示板だと突然空が暗くなったとか、何かの叫び声が聞こえたとかしか無くて、よく分からないだよねぇ」
掲示板じゃまだ具体的な内容は分かっていないのか。当然か、この騒動の大元を目撃したのは俺だけだしな。
『~~~!?』
ん? 今何処からか声が──
「ぶはっ!? いきなりなんなんだよこれ!」
グレイスの影からエゼルドが顔を出した。ありゃ影の中で暴れまわった結果、偶然出れたって感じか?
「もう~、騒がしいわねぇ? 何を騒いでるのぅ?」
今度はマリーダさんが起きた、どうやらみんなゲーム内に戻って来た様だ。だったら、
「グレイス。みんなを下ろしていいぞ、影からも出してやれ」
「ウォン!」
地面に転がったみんなもそれほど間を開ける事なく目を覚ました。とりあえずこれで合流かんりょ、う? あれって確か……
「ハンナさん。俺、あなたに会った事ありますよね。敵として」
起き上がる時にハンナさんのフードが外れその顔が見えた、その顔を俺は珍しく覚えていた。この人はあれだ、王都に向かう途中に馬車を襲ってきたPK未遂、あれPKはもうしてたんだっけ? とにかく俺達を襲って返り討ちにした人の1人。それも俺が鞭で叩いた末に首を落とした人だ。なるほど、そりゃ俺を避ける訳だ。しかし、あれだな。セネルさんが信頼出来るメンバーに入ってるって事は、
「あれから、頑張ったんですね」
「!? ……ええ、もちろんよ」
ハンナさんはハッとした様子で顔を上げてそう言った。いやあ、気づかなかったわ。鞭が役に立たないとか豪語してた人が、鞭を装備してテイムまでしてるんだもんな。しかも、フードを被って顔が見えないようにしてるし、きっと後ろめたかったんだろうなぁ。……いや、ここに来るまでの様子を見る限り俺に正体がバレない様にするための方が可能性として高いかも? そんなに怖かったんだな、それはすまない事を──でも、悪いのはあっちだし、俺が謝るのは違うか。とにかく、今は現状を説明する方が先だな。
「皆聞いてくれ、今から俺が見たことを説明する。それからどうするか相談したい、いいだろうか?」
皆が頷くのを見て、俺は俺が得た情報と現在の状況を説明した。
「ふ~む、大罪の名を冠する魔物、いや魔獣か。よくある設定と言えばありていじゃが、面倒なのが出てきたのぉ」
「私達が手も足も出なかった相手が逃げ回る相手って言うのも問題よねぇ? だって今の私達じゃ敵わないって言っている様なものだもの」
「じゃあ、逃げる?」
「はぁ!? 馬鹿言ってんじゃねぇ! 何で逃げなきゃなんねえんだ!! 俺はやるぜ!」
「まあ、死んでも無駄死にはならないから、反対はしないけど」
「結果は分かりきってるよね~」
「だったら、どうするんですか? ここでじっとしててもしょうがないですよ」
「それを話あってるんだろうが。とりあえずまた2班に分かれるか? 片方は【アイン】に向かってもう一方はそのラース・ザウラーに挑む、そんな感じで」
「いや、さっきも言ったけど俺新しい魔物テイムしちゃったから、分けるなら3つだよ」
「だったらお前はそのザコ共と一緒のパーティーで1つでいいだろ! そんな事よりあれを倒す方法だよ! あれを倒せば俺達は一気にトッププレイヤーだ!!」
エゼルドがなにやら興奮してはしゃいでいるが、グレイス達をザコ呼ばわりするのを止めろ。グレイスはナイフの一撃を防いだし、シロツキはスクエールと一緒に剥いた、違った報いている。少なくとも転送された君よりも強い筈だぞ。
と、思ったが口には出さない。わざわざあんな暴言に付き合ってやる余裕はないからな。さて、
「それで結局、どうするよ?」
俺達が選んだ作戦は……