07『ファーム防衛戦 終戦』
ガガの元に到着したケインさんは、ガガの体を撫でながら話し出した。
「進化したら外見の変化に伴い傷は治ります、ですが状態異常やLPの割合は変わらないんです。総量は増えますから耐えられる時間は増えますが」
「それじゃガガは進化して幻獣になったが、その体は毒に侵されたまま戦っていた?」
「そういうことです。そして私達は解毒する薬を持っていない。つまり私達には何も出来ない事に変わりは無かった」
「だったら何故止めなかったんですか!? 今のガガの力ならケインさんを乗せて街に薬を探しに行く位だったら問題無かった筈でしょう!?」
「ガガがそれを望みません、例えコマンダーに負けると分かっていても毒で力尽きてもココを助けに向かったでしょう。だから私はガガに命じたのです、“心のままに進め”と。そしてガガはそれを成した。私はガガを誇らしく思っています」
「ケインさん」
俺はケインさんとガガに何を言えばいいか分からず俺は黙ってしまった。何か言わないと。そう思うが言葉に出来ない。そんな時、俺の代わりにココが動いた。ココは立ち上がるとケインさんの側まで近寄り頭を擦り付ける。するとケインさんは何か納得する顔をしてココに指輪を向けた。
「ココ、君も望む姿があるんだね。分かったよ。君も心のままに」
「ブルルッ」
ココもまた結晶に包まれ、新たな姿となって現れる。そこに居たのは幻獣【ユニコーン】。一角獣の名前でも有名な白馬のモンスター。ココは進化を終えるとすぐさま角を光らせ、ガガへと光を向ける。
すると、光を受けたガガの体から濃い紫色煙が現れココの角に吸い込まれた。ココの角は煙と同じ紫色に変わる。そして、ココが鼻を擦り付けるとゆっくりとガガが立ち上がった。これは【治癒魔法】、なのか?
「【献身魔法】『サクリファイス ボディ』、対象者の状態異常や傷を自身に移し替える魔法。ですがユニコーンには状態異常を攻撃に変換するスキル『ピュリティホーン』がある」
「それはつまり、状態異常が効かないって事ですか?」
「いえ、あのスキルは回数制限があるスキルですからいずれは使えなくなります」
完璧に見えるスキルにも欠点はある、と言う事だな。しかし、【献身魔法】とはまた聞き覚えの無い魔法だ。【治癒魔法】系統の魔法だと思うが、シロツキは覚えない気がする。献身ってタイプじゃないもんな、進化した種族を見れば分かる。
「ガガはもう大丈夫なんですか?」
「ええ、傷は進化した時に治っていますし、コマンダーとの戦いでは傷を負っていません。LPも今まさに回復している最中、例え回復しきらなくてもゴブリン程度ならばなんの心配もいりません」
「それじゃあ、もう何も問題ありませんね?」
「そう、ですね。ココも無事ですしガガも少しすれば戦える様になりますし、何よりレイディミッシュが居ますから」
「では、俺達は本来やるべき事を始めますね」
「やるべき事?」
「ファームの防衛とゴブリンの殲滅、それが俺達がここに来た理由。ケインさん達の問題が解決した今、俺達は──」
俺はそう言いながら、レイディミッシュに怖じ気づいて寄って来ないゴブリンを鞭で縛り足元に引き寄せ剣で突き刺す。
「コイツらが街に入らないように戦うだけです! って事で護衛はここまででいいですかね?」
「もちろんです、頑張ってください。それとガガの準備が出来たら私達も戦いますよ、私達のファームなんですから」
「それは心強いです。よし! さぁ、やるぞみんな!! 出し惜しみなしで叩き潰せぇ!!」
「キュッキュウ!!」「ピィィ!!」「クオォォ!!」
「ウォ、ウォン」
みんなの返事から少し遅れてグレイスの声が上がる。しかし、相も変わらず地上に出ているのは首だけだ。
「グレイスは力に馴れるまでそこで練習な」
「ウォン!?」
「よし、突撃だ!!」
俺は魔力剣『エレメンタルソード』を四方に再配置しゴブリンの群れの中に再度突撃した。グレイスを除いた従魔が後に続く。いつも通り鞭を振るいゴブリンの首を断ち、抜けてきたゴブリンは剣で斬り裂く。ついでに従魔達の様子を確認する。中々面白い事になっているな。
進化したシロツキは武器を持った戦い方が主軸になったようだ。いままでも武器を使っていたが、腕の関節に変化があったようで魔力を使わずにナイフを持って縦横無尽に攻撃を振っている。縦にしか武器を振れなかったのを気にしていたのかもしれないな。
ストレインは翼での直接攻撃を止め、上空からの範囲攻撃にシフトしたようだ。大きく翼を羽ばたかせ硬質化した羽をゴブリンに向けて飛ばしている。地味に効くんだよな、あれ。
そしてエピタスは……ボーリングかな? 先程見せた坂道を滑り、突撃する攻撃を何度も繰り返してゴブリンを吹っ飛ばしている。完全に止まった時は甲羅の手足の穴から水を噴射し回転しながら突撃していく、映画にいたなそんな動きする巨大怪獣。あれは火を出して空を飛んでいたがな。
さて、一応グレイスの様子の確認も──ん? なんであんな所にウサギが? あぁ、シロツキの眷族か。いつ召喚されたんだろうか? おっ今度はオオカミが現れた、こっちはグレイスの眷族か。あの状態でも眷族の召喚は出来るようだ。しかし、何故このタイミングで?
あっそうか、シロツキの考えが読めたぞ。俺達にとって一体一体は雀の涙程度の経験値だがグレイス達のレベルが上がる位には数がいる、眷族達のレベル上げと戦闘経験にはいい相手だ。シロツキは本当に戦闘に関して色々やるな、ウサギなのに。
「ガアァァァァァ!!」
「っと!?」
エレメンタルソードに防御を任せて考えていたら、いつの間にかゴブリンコマンダーが目の前に居て拳を振りかぶっていた。慌てて横に跳ぶと、ついさっき俺がいた場所に拳が振り下ろされその場に小さな穴があいた。危ねぇ、後数秒気付くのが遅かったら直撃じゃん。集中集中、ここは戦場だ油断しちゃダメだ。
「……あれ、なんでコマンダーがここに居るんだ?」
冷静になって気付いたが、ゴブリン達の指揮を行っている筈のコマンダーがなんでこんな前まで来てるんだ? 俺がいる場所は戦場のど真ん中、ファーム外壁近くに陣取っていたコマンダーがいる場所じゃ無い筈だが? コマンダーの追撃を警戒しながら周りを見渡すと、ファーム側にいる騎士達や冒険者も別のコマンダーと戦っていた。どうやら数で圧倒できない事が分かって、もっとも戦闘力の高いコマンダー達が出張ってきたようだ。
そういえばさっきの一撃、声を上げなければ俺はダメージを負っていた筈。奇襲するなら声なんて上げないよな、普通。もしかしてコマンダーってそんなに賢くない? いや、コマンダーが一体倒されて焦りだしたのかもしれないな。よし、ここでもう一体倒してみせよう。
「ストレインはゴブリンの攻撃を継続! 他の皆はコマンダーに攻撃を集中しろ!」
コマンダーに集中し過ぎて雑魚が街に侵入されたら意味が無いからな。さて、多分あの時の個体では無いだろうが同じゴブリンコマンダー、逃げるしか出来なかったあの日リベンジ、果たさせてもらうぞ。
「って事で速攻だ! ただのゴブリンなら当てるだけで体を引き裂く事が判明したこの技がコマンダーに何処まで通じるか、試させてもらうぞ!【サークルスラッシュ・ブーメラン】!」
縦に回転させたエレメンタルソードを真っ直ぐコマンダーへと飛ばす。コマンダーは腕を交差させ防御しようとしている、俺はそれに構わずエレメンタルソードを突撃させた。
「グガァァァァァァァ!!」
エレメンタルソードが何度もコマンダーの腕を斬りつけ、それに対しコマンダーは声を上げている。悲鳴と言う感じはしないので気合でも込めているんだろう。俺はソードが消える前に手元へと移動させる。ふむ、赤い傷跡が腕に残っているが頭上に表示されたLPゲージを見る限り大きなダメージと言う訳では無さそうだ。中々頑丈だな、筋肉の分厚さが防御力に反映されているのか?
「ガアァァァァァァ!!」
「おっと」
またも声を上げながら突撃してくるコマンダー、腕をクロスさせてるからクロスタックルと言ったところか? 残念だけどそんな直線的な攻撃当たってたまるか、俺は横に跳んで避けようとした時、
「ガッ!?」
コマンダーが驚くような声を出して転んだ、同時にLPゲージが1割近く削れる。転んだから、と言うよりはアーツが失敗したからダメージが入ったのかな? ってのんきに考えている場合じゃないな、追撃をしないと。
俺は再度【サークルスラッシュ・ブーメラン】を発動させコマンダーを斬りつけようと構えたその時、エピタスが回転しながらコマンダーの片足に突っ込んだ。それを合図にしたかのようにシロツキも反対側の足にナイフを突き立てグリグリと傷口を広げ始めた。まるで示し会わせたかのような動き、もしやコマンダーは転んだのではなく転ばされたのでは無いだろうか? ……有利に立ち回れるなら細かい事は後でいいか、俺はブーメランでコマンダーの背中を斬り付けた。うん?
「ガアァ! ガァ!! ガアァァァァァァァ!?」
コマンダーのLPゲージがジリジリと確実に削れていく。もちろんコマンダーは俺達の攻撃から逃げるため立ち上がろうと手足を踏ん張ろうとしているのだが、地面に手足が沈み立ち上がる事が出来ない。コマンダー本人には何が起きているのか理解出来ないだろうが俺には見えている、コマンダーの手足が影に沈んでいるその様子が。
グレイス本人は未だに首だけで眷族達に守られているような格好になっているが、どうやら少しだけ魔法の操作が可能になったようだな。まずはその状態を脱するのを先にするべきだと思うが、これはこれで助かるので良しとしよう。
おっとエレメンタルソードが消える前に回収して『補充』、からの再投擲っと。それを繰り返すこと暫く、ついに、
「ガアァァァァァァァ、アァァ、ア……」
断末魔を上げてゴブリンコマンダーは力尽きた。うむ、とりあえず勝つことは出来たな。しかし、スッキリしない勝ち方だ。こう、もっと命の削り合いみたいな感じになると思ったが、蓋を開けてみるとそんな事にはならなかったな。コマンダーに近付いて確認すると、どうやらエピタスがコマンダーの足下に深めの沼地を作った事が転倒の原因のようだ。つまりこの勝利は従魔達のおかげ、戦いが落ち着いたら食事を少々豪華にして振る舞うとしよう。
さて、状況の確認だ。残っているコマンダーは2体、騎士と戦っている方はまだ掛かりそうだが冒険者と従魔のパーティの方は言ってる間に終わりそうだ。さて、俺達はどう動こうか? とりあえず騎士達の援護をしながら他のゴブリンの掃討をするとしようか。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
それから俺達はログアウトギリギリまでファームに侵入しようとするゴブリン達と戦い続けた。幸いな事に俺が抜けるまでの死亡者はゼロ、怪我人は多数出たがカバー出来る範囲におさまってくれた。明日もこの調子でこなせれば良いのだが、どうなることやら。
エピタスの戦闘技術はシロツキの入れ知恵によるものです。決してエピタス本人やジンは関与していないのであしからず