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Create・World・Online  作者: 迅風雷
第4章 アイン防衛戦
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22『騒動の目的』

 アギネスについて辿り着いたのは進化の蛹のすぐそばだった。ちょうど俺達が蛹を見つけた場所から、卵を挟んだ反対方向。どおりで振り向いた後の攻撃が背後に集中していたはずだ。

 アギネス達の拠点は大型のテント、それも全て黒で統一されたものをいくつも張った場所だった。隠密性をあげるためか? それにこの辺りでは見かけない機械の姿もある、一体ここで何をしているんだ?

 しかし、俺達の目には蛹は見えてもこの拠点は見えなかった。テントが黒いとはいえ今はまだ朝、いやもうすぐ昼か。とにかく、こんな明るいなら見えない訳はないと思うのだが、これはテントそのものに何かしらのアビリティが付いていると考えるべきか? う~ん、スキルを封じられた状態だと全く分からないな。腕輪(これ)を外せばいいだけの話ではあるんだが、せめて説明を聞いた後だな。

 アギネスはテントの1つにまっすぐ突き進み中に入っていく、俺も続いて中に入った。


「これは──」

「見覚えがあんだろ? 服従石だよ」


 テントの中には大量の棚とそこに並べられている服従石があった。一体いくつあるんだ? いやそれよりも、


「こんなに用意して奴隷軍団でも作る気だったのか?」

「そいつは面白そうな話だが、残念ながらそりゃ不可能だな。それよりこっちだ」


 アギネスは棚には目もくれずに奥に歩いていった。そして、更に奥に巨大な檻の姿が見えた。檻の中には大量ののナイフと木やら岩がある、そしてその中にはみんなの姿も。


「みんな! 無事か!?」


 俺は檻に駆け寄りみんなに呼び掛けるが返事はない、よく見るとみんなの額に服従石があるのが分かった。あれってプレイヤーにも効果があるのか!?


「おい、みんなはどうなったんだ!?」

「落ち着けって大丈夫だ。あれは人に使ってもまともに動かないんだよ、精々ああやって眠らせておくのが関の山だ。まあ、外すまで起きないって面では、その辺の呪いよりも優秀だがな」

「眠ってるだけ? 本当に?」

「そんな嘘ついて俺になんの得になるってんだよ?」

「……俺が素直に話を聞くようになる?」

「なるほど、そういう手もあったな。俺はしねぇけど。んじゃその辺に適当に座れ、話をしようぜ」


 アギネスはそういうと檻の近くに置いてあった椅子を引き寄せこちらに向き直りながら座る。俺もそれに倣って近くの椅子に座る。グレイスは俺の側に立ち、ウルスは俺の右肩に停まる。そしてアギネスが口を開く。


「さて、ただ説明するのも面白くない、一応敵同士だしな。だから3つだ。お前の質問に3つまで嘘偽り無く、ついでに隠し事も無く答えてやる。何が聞きたい?」


 アギネスは指を3本立て俺にそう告げた、何から何まで説明はしてくれないらしい。まあ、そりゃそうか。さて、3つか。ならばまず、


「俺のおかげってのはどういう事だ? 俺には心当たりが全く無いんだが」

「やっぱそれだよな? なに、話としては簡単な話だ。お前が解放したフォレストラプター共の事だよ。元々あれはゴブリン共の機動力にと用意したもんなんだが、お前が解放してこの目論みはご破算になっちまった。だが、代わりに得たもんがあった。なんだと思う?」

「分かるわけないだろ」


 分かったのは今回のゴブリン騒動はアンタ達が起こしたものだって事くらいだよ。


「ラプターの中に火を吹く奴はいただろ? そう、お前を背に乗せて戦ってた奴だよ。アイツは生まれた群れを追い出されたはぐれ、仲間に頼らず一匹で生き抜いてきた強者だ。さすがにジェネラルには怯えて逃げちまった様だがな。だが、奴は俺達の望む存在になって戻ってきた、何があったかまでは知らんがね。奴は一通り暴れた後は表のあれになった、フフフ、あれを連れ帰った時の老いぼれ達の面が楽しみだぜ」

「待て、あの巨大な蛹がラプターだって言うのか?」

「ああ、その通りだ。だからお前のおかげなんだよ。ありがとう、奴を解放してくれて。縛った俺達じゃこの結果に至らなかっただろうからな。フッフッフッフ、ハッハッハッハッハ!!」


 どうやら、アギネス達の目的はあの巨大な蛹を生み出す事だったようだ。ん? それじゃあ元々はどうやって蛹を生み出すつもりだったん──まさか!


「ゴブリンのどれかがああなる予定だったのか!?」

「正解! 折角だ、本来の行程も話してやろう。俺達の目的はゴブリンを進化させあの巨大な繭、お前が言うところの蛹にするのが最初の目的だった。最終的にはあの繭から出てくる魔獣を捕獲し本国へ連れ帰る事が目的だ。

 ただ、俺達が進化させようとしていたものは特殊でな、大まかな進化条件は分かっているがそこに至れるものは極少数のみの希少個体。老いぼれ共は亜人型の魔物の方がなりやすいと言っていたが、結果はどうだ!?

 やはり、ただ欲望に忠実なだけではダメなんだよ。魂の奥底から求める程の強すぎる思いが! 願いが! 欲望がなければ至れない。そういう奴がかの存在に足り得ると言うことが今回証明された! いや、それはまだ言い過ぎか。まだ生まれてはいないのだから。だが、俺は確信している。あれこそが俺達の求めるものだと!!」


 なんだか突然熱く語りだしたアギネス。これはあれだな、誰かに話したくてたまらなかったってところかな? しかし、ちょっと話が長い。まとめると、


「え~と? つまりお前達は本来ゴブリンをその、希少個体? に進化させようとしていたが、俺が偶然解放したラプターがそれに進化しようとしている、と? ついでにお前達の目的はそれを国に連れ帰る事だと、そういうことか?」

「ざっくり言うとそんなところだ。報告じゃあの繭を確認できたのは俺達の部隊のみ、これを興奮するなと言うのが無理な話だろ?」

「ああ、うん。そうだな」

「だろ? アッハッハッハッハ!!」


 とりあえずは適当に相槌を打っておこう。否定すると面倒そうだ。


「それじゃ質問にも答えたし、ここで大人しくしていろ。事が終われば解放してやるよ、そいつらも含めてな。場合によっちゃ勝手に解放されるだろうがな」

「は? いや待てまだ3つ答えてもらってないぞ!?」

「なに言ってんだ? お前の功績の内容で1つ、繭になったラプターの説明で2つ、俺達の目的で3つ。ほれ、3つだろう?」

「待て! 2つ目の繭については説明の確認だった筈だ」

「俺が質問だと思ったからにはそれは質問だ。残念だったな」


 コイツ、屁理屈を。俺がそう思っているとアギネスは立ち上がり出入口へと向かいながら、


「この中なら好きにしていろ、どうせその状態じゃまともに調べるなんざ出来ないだろうしな。面倒な騒ぎだけは起こすなよ、じゃあな」

「待てアギネス! まだ聞きたい事が、せめてあと1つぅ!?」


 アギネスを止めようと立ち上がり声を上げながら近付こうとしたら、突然体に衝撃が走り視界が横になった。


「あまり調子に乗るなよ? 本来俺達は敵同士、殺し合いになってたっておかしくないんだ。今回はお前のお陰で上手くいったからこそこの待遇なんだ、その辺はきちん認識してくれよ。そうじゃないと──潰したくなるだろ?」


 俺の頭を掴み地面に叩きつけたアギネスの声色が、突然心の底から恐ろしく感じる程に冷たく鋭いものに変わった。『怖い』、このゲームで初めて本当の恐怖を感じた。呼吸が自然と早くなる、視界には心拍数に異常が出てるとかの色々な警告文も見える。だが、ここでへたれる訳にはいかない、こんなところで止まってたまるか!!


「……だったら潰せばいいだろ、アンタにはそれが出来るんだろ?」


 場を沈黙が支配した、聞こえるのはテントの中に入り込んだ風が物を揺らす音と警告文のアラームだけ。すると突然恐怖心が和らいだ。何故だ?


「……ハッ! 良いね、実に良い! 俺の【威圧】を受けてしっかり言葉を出せる、外来種にしておくには勿体ないな」

「そりゃどうも」


 どうやらアギネスは威圧なるものを俺にかけていた様だ。厄介な能力だな、最悪強制ログアウトが発生する所だぞ? 運営め、なんてもの実装してやがる。


「どうしてお前を潰さないか? その理由は簡単だ、お前が外来種だからだ」

「外来種? 異人の事か?」

「ああ、そうだ。俺達は種族に差はあれどみんな同じ理の中に生きている、何か分かるか? この世界で生まれ、この世界で死ぬことだよ。それは劣等種だろうと魔物だろうと俺達だろうと変わらねえ。だがお前達は違う。お前達の精神はこの世界の外から来て、肉体はアバズレ共が仕立て上げしかも成長も早い、更には死んでも生き返る。明らかに俺達とは違う理で生きている。これを外来種以外になんと呼べばいい?」

「……なるほど、それで外来種」


 確かにそういう意味では俺達は外来種だな、この世界の人類NPCとは仕様が色々異なるからな。


「それで? 俺達を殺さない理由は?」

「言ったろ? お前達は死んでも生き返るって、それじゃこっちは困るんだよ。考えてもみろ、裏でこそこそ隠れて用意をしていたのにそれが誰かに見つかった。劣等種共なら口封じに殺せばいい、死体は魔物共が処理してくれるしな。だがお前ら外来種は殺しても復活する、それも短時間でしかも劣等種共の街の中でだ。流石に街中に逃げ込まれたらこっちだって手が出せねぇ、しかも見られた情報はほぼ間違いなく劣等種共に伝わる。これが最悪で無いなら何が最悪だってんだ? 間違いなく厄介な奴等がそれを調べるついでに潰しに来るじゃねえか、やってられねぇだろ?」

「確かにそりゃ面倒だ」


 とりあえず肯定して話を整理する。つまり、殺せないなら隔離してしまえばいいって事だな。あのナイフは俺達プレイヤーを殺さず自分達が管理している場所に転移させる為の武器、そして服従石で動きを封じる。これで情報漏洩の心配はない。俺が着ける様に言われたこの腕輪は、今回の様に意思を持ったまま捕らえる為の物。どれもプレイヤー対策のものってわけだ。ただ疑問なのは服従石を取り付けられたプレイヤーがどういう状態なのかって事だ。確かに今の仕様だと気絶なんかの意識を失う状態異常が発生すると、治るまでアバターは放置で別空間に行くんだったけか? じゃあ今頃みんな掲示板でも覗いてんのかもしれないな。


「さて、本当にこれで話は終わりだ。今度こそ大人しく──」

「隊長ぉー!!」


 アギネスが俺の頭から手を離し、俺を見下ろしながら話しているとドタバタと慌ただしい足音とアギネスを呼ぶ声が響いた。


「なんだ!」

「繭から黒煙が吹き出しました!」

「よし! 全員に手順通り動く様に伝えろ! 急げ!」

「ハッ!!」


 アギネスはやって来た男の報告を聞き、即座に指示を出した。それを聞いた男は即座に踵を返し走っていく。そしてアギネスは俺に振り返り告げる。


「さっきも言ったがテントで大人しくしていろ、すべてが順調に済めば解放してやる。失敗したら──自力でどうにかしろ、じゃあな」


 そう言ってアギネスは出入口に走っていった。テントで大人しくしていろだって? やなこった。だが、今の俺ではアギネスには決して勝てない。しかしこのまま言われるがままにするなんてのもごめんだ。

 要はテントから出なければ良いんだろ? だったら入口からアギネス達が手に入れようとしているラプターの進化した姿だけでもこの目で拝んでやる。

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